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過去も現在も重いんで病んでる方は即閉じてください‼
「安っ……」
この辺りでは見慣れない中学校の制服を着た女子が、不動産屋の前で呟いた。
「あ、事故物件なんだ、ここ」
彼女、[漢字]菜花[/漢字][ふりがな]なばな[/ふりがな]せりあは中学3年生。進学が決定した高校のそばで一人暮らしを始める予定なので、部屋を借りに来た……のだが、母がケチすぎてなかなか決まらない。
……もう事故物件でいいかな。
せりあはもう半ばあきらめていた。
景色良。
クーラーあり。
IHキッチン。
大きなクローゼット。
床暖。
築40年のアパートで唯一リフォームされたこの部屋は、異様なほどに綺麗だ。ここにあの格安料金で住まわせてもらっていいのだろうか……。
荷解きをし、カーテンを取り出す。よっ、とつま先立ちをしてカーテンを取り付けようとしたせりあの目に入ったのは、お札だった。見渡すと、部屋の四隅に貼ってある。
そっか。ここ、事故物件なんだよな。
……なんか蒸し暑いな。それにお腹すいてきた。
「ご飯食べよ」
そう独り言を言った。
窓を開けて、電気を消して、お財布持って、鍵も持つ。さすがに4階には泥棒も入れまい。そして1円もないこの部屋に盗みの需要なんて1㎜だってないだろう。
「……行ってきます」
誰もいないけれど、そう言った。
鍵を閉めた途端、突風が吹いた。
「きゃっっ」
今の風でハーフアップがバタバタになってしまった。
「家の中、駄目になってないよね……?」
でも、飛びそうなものは出していないはず……。
まぁいっか、と靴をちゃんと履いて、せりあは歩き始めた。
[中央寄せ]「いってらっしゃい……なんて、聞こえるはずないんだけど」[/中央寄せ]
雨上がりの蒸し暑さだったのだろう。道路は濡れていて、各所に水たまりができていた。札のような紙や、テストのプリントや、いろいろなものがその大きな水たまりに沈んでいた。
「うーわ、なんで」
そう言いながらテストを摘まみ上げると、0点……いや、97点だ。2本線で消されて、0点に書き換えられている。回答欄がぐるぐると塗られていた。
[下線]氏名 [打消し]水俣沙耶[/打消し][/下線]←バカw
鳥肌が立った。手が震える。
―この子の学校名は?
テストの中に何か書いていないか探すも、そんなものなかった。
―この子は大丈夫なの?
テストでわかるはずなかった。
私は、この子を救えないんだ……。
せりあの頭の中はどんどん濁っていった。
もう、今日の夕ご飯を自分で作る気力もなくなってしまったので、近くにあったコンビニに重い足を運んだ。
「ただいま」
「……おかえり」
家に帰ると、俯いたまま、当然のようにそこに座り込んだ足のない少年が言った。
「……え」
せりあはサンドイッチとスムージーの入ったレジ袋を落とした。
「誰……?」
少年は、見まわしてその『誰』と呼ばれている人を探した。
「誰のこと……?」
「誰のこと、って、君の」
「……え、僕?」
「うん」
「見えてる?」
「うん」
「なんで?」
「それを今日ここに越してきた私に言われても」
「……あ、お札が」
「え?お札?」
せりあと少年はそろって壁を見る。1枚、2枚、3枚……あ、1枚ない!
(もしかして……‼)
せりあは何も言わずに部屋を飛び出した。行く先はただ一つ。あの水たまりだ。
だが、そこに着いて、せりあは絶望した。
「おりゃっ‼」
「うわっ、やったな~‼」
長靴をはいた2人の[漢字]男子児童[/漢字][ふりがな]クsoガキ[/ふりがな]に、雪合戦の雪玉のように投げ合いされていた。びしょびしょになったその2枚の紙屑は、もうすでにボロボロだった。
「ねーちゃん、それかえして」
「おれたち、まだあそびたいんだけど」
「……はい」
そう言って、2人にもう機能しないだろう紙を渡して、元来た道を通って帰った。
「で、君は誰なの?」
3月にしては汗をかいたせりあは、少年に聞いた。少年は、むすっとしたような、それでいて悲しそうな顔で答えた。
「……教えない」
「ここ、事故物件なんだけど、それは君が死んだから?」
「うん」
「……ここでご飯食べていい?」
「あなたの家なんだから、お好きにどうぞ」
せりあは、袋から夕飯を取り出し、蓋を開けて食べ始めた。
「食べないの?君は」
「……いい」
(食べてみたいけど……)
少年は心の中で呟いた。
無表情で座っている少年に見られているのは、なんて食べづらいんだろう。
せめて何かしらの表情があれば……。
せりあは立ち上がった。そして、少年の頭を撫でた。
「⁉」
「元気出してよ」
突然撫でられ、驚きが隠せない少年。
