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恋忘れ草の赤い糸

#3

Episode3 記憶の残像

 プリンが好きだった。思えば最後に“ちゃんと”食べれたのもプリンだった。
 お前、好きだったよな。
 男手1つで僕を育ててくれたお父さんが、仏壇に持って来てくれたのは、蝋燭、ライター、お線香、それとプリン。
 泣いてたなぁ。ごめんな、気づけなくって。そう言って、ぼろぼろ涙を落として。
 海外に短期間の出張を繰り返していたお父さんは、その国のプリンをお土産に買ってきてくれた。それぐらい僕はプリンが好きで、それぐらいお父さんは僕を愛していた。出張から帰ってきて僕が冷たくなってるのに気づいたその瞬間も、手にはケーキ屋の箱を持っていたらしい。
 なのに、何やってんだ僕は。何もお父さんにしてあげられてないじゃないか。
 自分が極限まで屑に感じる。本当に。

「じゃあ……、プリン、食べてみる」
 口から漏れた言葉。
 気づいた時にはもう1人になっていた。
 なんだか眠い。
 だんだん視界がぼやけてきて、気づいたら眠ってしまっていた。
 久しぶりの、夢も見ない、深い深い眠りだった。

 目を覚ますと、せりあが覗き込んでいた。
「あ、起きた。おはよう」
 朝になっていた。
「おはよう……」
「もうちょっとで学校行くんだけど、そうだ。昨日買ってきたプリン、食べる?帰って来たら寝ちゃってたじゃん」
「……食べる」
 昨日、お願いしてた癖して眠っていたので、何だか断れない。
「……はい」
 スプーンの上にちょこんと乗った1口分のプリン。縮小しながら反射した朝日がちょっぴり眩しく感じた。
 金属のスプーンは冷たくて鉄の味がした。プリンは、鮮やかな着色剤から容易に想像できるような、不自然な甘ったるい味だ。けれど、なんだか懐かしい。
「……もう1口、ちょうだい」
 身体は、久しぶりに食事に拒絶反応を起こさなかった。
 けれど、もう3口くらい食べたところで、少しぎゅっとなった。拒絶し始めている。
「そろそろ、学校じゃないの?」
「あ、そうだね。じゃ、行ってきます」
 玄関から出ていく背中を見送る。
「……っ」
 身体が、完全に拒絶する。
 気持ちが悪い。
 給食を全部食べることを強いられていたあの頃、毎日感じていた感覚。
 キッチンに走る。
 そして、すべて元に戻る。
 そのあとを追うように、シンクを涙が流れる。
「……あぁ……」
 噓つきの屑。屑だ。
 大嫌い。
 大っ嫌い。
 僕が居たらまた自分を、そして誰かを不幸にする。
 その前に消えてしまいたい。
 あ、そうだった。
 僕は、[下線]そのために[/下線]死んだんだった。

「お前が[漢字]紅葉[/漢字][ふりがな]もみじ[/ふりがな]を好き?うわ、好かれてる紅葉が可哀想w」
「目ぇ覚ませって。お前なんかがあんな美人と付き合えるわけねぇだろ?」
 小4の頃のことだった筈だ。
 僕は、[漢字]赤浜紅葉[/漢字][ふりがな]あかはま もみじ[/ふりがな]という同級生に恋をしていた。
 当然僕は、紅葉さんに釣り合うような光ったものは持っていなかった。だから、軽い罵りは受けた。当然の事だった。
 仕方がない。そう思って、気軽に流せる程度だった。
 でも、変わった。
「好きです。付き合ってください!」
 紅葉さんに告白された。
 僕なんかが?
 僕なんかが、告白された?
 その時の感情は、思い出すことができない。でも……。

[明朝体]お前なんかがあんな美人と付き合えるわけねぇだろ?[/明朝体]

「……ごめんなさい」
 好きだった。でも、振った。
 怖かった。不釣り合いだと言ったあの声が、頭の中でリフレインして、僕にそう言わせた。
 その判断は、間違っていたようだった。
 罵りは、声を荒げた暴言に。
 笑い声は、身体中の痣に。
 心の突っかかりは、恐怖と……そして自己嫌悪に。
 教室の隅で僕が殴られているのを、紅葉さんは見ないふりをして心を守った。自分のせいで好きな人が虐められていると、多少の“勘違い”をしてたらしい。
 僕は、自分の行動で、自分を、そして好きな人を傷つけた。
 自己嫌悪が心を埋めて許容量を超えた時、恋の感情というものを忘れ、そして生きる意味も忘れた。
 歩いてアパートに帰った。
 階段を上った。
 鍵を開けた。
 誰もいなかった。
 薬箱を取り出した。
 終わった。


































































「ごめん」



「私のせいなんだよね?」

「本当に」



「ごめん……」




「私も、[漢字]琉夏[/漢字][ふりがな]ルカ[/ふりがな]君と同じところに行きたい」




















 紅葉さんは、天国に行った。


 きっと優しかったからだ。




 でも僕はまだ、成仏できていない。




 僕がこの世に残されたままだと知らずに、紅葉さんは天国に、独りで行った。








 この世界は、素直すぎるんだ。

 いいことをした人は天国。
 悪いことをした人は地獄。


 たとえ天国に行く人が求めている人が幽霊になって、この世にずっと取り残されていたとしても、単調に、例外なしに天国に連れて行かれる。

 こんなの、おかしいよ。


 何が天国だ。











































 



 空が茜色に染まった。
 僕はその時放心状態だった。昼からずっと。
 時間だけが淡々と、座り込んだままの僕の隣を通り過ぎて行く。
 また、あの頃のように、自分がただの屑でしかないような感じがしていた。
 そのうち、自問自答を始めた。
 今も紅葉さんを好きなんだろうか?
 わからない。好きだったとして、まだ紅葉さんが僕を好きでいてくれているわけがない。
 それ以前に、何が「好き」なのかがわからない。
 また紅葉さんに会えたら、思い出せるのかな――?

作者メッセージ

親に「パソコン部屋持ってくな」言われたらこんな低浮上の民へ進化(退化だろ)しました。(参加型は結構行ってたようn((殴 )
わーい私の大好きな過去暴露回だぁ(黙らんか)
and“名前判明付きマッハ級超爆速意味不ストーリー”ですね(長ぇな)。苦手な人もいるだろ系描写をちょいちょい伏せて書きました。
……さっきから括弧がうるさい。(うるせぇのはお前だ、さっきはよくも殴りやがったな)
~以下略~

2024/10/21 20:03

◇Alice◇
ID:≫ 6.HwTpWbghe22
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