私が到着したときには、そこは惨状で満たされていた。
区民は見たところ避難が完了している。しかし建物は倒壊し、そこら中に天使と“キャンディー”の血が染みついている。
血生臭い。
この臭いにはもう慣れてはいるが、不快なのに変わりはない。
けれど、この世界は、今まで見たことのないほどの、それだった。
「アデナくん……っ!」
レルマ様が私の名を呼んだ。
負傷は頭部、左肩、左脇腹、右ももまで及ぶ。羽も幾らか抜け落ちている。レルマ様でこれだったら、私が治癒担当に回ったとしても、戦った聖天使全員の負傷を治癒力で賄える気がしない。
「酷い怪我……今治しますね」
「あのさアデナくん……あいつ、“ハニー”以上だった。これ以上魔気に指標がない」
血を拭いながら言った。
「アデナくん、[漢字]戦場[/漢字][ふりがな]あっち[/ふりがな]に出て」
その瞬間、私の身体に、詳しく言うと肩か背中あたりだが、戦場に向いた力が働いた。レルマ様の細い腕が、私をその方向へ押した。
「私はなんとかするから!アデナくんは即戦力になって‼」
目の前に立ちはだかる“キャンディー”――すなわち悪獣は、私の方にゆっくり向いた。
醜い。
稀にどころではなく、地獄に生まれた悪魔が自分の劣悪な生き様に絶望して、私たち天使に憧れ、白く輝く[漢字]天界[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]に上がってくる。けれど天界の清さに耐えられず、原形と理性が壊れる。その成れの果てが、悪獣。
悪獣になる者は皆、天使になるだけの覚悟と正義がある。天界の清さに耐性がありさえすれば、天使として生まれ変わることもできる。しかしそれはほんのひと握り。その他の悪魔は、心にポテンシャルがあろうと、天使を殺す兵器になる。強ければ強いほど、天使や悪獣にもその強さが反映される。
構えろ。さもなくば殺されるぞ、アデナ。
息をゆっくり吸って地を蹴る。目指すはその首、息の根。槍の先に魔法を溜める。その力を、まっすぐその命へと向ける。自らの羽を、大きく、大きく舞わせる。
私はもう子供じゃない。
槍の先は確かにその身を貫いた。刺す時も引き抜く時も肉を引き裂くように彫られた白い石の槍を、力任せに引き抜く。悪獣の悲鳴のような咆哮が空に響く。口に入った、えぐみのある邪悪な味をした血。
急所を僅かに逃した。
それは悪獣も同じだった。
心臓から指4本分左にずれた辺りの深い切り傷から、赤黒い血が流れ落ちる。
人間と全く同じ場所に心臓を持ち、神経を持ち、内蔵を持ち、脳を持つ私たちの急所は、当然見抜かれていた。
激痛。
かすれた声が、小さく漏れる。
痛がっている暇などないのだ。傷口に指を当て、治癒魔法を使う。
この戦いで、一体何人が死ぬのだろうか。
メーディアは、私の帰りを待てるだろうか……。
区民は見たところ避難が完了している。しかし建物は倒壊し、そこら中に天使と“キャンディー”の血が染みついている。
血生臭い。
この臭いにはもう慣れてはいるが、不快なのに変わりはない。
けれど、この世界は、今まで見たことのないほどの、それだった。
「アデナくん……っ!」
レルマ様が私の名を呼んだ。
負傷は頭部、左肩、左脇腹、右ももまで及ぶ。羽も幾らか抜け落ちている。レルマ様でこれだったら、私が治癒担当に回ったとしても、戦った聖天使全員の負傷を治癒力で賄える気がしない。
「酷い怪我……今治しますね」
「あのさアデナくん……あいつ、“ハニー”以上だった。これ以上魔気に指標がない」
血を拭いながら言った。
「アデナくん、[漢字]戦場[/漢字][ふりがな]あっち[/ふりがな]に出て」
その瞬間、私の身体に、詳しく言うと肩か背中あたりだが、戦場に向いた力が働いた。レルマ様の細い腕が、私をその方向へ押した。
「私はなんとかするから!アデナくんは即戦力になって‼」
目の前に立ちはだかる“キャンディー”――すなわち悪獣は、私の方にゆっくり向いた。
醜い。
稀にどころではなく、地獄に生まれた悪魔が自分の劣悪な生き様に絶望して、私たち天使に憧れ、白く輝く[漢字]天界[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]に上がってくる。けれど天界の清さに耐えられず、原形と理性が壊れる。その成れの果てが、悪獣。
悪獣になる者は皆、天使になるだけの覚悟と正義がある。天界の清さに耐性がありさえすれば、天使として生まれ変わることもできる。しかしそれはほんのひと握り。その他の悪魔は、心にポテンシャルがあろうと、天使を殺す兵器になる。強ければ強いほど、天使や悪獣にもその強さが反映される。
構えろ。さもなくば殺されるぞ、アデナ。
息をゆっくり吸って地を蹴る。目指すはその首、息の根。槍の先に魔法を溜める。その力を、まっすぐその命へと向ける。自らの羽を、大きく、大きく舞わせる。
私はもう子供じゃない。
槍の先は確かにその身を貫いた。刺す時も引き抜く時も肉を引き裂くように彫られた白い石の槍を、力任せに引き抜く。悪獣の悲鳴のような咆哮が空に響く。口に入った、えぐみのある邪悪な味をした血。
急所を僅かに逃した。
それは悪獣も同じだった。
心臓から指4本分左にずれた辺りの深い切り傷から、赤黒い血が流れ落ちる。
人間と全く同じ場所に心臓を持ち、神経を持ち、内蔵を持ち、脳を持つ私たちの急所は、当然見抜かれていた。
激痛。
かすれた声が、小さく漏れる。
痛がっている暇などないのだ。傷口に指を当て、治癒魔法を使う。
この戦いで、一体何人が死ぬのだろうか。
メーディアは、私の帰りを待てるだろうか……。