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吸血天使は牙を折る。

#11

聖天使は任務に赴く。

 その瞬間、バンと大きな音を立てて戸が開いた。一瞬メーディアを見られてしまうと背筋が凍ったが、レルマ様だった。
「突然開けるのはよしてくださいよ……」
「アデナくん、18区に“キャンディー”が出たよ」
 レルマ様の鬼気迫る声の調子、それに――わざわざ隠語を使ったとなると、相当のものか。
「……“キャンディー”の特徴は」
「体長約2m、“ハニー”とみられてる。一般区民にはまだ被害なし、だって」
「分かりました。今から準備します、レルマ様は先に向かって対処していてください」
「うん、できる限り急いでね!じゃ!」
 レルマ様はそう言って私の家を出た。私は正装に着替えるために、上半身の衣服を脱いだ。そして、ふと動きを止めた。
「吸血……まだだったな」
「今、急いでいるんですよね?だったら僕のことなんかいいので――」
「飢餓状態になって暴れられても問題なんだ。それに……」
 その後は言わなかった。首元に口を付けやすいよう頭を傾ける。
「……ありがとうございます」
 治癒を繰り返して脆く柔くなった皮膚を、何度目かの牙が破る。痛みのあとに走る熱のような感覚にでも集中するか、もしくはしょうもないことを想像していれば、その他の感覚は鈍くなる。
 そのしょうもないことというのは例えば、なかなかこいつの吸血は下手くそなのではないかということ。無駄が多い。鎖骨を経由して胸板の方へ伝う血を親指で拭うと、その一連の動作の効率の悪さが目に見える。まぁ、吸血初心者にしては上出来なんだろうけど、昔に人間界で見た吸血鬼のやり方に比べてしまえばもうそこまでなのだ。
 そのときの吸血鬼も、人間も、どちらも1人で殺した。負傷しながら、必死に。彼らはあの頃の私にとって強敵すぎたのだ。……今から挑もうとしている、体長2mの“ハニー”程度には。
 そんな雑多で統一性のないことらをひたひた考えている内に、いつも吸血は終わる。
 治癒魔法は傷跡が残る程度に……。
 この間レルマ様が言ったことの意味はまだ理解できていない。けれど、あの人はあんなでも一応ベテランの枠に入る。きっと私の考えつかないようなことを計算しているのだろう。
 完全に治り切る前に魔法を止め、そして立ち上がった。
「……じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
 メーディアは不器用で、慣れていない笑みを浮かべた。
 あぁ、私はこの子のためにも帰らねばならないのか。
 この子のためにも、生きて帰らねばならないのだ。
 今までなかった“生きる理由”ができた――。
 私はその理由に背を向けて、戦うための服を取りに行った。

2025/10/31 07:28

◇Alice◇
ID:≫ 6.HwTpWbghe22
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