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僕は君が好き。たとえ君が君じゃなくても。

 わたしの記憶と感情は事故でなくなってしまった。



 忘れてしまったものを取り返す気力もなかった。

 わたしには親がいないらしい。だから治療も大してできず、わたしは何も思い出さなかった。

 名前も教えてもらったけど、なんだか嫌いな響きだ。

 わたしが住んでたのは、遠い県の孤児院だと聞いている。

 けど、わたしに対応できる病院がここしかなかったんだそうだ。

 なんだか、そこに戻ったらわたしはその子になっちゃいそうだった。

 だから、わたしは半端な治療のまま、病院をこっそり抜け出した。

 どこに行けばいいんだろう。

 少しさまよっていると、怪しいおじさんに話しかけられた。

「お前、今の名前を捨てたいんだろう?」

「……はい」

 その日、わたしは、その組織の少女になった。

 マリーという名と[漢字]拳銃[/漢字][ふりがな]ピストル[/ふりがな]を持って、わたしは仕事を始めた。

 わたしはその世界の才能があったみたいだ。

 そのことと、わたしが感情を持たず仕事をやれることで、わたしは一時、裏社会で有名だった。

 わたしはこの人生に不満はなかった。



 撃てない。

 いや、1度、たしかに撃った。

 その証拠に、正面にいる青年は血を流して、口からも血を吐いている。

 でも、急所を外したその手は、2発目を撃つのを拒絶した。

 なぜできない?

 構える手は震えるまま。

 そのうち、青年は言った。

「つむぎちゃん……だよね」

 それは。

 何故この男が、その名前を知っている?

「久しぶり――だけど、まさかそんな仕事してたなんて。内気なつむぎちゃんらしくないよ」

「お前……わたしを知ってるのか?」

「……忘れちゃった?」

 だよね、とそいつは言った。

「もう、つむぎちゃんがいなくなって6年になるんだもんね」

「……もうその名を口にするな。撃つぞ」

 私は、記憶のある中で初めて、焦りを感じた。

「……やだよ。どうせ僕、死んじゃいそうだし」

 弾は、彼の心臓のそばを貫いていた。

 ……もう撃つのはやめだ。放っといてもこいつは勝手に死ぬ。弾だって[漢字]無料[/漢字][ふりがな]タダ[/ふりがな]じゃないんだ。

「最期にさ、言わせてよ」

 そいつは微笑んだ。

[下線]「つむぎちゃん――好きだよ。僕は、つむぎちゃんが好き。たとえ、つむぎちゃんがマリーになっていても」[/下線]

 そっと、目を閉じた。

 そのまま、彼が目を覚ますことはなかった。

 その顔を見ていると……わたしは息ができなくなった。

 すべて、思い出した。

 わたしは……。

 耐えきれなくなったわたしは、真っ赤に染まったその唇にキスをした。

 ――この世界は、あんなに純粋無垢だったこどもに血を染み付かせる程に、残酷だ。



[水平線]



 数日後、わたしの属していた組織が崩壊した。

 新しいボスが行方不明になったそうだ。代わりが見つからなかったらしい。

 わたしは、今度こそ居場所をなくした。

 わたしは今すぐ、つむぎとして死ぬことにした。幼いころ、あの男と、結婚するとか約束したんだ。

 つむぎちゃん大好き。ずっと一緒にいようね。

 無垢な子供の声、今なら鮮明に思い出せる。

 さいごの弾をセットして、銃口を頭に突き付ける。金属のいやな冷たさが額を伝う。

 深呼吸を1回して、わたしは、ゆっくり引き金を引いた。

 ……うちのボスと、その幼馴染の声が、同じだったことを思い出しながら。

作者メッセージ

ノリで書きました。

2025/05/16 21:42

◇Alice◇
ID:≫ 6.HwTpWbghe22
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