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悪役令嬢は、本当に”バットエンド”ですか?

#4

第四章:奈落の底で、神獣の王は牙を剥く②

[太字][大文字]♥悪女と無実[/大文字][/太字]




ローザ・フォン・ブラント公爵令嬢を【常闇の黒森】へ追放してから、ジェラルド王国は奇妙な「終わりの始まり」を迎えていた。
王宮のきらびやかな夜会。第一王子・ジェラルドは、新しく婚約者の座に据えた「聖女」アリアの腰を抱き寄せ、上機嫌で高級なワインを煽っていた。

「どうだアリア、邪魔な悪女が消えて、ようやくこの国も清らかになった。すべては聖女であるお前の功績だ」

「はい、ジェラルド様! ローザ様がいた頃は、お部屋の空気がいつもピリピリしていて怖かったですもの。これからは、私の聖なる力で、この国をいっぱいの愛で満たしてあげますわ!」

アリアは計算高い笑みを隠し、ジェラルドの胸に甘えるように顔を寄せた。
集まった貴族たちも、最初は「これで安泰だ」と口々に二人を称賛していた。アウグスト公爵家を強引に取り潰し、その莫大な資産を国庫に収めたことで、一時的に国は潤っているように見えたからだ。
しかし、そんな夢のような時間は長続きしなかった。
最初の異変は、ローザが追放されてからわずか一ヶ月後に起きた。
王国の命綱である、四方の国境に張られた『大結界』の維持魔力が、突如として激減し始めたのだ。

「報告いたします! 北方の結界ラインが崩壊寸前です! 魔物の侵入が始まっています!」

「な、何だと!? すぐに魔導師団を向かわせろ! あと、アリア! お前の聖なる魔力で結界を補強するんだ!」

ジェラルドが焦って指示を出すが、アリアは美しい顔を青ざめさせ、激しく首を振った。

「えっ!? や、嫌ですわ、ジェラルド様! 結界の維持なんて、そんな泥臭くて疲れること、私にはできません! それに……私の聖なる魔力は、みんなを癒やすためのものですのよ!?」

「何を言っている! 聖女のお前なら、結界の基盤に魔力を流すくらい造作もないはずだろう!」

ジェラルドは知らなかった。
国境の『大結界』を維持するための複雑な数式を毎日計算し、寝る間も惜しんで自身の膨大な魔力を注ぎ込み、国を裏で支え続けていたのは――他でもない、彼が「生意気な悪女」と罵って追い出したローザだったということを。
アリアの持つ「聖なる魔力」とは、ただの治癒魔法の派生に過ぎず、国全体の結界を制御するような高度な術式など、これっぽっちも理解していなかったのだ。
さらに追い打ちをかけるように、財政破綻の足音が近づいていた。
アウグスト公爵家から没収した資産は、ジェラルドとアリアの贅沢な浪費、そして無能な側近たちの横領によって、あっという間に底を突いた。ローザが独自に運営していた商会や農地改革の計画も、彼女という頭脳を失ったことで完全に機能停止し、国内は深刻な大飢饉に陥りつつあった。

「ジェラルド様ぁ! お肌にいい最高級のマジッククリスタルが届かないのですけれど、どういうことですの!?」

「うるさい! 今はそれどころではない! なぜだ……なぜローザ一がいなくなっただけで、この国が崩壊しかけているんだ!?」

頭を抱えるジェラルドの元へ、一人の兵士が顔を真っ白にして駆け込んできた。

「ほ、報告します! 常闇の黒森から……かつてない規模の闇の魔力が溢れ出しています! 森の主――いや、魔王の軍勢が、我が国へ向けて進軍を開始しました!」

「な、何だと……!?」

ジェラルドの足が、ガタガタと恐怖に震え始めた。
数日後。ジェラルド王国の王都は、絶望の闇に包まれていた。
空を覆い尽くすほどの黒い雲。その中心から、地響きのような圧倒的な圧迫感が街全体へと降り注ぐ。
王城の城壁の上に避難したジェラルド、アリア、そして近衛兵たちの前に、空間を切り裂くようにして「それ」は現れた。
漆黒の翼を持つ巨大な魔族の軍勢。そしてその先頭、空中を滑るようにして現れたのは、息を呑むほど美しい、純白の漆黒の魔導馬車だった。
馬車の扉が開き、ゆっくりと姿を現した二人の存在に、ジェラルドは目を見開いた。

「ロ……ローザ……!? なぜお前が生きている……!?」

そこにいたのは、泥に汚れ、絶望して森へと消えたはずのローザだった。
しかし今の彼女は、かつてのどの姿よりも気高く、美しかった。夜空に輝く星屑を散りばめたような深紺のドレスを纏い、その首元には、王国の宝物庫にあるどれよりも輝かしい神獣の加護が宿る魔石のペンダントが光っている。
そして彼女の腰を、独占欲を隠そうともせずに力強く抱き寄せているのは、深紅の瞳を持つ圧倒的な美貌の男――魔王アルファードだった。

「お久しぶりですわね、ジェラルド殿下。それに、アリアさんも」

ローザの鈴を転がすような澄んだ声が、王城の隅々にまで響き渡る。

「ローザ! お前、魔族と手を組んでこの国を滅ぼしに来たのか!? やはりお前は、国を裏切る悪女だったんだ!」

ジェラルドが虚勢を張って怒鳴る。その隣で、アリアも「ひどいですわ、ローザ様! 自分のわがままで、こんな恐ろしい魔物を連れてくるなんて!」と涙を浮かべた。
その瞬間、アルファードの深紅の瞳が、凍りつくような冷徹な光を放った。

