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ガララ、と教室の引き戸が閉まる音が、今の私には酷く遠く感じられた。
柊くんと高橋さんの後ろ姿を見送った後、私はどうやって自分の荷物をまとめ、どうやって教室を出たのかすら覚えていない。
頭の中は、柊くんの「言えないんだ」という言葉が、まるで壊れたレコードのように何度も何度もリフレインしていた。
言えないって、どういう意味?
本当に妹みたいに思っているから、気まずくて言えないの?
それとも、他に好きな人がいるから……?
ぐるぐると渦巻く思考を抱えたまま、私は重い足取りで下駄箱へと向かった。
放課後の昇降口は、部活に向かう生徒たちの話し声や、帰宅を急ぐ人たちの足音で騒がしい。
なのに、私の周りだけ、ぽっかりとガラスの壁で隔てられているかのように静かだった。
ローファーに足を入れ、かかとをトントンと地面に打ち付ける。
その瞬間。
「ちょっと、紬ちゃん」
背後から、不意に名前を呼ばれた。
少し硬質な、けれど聞き覚えのある声。
驚いて振り返ると、そこにいたのはさっきまで柊くんの隣であざとく微笑んでいたはずの、高橋さんだった。
彼女はいつも男の子たちの前で見せる、ふにゃりとしたうわべの笑顔を完全に消し去っていた。
まっすぐに背筋を伸ばし、腕を組んで私を見下ろしている。
その瞳はひどく冷ややかで、けれど鋭い強い光を宿していた。
「あんた、柊くんのこと好きなんでしょ」
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
あまりにも直球すぎる言葉に、息が詰まる。
私の動揺は、隠そうとしても隠しきれなかった。泳いでしまう私の視線を見透かしたように、高橋さんはフッと口元の口紅を歪めた。
「やっぱりね。見てれば分かるわ」
彼女は一歩、私との距離を詰める。
かすかに甘い香水の匂いが鼻をかすめて、なぜだか急に敗北感のようなものが胸に込み上げてきた。
「でも、さっきの聞いたよね? 柊くん、『言えない』って言った。それって、あんたのことも『女として好きじゃない』ってことじゃない? ……つまり、まだ誰のものでもないってこと」
高橋さんは組んでいた腕を解き、髪を耳にかけながら、挑戦的な笑みを浮かべた。
「私、本気で柊くんのこと落としにいくから。あんたがそうやって、のんびり『幼馴染の妹』ってポジションに甘えて何もしないつもりなら、私、すぐに奪っちゃうよ?」
それだけを一方的に告げると、彼女は綺麗にターンをして、ヒールの音をカツカツと響かせながら去っていった。
その後ろ姿を見送る私の足は、まるで地面に縫い付けられたかのように一歩も動かなかった。
オレンジ色の夕暮れの光が、開け放たれた昇降口から差し込んで、私の影を長く不格好に伸ばしている。
悔しい。
悲しい。
怖い。
いろんな感情が混ざり合って、視界がじんわりと滲んでいく。
「言えない」という柊くんの濁された本音。
そして、高橋さんからの容赦のない宣戦布告。
もう、のんびり「臆病な妹」のフリをして逃げている時間なんて、私には一秒も残されていなかった。
柊くんと高橋さんの後ろ姿を見送った後、私はどうやって自分の荷物をまとめ、どうやって教室を出たのかすら覚えていない。
頭の中は、柊くんの「言えないんだ」という言葉が、まるで壊れたレコードのように何度も何度もリフレインしていた。
言えないって、どういう意味?
本当に妹みたいに思っているから、気まずくて言えないの?
それとも、他に好きな人がいるから……?
ぐるぐると渦巻く思考を抱えたまま、私は重い足取りで下駄箱へと向かった。
放課後の昇降口は、部活に向かう生徒たちの話し声や、帰宅を急ぐ人たちの足音で騒がしい。
なのに、私の周りだけ、ぽっかりとガラスの壁で隔てられているかのように静かだった。
ローファーに足を入れ、かかとをトントンと地面に打ち付ける。
その瞬間。
「ちょっと、紬ちゃん」
背後から、不意に名前を呼ばれた。
少し硬質な、けれど聞き覚えのある声。
驚いて振り返ると、そこにいたのはさっきまで柊くんの隣であざとく微笑んでいたはずの、高橋さんだった。
彼女はいつも男の子たちの前で見せる、ふにゃりとしたうわべの笑顔を完全に消し去っていた。
まっすぐに背筋を伸ばし、腕を組んで私を見下ろしている。
その瞳はひどく冷ややかで、けれど鋭い強い光を宿していた。
「あんた、柊くんのこと好きなんでしょ」
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
あまりにも直球すぎる言葉に、息が詰まる。
私の動揺は、隠そうとしても隠しきれなかった。泳いでしまう私の視線を見透かしたように、高橋さんはフッと口元の口紅を歪めた。
「やっぱりね。見てれば分かるわ」
彼女は一歩、私との距離を詰める。
かすかに甘い香水の匂いが鼻をかすめて、なぜだか急に敗北感のようなものが胸に込み上げてきた。
「でも、さっきの聞いたよね? 柊くん、『言えない』って言った。それって、あんたのことも『女として好きじゃない』ってことじゃない? ……つまり、まだ誰のものでもないってこと」
高橋さんは組んでいた腕を解き、髪を耳にかけながら、挑戦的な笑みを浮かべた。
「私、本気で柊くんのこと落としにいくから。あんたがそうやって、のんびり『幼馴染の妹』ってポジションに甘えて何もしないつもりなら、私、すぐに奪っちゃうよ?」
それだけを一方的に告げると、彼女は綺麗にターンをして、ヒールの音をカツカツと響かせながら去っていった。
その後ろ姿を見送る私の足は、まるで地面に縫い付けられたかのように一歩も動かなかった。
オレンジ色の夕暮れの光が、開け放たれた昇降口から差し込んで、私の影を長く不格好に伸ばしている。
悔しい。
悲しい。
怖い。
いろんな感情が混ざり合って、視界がじんわりと滲んでいく。
「言えない」という柊くんの濁された本音。
そして、高橋さんからの容赦のない宣戦布告。
もう、のんびり「臆病な妹」のフリをして逃げている時間なんて、私には一秒も残されていなかった。