煤汚れたその身体を見て、私は思考停止してしまった。
……本物、なのか……?
もうゴミ捨てには遅い時間だったので、誰も後から来なかった。
虫が湧いていることはゴミ捨て場だからと言って逃げられるが、黒と赤で構成されるその天使の身体はやせ細り、傷口は腐っているようにも見える。放っておけば、1日ももたないだろう。
逃げ出したいという衝動が、蛆虫のように背を這った。
マナーの悪いゴミ捨てや不法投棄が増えていた理由を――そして、改めて、天使の心のなかに巣食う、天使らしからぬ“真っ黒なもの”の存在を、分かってしまった。
傷は確実に、天使の悪意によって作られたものなのだろう……。
その胸が、静かに上下している。
……生きている。
分かっていたけれど、解ってはいなかったのだと気づいた。
そして、同時に――この子供は、天使だったのだと気づいた。
吸血鬼というのは、人間の血だけでは飽き足らず、自分の“真っ黒なもの”の気配をひた隠しにして天界に忍び込み、天使を襲うことがある。
けれど、まだ血を吸ったことのない雑魚でも、強力な力を持つ吸血鬼だろうと、皆等しく上流天使以上の光の力には敵わない。だから、賢い吸血鬼は、余程のことがない限り天界には来ない。
しかし、能無しの癖をして運の良い雑魚が、稀に天界に紛れ込む。そこまでは私も知っていたし、実際にそういう吸血鬼を仕事として退治したことがある。
そして更に運の良い奴らが、成熟した魔力を持つ天使に出会う前に都合のいい程度の子供を襲うんだそうだ。
話として聞いただけなのだが、吸血鬼に血を吸われた天使も吸血鬼化してしまうらしい。
吸血天使と呼ばれるようになった彼らは、天使のみを吸血対象とする。しかし血を吸った相手を吸血化させない。
しかし、彼らは“一応”天使に危害を加える存在として、天界で1番の邪魔者になった。
先程とは打って変わって、代わりに私の中を走ったのは、
「今、助けてやる」
出所不明の使命感だった。
近くに不法投棄されていたナイフ(本来であれば、鋭利なものは天界ゴミ処理場に運ばなければいけない)を手にし、自分の左腕を切った。痛みとともに赤い血が流れ出て、肘からぽたりぽたりと滴り落ちた。
「飲めるか?」
微かに吸血天使の口が歪み、開いた。
傷をその口に当てると、僅かに血を舐めた。……血を舐める度に、身体中の傷が治っていくのが目に見えて分かった。
この“元”天使を、命を、助けなければ。
使命感が強く、強く私を覆った。
……本物、なのか……?
もうゴミ捨てには遅い時間だったので、誰も後から来なかった。
虫が湧いていることはゴミ捨て場だからと言って逃げられるが、黒と赤で構成されるその天使の身体はやせ細り、傷口は腐っているようにも見える。放っておけば、1日ももたないだろう。
逃げ出したいという衝動が、蛆虫のように背を這った。
マナーの悪いゴミ捨てや不法投棄が増えていた理由を――そして、改めて、天使の心のなかに巣食う、天使らしからぬ“真っ黒なもの”の存在を、分かってしまった。
傷は確実に、天使の悪意によって作られたものなのだろう……。
その胸が、静かに上下している。
……生きている。
分かっていたけれど、解ってはいなかったのだと気づいた。
そして、同時に――この子供は、天使だったのだと気づいた。
吸血鬼というのは、人間の血だけでは飽き足らず、自分の“真っ黒なもの”の気配をひた隠しにして天界に忍び込み、天使を襲うことがある。
けれど、まだ血を吸ったことのない雑魚でも、強力な力を持つ吸血鬼だろうと、皆等しく上流天使以上の光の力には敵わない。だから、賢い吸血鬼は、余程のことがない限り天界には来ない。
しかし、能無しの癖をして運の良い雑魚が、稀に天界に紛れ込む。そこまでは私も知っていたし、実際にそういう吸血鬼を仕事として退治したことがある。
そして更に運の良い奴らが、成熟した魔力を持つ天使に出会う前に都合のいい程度の子供を襲うんだそうだ。
話として聞いただけなのだが、吸血鬼に血を吸われた天使も吸血鬼化してしまうらしい。
吸血天使と呼ばれるようになった彼らは、天使のみを吸血対象とする。しかし血を吸った相手を吸血化させない。
しかし、彼らは“一応”天使に危害を加える存在として、天界で1番の邪魔者になった。
先程とは打って変わって、代わりに私の中を走ったのは、
「今、助けてやる」
出所不明の使命感だった。
近くに不法投棄されていたナイフ(本来であれば、鋭利なものは天界ゴミ処理場に運ばなければいけない)を手にし、自分の左腕を切った。痛みとともに赤い血が流れ出て、肘からぽたりぽたりと滴り落ちた。
「飲めるか?」
微かに吸血天使の口が歪み、開いた。
傷をその口に当てると、僅かに血を舐めた。……血を舐める度に、身体中の傷が治っていくのが目に見えて分かった。
この“元”天使を、命を、助けなければ。
使命感が強く、強く私を覆った。