「黙れ、下劣な羽虫どもが」

アルファードが一言放っただけで、ジェラルドとアリアは凄まじい重圧に耐えかね、その場に激しく膝をついた。城壁の石床に顔を擦り付け、指一本動かすことができない。

「我が最愛の妻であり、魔界の偉大なる女王たるローザを、これ以上その汚い口で侮辱することは許さん。……ジェラルド、お前がローザに擦り付けた『冤罪』の数々、すべてこの場で暴いてやろう」

アルファードが指を鳴らす。すると、王都の空全体に、巨大な魔法の鏡が出現した。
そこに映し出されたのは、アリアが自らの部屋で毒蜘蛛を逃がし、自らの手で教科書を切り裂きながら、『これでローザを引きずり落とせるわ』と邪悪な笑みを浮かべる過去の記録映像だった。

「な、何だこれは……!?」

王都市民や、城内の貴族たちが一斉にざわめき立つ。

「さらに、お前たちがアウグスト公爵家を嵌めるために偽造した書類の原本、および隣国の密偵とアリアが交わしていた、この国を弱体化させるための通信記録だ。――すべて、ローザが残していた保全魔導具と、我が魔界の情報網によって暴かれた」

アルファードの容赦ない告発に、ジェラルドは驚愕の目をアリアに向けた。

「ア、アリア……お前、僕を騙していたのか……!? 聖女の力も、すべて嘘だったのか!?」
「ち、違うの、ジェラルド様! 私はただ、贅沢な暮らしがしたくて……ひっ、放して、放してください!」

真実を知った貴族や民衆からは、ジェラルドとアリアに対する激しい怒りの声が沸き起こった。

「私たちのローザ様を冤罪で追放しただけでなく、国を滅ぼしかけるとは!」
「無能な王子を引きずり降ろせ!」

「ローザ……!」 ジェラルドが、這いつくばりながらローザの靴元へ手を伸ばそうとする。

「すまない! 僕が悪かった! お前が結界を張ってくれなければ、この国は本当に滅びてしまうんだ! 戻ってきてくれ! もう一度、僕の王妃にしてやるから!」

その見苦しい姿に、ローザはただ、冷ややかな視線を向けた。

「お断りいたしますわ、ジェラルド殿下。私はもう、この国の人間ではありません。魔王アルファード様の、唯一無二の伴侶となることを誓った身ですもの」

ローザは隣に立つアルファードを見上げ、優しく微笑んだ。アルファードもまた、彼女に向ける瞳だけには、とろけるような甘い愛を宿している。

「ジェラルド。お前たちが犯した罪は、この国の法と、激怒した民衆によって裁かれるがいい。……我が妻を傷つけた代償、その身を以て一生をかけて償うのだな」

アルファードが再び手を掲げると、崩壊しかけていた国境の『大結界』が、完全に消滅した。ただし、魔族たちが人間を襲うことはない。ただ、ローザという「絶対的な守護者」を失ったこの国が、これから周辺の他国や野生の魔物に脅かされながら、徐々に没落していくことは目に見えていた。

「さようなら、私の過去(お荷物)たち。どうぞお幸せに」

ローザが優しく微笑み、アルファードの胸に寄り添うと、魔導馬車は再び闇の彼方へと消え去っていった。
残されたジェラルドとアリアは、激怒した近衛兵たちによってその場で拘束され、二度と這い上がれない奈落の底(地下牢)へと引き摺り込まれていったのだった。



すべての決着が着き、静寂を取り戻した魔王城の最上階。
バルコニーからは、美しい紫色の月と、きらめく星空が一面に広がっていた。
ローザは、アルファードの広い胸に背中を預け、心地よい夜風を浴びていた。彼の大きな手が、ローザの細い腰を後ろから包み込むようにしっかりと抱きしめている。

「終わったな、ローザ。これでもう、お前を遮るものは何もない」

「ええ……。アルファード様、本当にありがとうございました。私、あの国を出たときは、本当にすべてが終わったのだと思っていましたわ」

ローザが振り返り、アルファードの首に腕を回すと、彼は愛おしさが堪らないといった様子で、彼女の額、鼻先、そして唇に、優しく、けれど深いキスを落とした。

「終わったのではない。始まったのだ、お前と私の物語が。……ローザ、改めて私と結婚してほしい。お前が望むなら、この世界の半分を奪ってでも、お前を世界一幸せな女王にしてみせる」

「ふふ、世界の半分なんて必要ありませんわ。私はただ……アルファード様の隣で、こうして甘やかされているだけで、胸がいっぱいになるほど幸せですから」

ローザの言葉に、魔王の顔がふわりと極上に甘く綻ぶ。
人間の国を救うためにすり減らしていた彼女の心は、今、彼からの無限の愛と溺愛によって、完全に満たされていた。

「愛している、ローザ。私の命が尽きるその時まで、いや、魂が消滅しても、お前だけを愛し続けよう」

「私も愛しております、アルファード様。私、この魔界で……最高の旦那様と一緒に、絶対に幸せになって見せますわ!」

紫色の月明かりの下、二人は再び、永遠を誓う深い口づけを交わした。
かつて「悪役令嬢」と呼ばれた少女は、今、世界で最も優しく、最も過保護な魔王の腕の中で、極上のハッピーエンドを掴み取ったのだった。

作者メッセージ

今回のは、2話で読み切りです!!

2026/08/08 23:18

ふる003
ID:≫ 10.YZDmJ7U7Dk
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