少し経つと、少年の緊張していた身体から力が抜けた。
「……ふふっ」
少年は優しく微笑んだ。
この辺りでは見慣れない中学校の制服を着た女子が、不動産屋の前で呟いた。
「あ、事故物件なんだ、ここ」
彼女、[漢字]菜花[/漢字][ふりがな]なばな[/ふりがな]せりあは中学3年生。進学が決定した高校のそばで一人暮らしを始める予定なので、部屋を借りに来た……のだが、母がケチすぎてなかなか決まらない。
……もう事故物件でいいかな。
せりあはもう半ばあきらめていた。
景色良。
クーラーあり。
IHキッチン。
大きなクローゼット。
床暖。
築40年のアパートで唯一リフォームされたこの部屋は、異様なほどに綺麗だ。ここにあの格安料金で住まわせてもらっていいのだろうか……。
荷解きをし、カーテンを取り出す。よっ、とつま先立ちをしてカーテンを取り付けようとしたせりあの目に入ったのは、お札だった。見渡すと、部屋の四隅に貼ってある。
そっか。ここ、事故物件なんだよな。
……なんか蒸し暑いな。それにお腹すいてきた。
「ご飯食べよ」
そう独り言を言った。
窓を開けて、電気を消して、お財布持って、鍵も持つ。さすがに4階には泥棒も入れまい。そして1円もないこの部屋に盗みの需要なんて1㎜だってないだろう。
「……行ってきます」
誰もいないけれど、そう言った。
鍵を閉めた途端、突風が吹いた。
「きゃっっ」
今の風でハーフアップがバタバタになってしまった。
「家の中、駄目になってないよね……?」
でも、飛びそうなものは出していないはず……。
まぁいっか、と靴をちゃんと履いて、せりあは歩き始めた。
[中央寄せ]「いってらっしゃい……なんて、聞こえるはずないんだけど」[/中央寄せ]
雨上がりの蒸し暑さだったのだろう。道路は濡れていて、各所に水たまりができていた。札のような紙や、テストのプリントや、いろいろなものがその大きな水たまりに沈んでいた。
「うーわ、なんで」
そう言いながらテストを摘まみ上げると、0点……いや、97点だ。2本線で消されて、0点に書き換えられている。回答欄がぐるぐると塗られていた。
[下線]氏名 [打消し]水俣沙耶[/打消し][/下線]←バカw
鳥肌が立った。手が震える。
―この子の学校名は?
テストの中に何か書いていないか探すも、そんなものなかった。
―この子は大丈夫なの?
テストでわかるはずなかった。
私は、この子を救えないんだ……。
せりあの頭の中はどんどん濁っていった。
もう、今日の夕ご飯を自分で作る気力もなくなってしまったので、近くにあったコンビニに重い足を運んだ。
「ただいま」
「……おかえり」
家に帰ると、俯いたまま、当然のようにそこに座り込んだ足のない少年が言った。
「……え」
せりあはサンドイッチとスムージーの入ったレジ袋を落とした。
「誰……?」
少年は、見まわしてその『誰』と呼ばれている人を探した。
「誰のこと……?」
「誰のこと、って、君の」
「……え、僕?」
「うん」
「見えてる?」
「うん」
「なんで?」
「それを今日ここに越してきた私に言われても」
「……あ、お札が」
「え?お札?」
せりあと少年はそろって壁を見る。1枚、2枚、3枚……あ、1枚ない!
(もしかして……‼)
せりあは何も言わずに部屋を飛び出した。行く先はただ一つ。あの水たまりだ。
だが、そこに着いて、せりあは絶望した。
「おりゃっ‼」
「うわっ、やったな~‼」
長靴をはいた2人の[漢字]男子児童[/漢字][ふりがな]クsoガキ[/ふりがな]に、雪合戦の雪玉のように投げ合いされていた。びしょびしょになったその2枚の紙屑は、もうすでにボロボロだった。
「ねーちゃん、それかえして」
「おれたち、まだあそびたいんだけど」
「……はい」
そう言って、2人にもう機能しないだろう紙を渡して、元来た道を通って帰った。
「で、君は誰なの?」
3月にしては汗をかいたせりあは、少年に聞いた。少年は、むすっとしたような、それでいて悲しそうな顔で答えた。
「……教えない」
「ここ、事故物件なんだけど、それは君が死んだから?」
「うん」
「……ここでご飯食べていい?」
「あなたの家なんだから、お好きにどうぞ」
せりあは、袋から夕飯を取り出し、蓋を開けて食べ始めた。
「食べないの?君は」
「……いい」
(食べてみたいけど……)
少年は心の中で呟いた。
無表情で座っている少年に見られているのは、なんて食べづらいんだろう。
せめて何かしらの表情があれば……。
せりあは立ち上がった。そして、少年の頭を撫でた。
「⁉」
「元気出してよ」
突然撫でられ、驚きが隠せない少年。
少し経つと、少年の緊張していた身体から力が抜けた。
「……ふふっ」
少年は優しく微笑んだ。