如月
「ボク? 如月。よろしくおねがいしま〜す」
配送センターの廊下で、黒いワンピースをなびかせて歩く女性がいた。
[漢字]如月[/漢字][ふりがな]きさらぎ[/ふりがな]。
22歳。
彼女が通るたびに、ワンピースに描かれたクラゲの模様が、
まるで生きているかのように怪しく光る。
弥生
「如月さん、今日のお届け先はここやで。……あんた、
また嘘ついてサボったりせんといてや?」
空中から弥生が釘を刺すが、如月は赤い目を細めてクスクスと笑った。
如月
「サボる? まさかぁ。ボク、やる気満々ですよ。……嘘ですけど笑」
今回のターゲットは、厳重なセキュリティを誇る地下カジノのオーナー。
如月は真っ直ぐに正面から入り込み、ボディーガードたちの前に立った。
如月
「ボク、オーナーの隠し子なんです。……嘘ですけど笑」
彼女がそう呟いた瞬間、能力『嘘吐き』が発動した。
ありえない嘘が「真実」としてガードマンたちの脳に刷り込まれ、
誰も彼女を止めようとしない。
オーナーの部屋に辿り着いた如月は、優雅に刀を抜いた。
毎日研ぎ澄まされたその刃は、鏡のように彼女の赤い目を映している。
如月
「あなた、今『助けてくれ』って思いましたよね? ……
嘘を吐いちゃいけません。死ぬのが怖いんでしょ? ぼくと同じ、嘘吐きですねぇ」
お客様
「な、何なんだお前は!」
男が銃を向けた瞬間、如月の背後から青白く発光する無数の触手が伸びた。
[漢字]能力:海月姫[/漢字][ふりがな]くらげひめ[/ふりがな]
触手は鞭のようにしなり、男の腕を絡めとる。
毒性の痺れが男の身体を支配し、銃が床に落ちた。
如月
「きれいですね〜……あ、今の嘘です笑。死に顔、もっと汚くしてあげますね」
触手が男を吊り上げ、如月の刀が閃いた。一閃。
クラゲの触手に捕らえられた獲物は、逃げることも、嘘を吐くことも許されずに絶命した。
如月
「……任務完了。如月、怖〜い」
自分でそう言いながら、彼女は平然と受領票を回収した。
現場に浮遊して現れた弥生が、散らばった触手の破片を見て顔をしかめる。
弥生
「うっわぁ……後処理、ネバネバして大変そうやなぁ。
如月、あんたこれ片付けてから帰りや?」
如月
「はーい、わかりましたぁ」
如月は笑顔で答えたが、次の瞬間に舌を出した。
如月
「……嘘です笑。お先に失礼しま〜す!」
弥生
「あ、こら待て! 如月!」
嘘を撒き散らしながら、海月の如きしなやかさで去っていく22歳の配達員。
デッド・ラインにまた一人、一筋縄ではいかない「猛毒」が加わった。