何故、私は、天界全体を敵に回してまでメーディアを生かしたかったのか。自分でもよく分かっていないけど、でも後悔はしてないし、これからも絶対にしない。
けれど天使たちを守らなければいけないのは事実なので、自分の身を削るしかない。もしそれができないなら――。
私は、武器立てに立てかけられた槍を見た。
もし自分の心身が壊れそうになったら、取り返しのつかないことになる前に、メーディアを殺す。
私がしたことは、それだけの覚悟がないとしてはいけないことだったのだから。
「メーディア?」
私は思いついたことを伝えるために、ドア越しに声をかけた。
あれから数時間、メーディアは寝室に籠ったまま返事もしない。
「……大丈夫だから開けてくれ」
微かに、荒い呼吸音が聞こえる。600年生きて、そのうち500年を全天使のために捧げてきたからこそ聞き分けられる、自己嫌悪と恐怖、後悔、そして、生と死の両方を願う[漢字]呼吸[/漢字][ふりがな]いき[/ふりがな]。
そんな呼吸をする者はほとんど、世界が見えなくなっている。自分の過去とわずか30cmの正面しか見えなければ、そりゃあ自分のために差し出された手なんて見つけられるわけがない。
「……開けていいか?」
返事を、とりあえず待ってみる。
「入るぞ」
ノブを押そうとしたが、声がした。
「……こないで、ください」
小さな震える声で、独り言みたいに言ったのが聞こえた。
「殺してもくれないなら、僕は……飢えて死ぬことしかできないんです」
息の震えは収まることを知らず、ただ漏れては戻っていく。
残酷だ。自分の一生に絶望して死を望む者に限って速いテンポで、命の証が口から出ては戻って。
……やはり、この子供を生かしたいという私の願望は、罪だ。
何度目だ、この問いに揺らぎ、迷うのは。
けれど、後悔はしたくないんだ。
ドアという1枚きりの板を挟んだまま、呼んだ。
「メーディア」
「……なんですか」
「お前は、吸血天使だ」
「知ってますよ……そんなこと」
「じゃないと困るだろ。[漢字]だから[/漢字][ふりがな]・・・[/ふりがな]、」
私は続けて言った。
「血を吸うのは、私だけにしないか」
「……え?」
メーディアは困惑した声を出した。予想できた反応だ。
「私が必死に考えた結果なんだ。メーディアが生きながら、誰にも迷惑をかけないで過ごせる方法」
「なんでですか……それじゃ、僕は貴方を」
「私は」
遮った。そうでもしなきゃ、何度目かの決心が、また壊れてしまうから。
「私はいいんだ。大丈夫だ。そうでもして、“生きたい”お前を生かしたい」
あの時、呼吸で分かった。メーディアは矛盾した[漢字]感情[/漢字][ふりがな]おもい[/ふりがな]に駆られている……と『錯覚』しているんだと。
皆に迷惑しかかけられないから、死にたい。
違うんだろう?本当は。
生きたいんだけれども、こんな自分じゃ生きてはいけない。自分は死ぬべき存在だ。
そんな勘違いで、死にたいとか思うな。
「自分に正直に、生きてくれ」
言おうと思っていた以上に、言ってしまった。
ドアの向こうで、衣擦れの音がした。そして、ドアが開いた。
メーディアは申し訳なさそうな猫背で私を見つめていた。僅かに私より背が高いので、これでやっと身長がおあいこなのだ。
「……僕、生きてもいいんですか……?」
私は迷わず答えた。
「あぁ、もちろんだよ」
けれど天使たちを守らなければいけないのは事実なので、自分の身を削るしかない。もしそれができないなら――。
私は、武器立てに立てかけられた槍を見た。
もし自分の心身が壊れそうになったら、取り返しのつかないことになる前に、メーディアを殺す。
私がしたことは、それだけの覚悟がないとしてはいけないことだったのだから。
「メーディア?」
私は思いついたことを伝えるために、ドア越しに声をかけた。
あれから数時間、メーディアは寝室に籠ったまま返事もしない。
「……大丈夫だから開けてくれ」
微かに、荒い呼吸音が聞こえる。600年生きて、そのうち500年を全天使のために捧げてきたからこそ聞き分けられる、自己嫌悪と恐怖、後悔、そして、生と死の両方を願う[漢字]呼吸[/漢字][ふりがな]いき[/ふりがな]。
そんな呼吸をする者はほとんど、世界が見えなくなっている。自分の過去とわずか30cmの正面しか見えなければ、そりゃあ自分のために差し出された手なんて見つけられるわけがない。
「……開けていいか?」
返事を、とりあえず待ってみる。
「入るぞ」
ノブを押そうとしたが、声がした。
「……こないで、ください」
小さな震える声で、独り言みたいに言ったのが聞こえた。
「殺してもくれないなら、僕は……飢えて死ぬことしかできないんです」
息の震えは収まることを知らず、ただ漏れては戻っていく。
残酷だ。自分の一生に絶望して死を望む者に限って速いテンポで、命の証が口から出ては戻って。
……やはり、この子供を生かしたいという私の願望は、罪だ。
何度目だ、この問いに揺らぎ、迷うのは。
けれど、後悔はしたくないんだ。
ドアという1枚きりの板を挟んだまま、呼んだ。
「メーディア」
「……なんですか」
「お前は、吸血天使だ」
「知ってますよ……そんなこと」
「じゃないと困るだろ。[漢字]だから[/漢字][ふりがな]・・・[/ふりがな]、」
私は続けて言った。
「血を吸うのは、私だけにしないか」
「……え?」
メーディアは困惑した声を出した。予想できた反応だ。
「私が必死に考えた結果なんだ。メーディアが生きながら、誰にも迷惑をかけないで過ごせる方法」
「なんでですか……それじゃ、僕は貴方を」
「私は」
遮った。そうでもしなきゃ、何度目かの決心が、また壊れてしまうから。
「私はいいんだ。大丈夫だ。そうでもして、“生きたい”お前を生かしたい」
あの時、呼吸で分かった。メーディアは矛盾した[漢字]感情[/漢字][ふりがな]おもい[/ふりがな]に駆られている……と『錯覚』しているんだと。
皆に迷惑しかかけられないから、死にたい。
違うんだろう?本当は。
生きたいんだけれども、こんな自分じゃ生きてはいけない。自分は死ぬべき存在だ。
そんな勘違いで、死にたいとか思うな。
「自分に正直に、生きてくれ」
言おうと思っていた以上に、言ってしまった。
ドアの向こうで、衣擦れの音がした。そして、ドアが開いた。
メーディアは申し訳なさそうな猫背で私を見つめていた。僅かに私より背が高いので、これでやっと身長がおあいこなのだ。
「……僕、生きてもいいんですか……?」
私は迷わず答えた。
「あぁ、もちろんだよ」