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極夜の彷徨

#6

6日目

彼女は歩き出し、僕はそれに着いていく
普通に考えれば未成年の家に成人男性が保護者の同意なく出向くのはダメだが今はどうでもよかった
後ろから歩く彼女を見ると、だいぶ背が高い事がわかった。女子学生らしからぬ背格好だ。首がしっかりしていて、肩が広く張っている。
「じろじろ見ないでよ」
「ごめん」
そんなに見ていただろうか。不快にさせてしまっていたら申し訳ない
「ついたよ」
大きなマンション。自動ドアから小綺麗なラウンジが透けて見える。
ここまで来ておいて少し怖くなった
彼女は進んでいく。びしょ濡れな僕らは奇怪な目線を浴びていて、居心地が悪かったが彼女はそうでもなさそうだった。
「澪凪ちゃん、」
素敵な老夫婦が声をかけた
「大丈夫?」
なんでそんなに濡れているのかと言うことだろう。
「傘が壊れちゃって、新しいのを買わなきゃ」
「そうかい。風邪をひかない様にね」
老夫婦は微笑み、僕の方に一瞬目を向けたが、彼女が手を振って歩き出したのでついて行った
彼女の住む部屋は8階で、とても広々としていた。家の中はとにかく何かの匂いで満たされており、壁や床の所々が様々な色で彩られている。
「匂い、気になる?」
彼女はこちらを向かずに聞いた
「いや、何の匂いかな…と」
「絵の具だよ。お母さんが絵を描いてるんだ」
彼女は誇らしげに言った。幸せな家庭な様だ
「ソファーに座ってて。飲み物を持ってくるよ」
彼女は少し早足で去って行った
周りを見渡す。何でこんなところにいるのだろうか。広々とした玄関には彼女の靴とレインブーツがひとつ並んでいる。壁には絵がかかっている。彼女の母が書いたものだろうか…
僕は廊下を道なりに進みリビングに出た。ヒヤシンスの様な色のソファーとガラスのローテーブル。テレビと本棚。綺麗に整理整頓されているが、生活感がない
「座らないの?」
彼女が戻って来た
「服濡れてるから」
「気になる?ボクの服でいい?」
「いやそうじゃなくて…」
「ソファーなら気にしないで。どうしてもならシートを引くよ」
「ソファーが大丈夫ならいいんだ」
「そう」
彼女はマグカップをローテーブルに置き、器を開けた
中に入った角砂糖がきらきらと光っている
「砂糖かミルクは入れる?」
「大丈夫」
彼女は自分のコーヒーにミルクを注ぎ、手についたのを舐めた
飲まないのかと言われ僕はコーヒーを口に含んだ
広がる苦味と風味。なんだか安心して涙が滲んだ。
何か言わなくてはいけない気がしたが、何も言えることはない。僕は焦って適当なことを聞いた。
「コーヒー、好きなの?」
「うん」
「これはどこのやつ?」
「メーカー?」
「そう」
どこだったかなー、と首を傾げ、声が漏れている
「覚えてないや。でも昼淹れたやつだから風味飛んでるかも」
淹れなおす?と言う様な顔でこちらを見ている
「いや、美味しいよ」
「そう」
彼女は冷たげに話す。氷の様な冷たい声は冷酷さを感じさせるが淡い繊細さを併せ持っている。
コーヒーを飲み進めるにつれて冷静になってきた。
なぜ僕は見ず知らずの少女の家に上がりコーヒーを貰っているのか?
どう考えても正気じゃない。しかも人様の家に水を垂らしソファーを濡らしている。
そんな異常な光景の中だが彼女は平然としている。
彼女は知らない人だ。毎日目の前のベンチで本を読んでいることしか知らない。
僕も彼女も、お互いの名前も年齢も好きなものも知らない。だけど同じ空間で毎日本を読み今は共にコーヒーを飲んでいる。
我ながら不思議な関係だなと思った。
しばらくの沈黙の後、彼女が口を開いた
「そういえば服びちょびちょだな」
今更感が否めないが同意だ
「服ある?」
「ないかな」
「ボクのでいい?」
「え」
「え?」
「…サイズは入るんじゃない?」
「そういうことじゃなくて…」
流石に常識を疑う。心配になってきた
「取りに帰るよ。というかそろそろお暇させてもらうね。雨も上がったし。ありがとう」
「え、帰るの?」
彼女は不思議そうにこちらを見ている
「帰るよ」
「もうちょっと、明日まででいいから」
「それはちょっと…」
その時、僕の携帯が鳴った
恐る恐る携帯を開く。母からのメッセージがふたつ。
『忘れ物があったから届けておくね。叔父さんが今そっちに居るからちょっと話したら?住所伝えておくね』
『今度そっちに行かせてね』
怖い。なんで僕の住所を勝手に教えるのか。今は親戚とか関わりの深い人と会いたくない。僕の事情を知っている人とは関わりたくない。
「帰れってきた?」
「…もう少し、ここにいてもいい?」
それは僕の最適解だった。彼女は僕を拒まないという謎の自信があった。
「もちろん」
それは正解だった。母のメールには返事をしなかった

2025/06/30 17:42

狛猫
ID:≫ 9pZu6LRhlKmoI
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