化物の幻力
#1
序1:魔法書
[太字] 「宿題めんどくせぇ!」[/太字]
平穏な住宅地に、騒々しい声が響き渡り、すぐ後に小さなため息が生まれた。
やかましい声で叫んでいるのは、茶色の癖っ毛が目立つ [漢字]国府宮 裕貴[/漢字][ふりがな]こうのみや ゆき[/ふりがな]だ。
木製の机と向き合い、夏休みの宿題である数学のワークを広げたが、依然として白紙のまま。方程式が裕貴を呼び誘っているのに、見向きもしない。めんどくさいものはめんどくさいのだ。
「…気分転換で図書館でも行くかぁ。まだなんも終わってないけど」
[漢字]欠伸[/漢字][ふりがな]あくび[/ふりがな]を噛み殺しながら部屋を出る。
思い立ったら即行動だ。裕貴は靴紐が[漢字]解[/漢字][ふりがな]ほど[/ふりがな]けているのに気付かず、玄関のドアを勢いよく押し開けた。
あっという間に…いや、20分はかかり、レンガでできた市内最大の図書館に駆け込んだ。
裕貴が向かった先は、ファンタジー系列の本が並ぶコーナー。裕貴はファンタジーや魔法が好きで、能力を現実で持ってみたい!そういう夢を持っている。何故かこのコーナーはほぼほぼ人がいないので、ここは裕貴の隠れ家だ。
「…ん?」
裕貴が目を向けたのは、一番奥の棚の上から3段目、左隅っこにある黒い本だ。背表紙に『Black Magic』とある。直訳すると、『黒い魔法』だ。
「こんな本…あったっけ?」
誰かが間違えて置いていったのか、新しく入ったのか。
「ま、誰もまだ読んでないっしょ。ラッキー!」
不思議と幸運のふたつに包まれながら、本を手に取り開く。が、いつものファンタジー小説とは何かが違う。いつも読んでいる、ところどころ図やイラストがあって、字がびっしり打ち込まれている分厚いものではなく、上に図があり、下によくわからない言語で説明が書かれている、『The 魔法書』だった。
「えぇ…?なんだこれ…?」
魔法書を3、4ページ[漢字]捲[/漢字][ふりがな]めく[/ふりがな]ったところに、黒い[漢字]歪み[/漢字][ふりがな]ひずみ[/ふりがな]のようなものを見つけた。意外と大きく、本の1ページを占領している。
「ちょっと…えぇ?何これほんと。あ、でも手とか入るかも」
そうして沼のような黒い物体に手を入れようとした瞬間、シルクハットを被った紳士のような老人が裕貴に話しかけてきた。
「おまえさん、それは…なんだい?」
杖をつき、白髭を伸ばしながら温かそうな目で裕貴を見つめる。しかし、裕貴とは面識がないし、脳内の本棚で昔読んだ小説の中にそういった老人が出てきてないかを検索してみるも、ヒットしない(?)
「……あんまよくわかんないっすけど、魔法書みたいです。そこの棚にあったんです」
そう言いながら奥の本棚を指差す。今度は老人が目をパチパチさせながら、今まさに裕貴が手を入れようとしている、その歪みについて首を[漢字]傾[/漢字][ふりがな]かし[/ふりがな]げて問いを投げかけた。
「そこの溝は?何か入っているのかい?」
裕貴は心底、やけにこの本に興味を持つじーさんだな、と感じていた。
「ページを捲ったら、いきなり出てきて。…手でも入れてみます?」
言ってから後悔した。好奇心で思いついたものを、紳士のような老人に提案してしまったのだ。こんな子供遊びみたいなものは、一人でやるべきだ。裕貴のアイデアに興味がなく、機嫌を損ねてしまったのかと思い、咄嗟に謝ろうとした。
「面白そうだ。やってみよう」
予想外だ。裕貴の口から「へ?」と怠け声が出てしまった。
口を開けたまま固まっている裕貴を促すように、「ほらほら」と老人が歪みに手を伸ばす。
慌てて手を近づけると、次に目を開いたときには自然豊かな草原に老人と共に ぽつん と送られていた。
「………は?」
このよくわからない世界に来て裕貴が初めて思ったことは、『真っ黄色の牛がいる』ことだった。
