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奇怪な生物や狂気的な奴が出てきたり、殺人の描写がちょっとだけあります。
薬が袋から漏れ出して、夜空の足元を濡らした。
夜空は、点滴スタンドに引っ掛けた上着から手を離すこともできなかった。
それが、大切な弟である朝陽の命。
それは知ってた。分かってた。
だから、どうすることもできなかった。
どうしよう。どうしよう。何をすればいい?わかるのに、わからない。
何もできない。
僕のせいで、朝陽が死んでしまう。
僕が、朝陽を殺してしまう。
でも、身体が、動かない。言う事を聞かない。
息もできない。
「に……ちゃ……」
酸素マスクの奥から、苦しそうな朝陽の声が聞こえる。
嫌、
嫌。
死なないで。
お願いだから。
心拍数を知らせる電子音が、だんだんとおかしくなっていく。
狂っていく音。
歪んで聞こえる。
遠い音。
壊れて聞こえる。
――やがて、遠くで、まっすぐに音が伸びた。
末期だった弟の寿命を、さらに縮めてしまった。
享年12歳。
葬式は機械的に進められた。
夜空が唯一鮮明に覚えてるのは、葬式の帰りの車で母親が独り言のように呟いた言葉だった。
「朝陽は夜空と違って優秀だったのに。人殺し……」
それから、家はカサついた空気が充満した、不快な空間になった。
夜空は、弟の死という大きな出来事に、適応できなかった。
人殺し。
それが、ずっと胸につっかえて、取れなかった。
息をするのも億劫な世界だった。
1回忌が終わって数日経った日。
夜空は、母と食卓を囲んだ。
夜空の母は、ここ数日、取り乱していた。
夜空のことを人殺しと言って罵倒するのが、最早、日課になりつつあった日のことだ。
手抜きな惣菜をぐちゃぐちゃに皿に並べた、申し訳程度の夕食に箸をつけて、母は、実の息子に対して、こう言ってしまった。
「朝陽じゃなくて、あんたが死ねばよかったのに」
我に返ると、夜空は手に花瓶を持っていた。
目の前で、母が頭から血を流して倒れていた。
「……え、」
夜空は飲み込めなかった。
「噓……」
途端、夜空に聞こえるはずのない母の声が聞こえた。
[太字]人殺し。[/太字]
あぁ、僕は、本物の人殺しになってしまった。庇いようのない、本物になってしまった。
僕は、今度こそ、罪を犯した。
夜空は、血に濡れていない左手で、無意識のうちに父に電話をかけていた。
「父さんどうしよう、母さんのこと、殺しちゃった……」
妙に感情を感じないかすれた声で、父に話した。
なんでこんなことをしたのかは分からない、とも。
『わかった。警察には父さんが話しておくから、落ち着いて待ってなさい』
そこで、電話が切れた。
夜空の心は、もう既に壊れていたようだった。
先程まで持っていた花瓶を手に持った。
そして、自分の頭上に掲げ、思い切り強く、振り下ろした。
『速報です。__県__市の住宅で、妻を殺害し、息子に重症を負わせた逢坂容疑者(45)が今朝、無期懲役を宣告されました。逢坂容疑者は今月20日、「妻を殺した」と警察に通報しました。容疑者を知る方は、「優しくてそんなことする人じゃない」と、彼の人柄を語りました。凶器はいまだに見つかっていませんが、検察の調べによると、容疑者は鈍器で犯行に及んだとみられています』
「……なんで、殺しなんかしちゃったんだろ」
ニュース速報を見て、記憶障害を患い冤罪に気づけない夜空は呟いた。
薬が袋から漏れ出して、夜空の足元を濡らした。
夜空は、点滴スタンドに引っ掛けた上着から手を離すこともできなかった。
それが、大切な弟である朝陽の命。
それは知ってた。分かってた。
だから、どうすることもできなかった。
どうしよう。どうしよう。何をすればいい?わかるのに、わからない。
何もできない。
僕のせいで、朝陽が死んでしまう。
僕が、朝陽を殺してしまう。
でも、身体が、動かない。言う事を聞かない。
息もできない。
「に……ちゃ……」
酸素マスクの奥から、苦しそうな朝陽の声が聞こえる。
嫌、
嫌。
死なないで。
お願いだから。
心拍数を知らせる電子音が、だんだんとおかしくなっていく。
狂っていく音。
歪んで聞こえる。
遠い音。
壊れて聞こえる。
――やがて、遠くで、まっすぐに音が伸びた。
末期だった弟の寿命を、さらに縮めてしまった。
享年12歳。
葬式は機械的に進められた。
夜空が唯一鮮明に覚えてるのは、葬式の帰りの車で母親が独り言のように呟いた言葉だった。
「朝陽は夜空と違って優秀だったのに。人殺し……」
それから、家はカサついた空気が充満した、不快な空間になった。
夜空は、弟の死という大きな出来事に、適応できなかった。
人殺し。
それが、ずっと胸につっかえて、取れなかった。
息をするのも億劫な世界だった。
1回忌が終わって数日経った日。
夜空は、母と食卓を囲んだ。
夜空の母は、ここ数日、取り乱していた。
夜空のことを人殺しと言って罵倒するのが、最早、日課になりつつあった日のことだ。
手抜きな惣菜をぐちゃぐちゃに皿に並べた、申し訳程度の夕食に箸をつけて、母は、実の息子に対して、こう言ってしまった。
「朝陽じゃなくて、あんたが死ねばよかったのに」
我に返ると、夜空は手に花瓶を持っていた。
目の前で、母が頭から血を流して倒れていた。
「……え、」
夜空は飲み込めなかった。
「噓……」
途端、夜空に聞こえるはずのない母の声が聞こえた。
[太字]人殺し。[/太字]
あぁ、僕は、本物の人殺しになってしまった。庇いようのない、本物になってしまった。
僕は、今度こそ、罪を犯した。
夜空は、血に濡れていない左手で、無意識のうちに父に電話をかけていた。
「父さんどうしよう、母さんのこと、殺しちゃった……」
妙に感情を感じないかすれた声で、父に話した。
なんでこんなことをしたのかは分からない、とも。
『わかった。警察には父さんが話しておくから、落ち着いて待ってなさい』
そこで、電話が切れた。
夜空の心は、もう既に壊れていたようだった。
先程まで持っていた花瓶を手に持った。
そして、自分の頭上に掲げ、思い切り強く、振り下ろした。
『速報です。__県__市の住宅で、妻を殺害し、息子に重症を負わせた逢坂容疑者(45)が今朝、無期懲役を宣告されました。逢坂容疑者は今月20日、「妻を殺した」と警察に通報しました。容疑者を知る方は、「優しくてそんなことする人じゃない」と、彼の人柄を語りました。凶器はいまだに見つかっていませんが、検察の調べによると、容疑者は鈍器で犯行に及んだとみられています』
「……なんで、殺しなんかしちゃったんだろ」
ニュース速報を見て、記憶障害を患い冤罪に気づけない夜空は呟いた。