平穏な住宅地に、騒々しい声が響き渡り、すぐ後に小さなため息が生まれた。
やかましい声で叫んでいるのは、茶色の癖っ毛が目立つ [漢字]国府宮 裕貴[/漢字][ふりがな]こうのみや ゆき[/ふりがな]だ。
木製の机と向き合い、夏休みの宿題である数学のワークを広げたが、依然として白紙のまま。方程式が裕貴を呼び誘っているのに、見向きもしない。めんどくさいものはめんどくさいのだ。
「…気分転換で図書館でも行くかぁ。まだなんも終わってないけど」
[漢字]欠伸[/漢字][ふりがな]あくび[/ふりがな]を噛み殺しながら部屋を出る。
思い立ったら即行動だ。裕貴は靴紐が[漢字]解[/漢字][ふりがな]ほど[/ふりがな]けているのに気付かず、玄関のドアを勢いよく押し開けた。
あっという間に…いや、20分はかかり、レンガでできた市内最大の図書館に駆け込んだ。
裕貴が向かった先は、ファンタジー系列の本が並ぶコーナー。裕貴はファンタジーや魔法が好きで、能力を現実で持ってみたい!そういう夢を持っている。何故かこのコーナーはほぼほぼ人がいないので、ここは裕貴の隠れ家だ。
「…ん?」
裕貴が目を向けたのは、一番奥の棚の上から3段目、左隅っこにある黒い本だ。背表紙に『Black Magic』とある。直訳すると、『黒い魔法』だ。
「こんな本…あったっけ?」
誰かが間違えて置いていったのか、新しく入ったのか。
「ま、誰もまだ読んでないっしょ。ラッキー!」
不思議と幸運のふたつに包まれながら、本を手に取り開く。が、いつものファンタジー小説とは何かが違う。いつも読んでいる、ところどころ図やイラストがあって、字がびっしり打ち込まれている分厚いものではなく、上に図があり、下によくわからない言語で説明が書かれている、『The 魔法書』だった。
「えぇ…?なんだこれ…?」
魔法書を3、4ページ[漢字]捲[/漢字][ふりがな]めく[/ふりがな]ったところに、黒い[漢字]歪み[/漢字][ふりがな]ひずみ[/ふりがな]のようなものを見つけた。意外と大きく、本の1ページを占領している。
「ちょっと…えぇ?何これほんと。あ、でも手とか入るかも」
そうして沼のような黒い物体に手を入れようとした瞬間、シルクハットを被った紳士のような老人が裕貴に話しかけてきた。
「おまえさん、それは…なんだい?」
杖をつき、白髭を伸ばしながら温かそうな目で裕貴を見つめる。しかし、裕貴とは面識がないし、脳内の本棚で昔読んだ小説の中にそういった老人が出てきてないかを検索してみるも、ヒットしない(?)
「……あんまよくわかんないっすけど、魔法書みたいです。そこの棚にあったんです」
そう言いながら奥の本棚を指差す。今度は老人が目をパチパチさせながら、今まさに裕貴が手を入れようとしている、その歪みについて首を[漢字]傾[/漢字][ふりがな]かし[/ふりがな]げて問いを投げかけた。
「そこの溝は?何か入っているのかい?」
裕貴は心底、やけにこの本に興味を持つじーさんだな、と感じていた。
「ページを捲ったら、いきなり出てきて。…手でも入れてみます?」
言ってから後悔した。好奇心で思いついたものを、紳士のような老人に提案してしまったのだ。こんな子供遊びみたいなものは、一人でやるべきだ。裕貴のアイデアに興味がなく、機嫌を損ねてしまったのかと思い、咄嗟に謝ろうとした。
「面白そうだ。やってみよう」
予想外だ。裕貴の口から「へ?」と怠け声が出てしまった。
口を開けたまま固まっている裕貴を促すように、「ほらほら」と老人が歪みに手を伸ばす。
慌てて手を近づけると、次に目を開いたときには自然豊かな草原に老人と共に ぽつん と送られていた。
「………は?」
このよくわからない世界に来て裕貴が初めて思ったことは、『真っ黄色の牛がいる』ことだった。