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公式の追想録、追懐録の設定は引き継いでいません。
だれかの心臓になれたなら
Side ユリ
死んでもなお、綺麗な彼女の顔。
なんで、僕をおいていったの。
そう問いかけても、冷たい彼女は答えてくれない。
「ねえ、起きてよ、エマ―――」
Side エマ
ユリは儚げな見た目とは裏腹に、鋭い刃のような性格だった。
悪意のある者を容赦なく斬りつけ、自分を守る。
故に、一匹狼のようにクラスでは孤立していた。
私の叔父は大きい病院を経営していた。
叔父に用事があり、訪ねると、大雨だというのに、傘もささずに、ずぶ濡れになっていた。
彼女は泣いていた。
いつもまとっている鋭いオーラは消え失せ、とても見ていて痛々しかった。
「……どうしたの?」
私は傘を差し出しながら聞いた。
拒絶されるか、と思ったけど、意外と彼女は理由を話してくれた。
「お母さんがっ、お母さんが、起きないの。もう、10日も……」
話を聞くと、どうやら彼女の母はもういつ死んでもおかしくない状態なんだそうだ。
「お母さんが、病気だとわかって、まだ起きてたころ、お母さんの友達の病院で治療を頼んだんだけど………」
話しだした彼女の目には、激しい憎しみが浮かんでいた。
「有り金のほとんどを差し出したのに、お金だけふんだくって、ろくな治療をしなかったの。その後、逃げるように病院を畳んで、どこかへいった」
そんな、酷い話だ。
ならば、この頃学校に来なかったのは、治療費や生活費のためにバイトをしていたからなのだろう。
「それに、そうと分かった後ここにすぐに来たけど、もうっ、もう、お母さんは……」
そんな話があってたまるか、と私は思った。
出来るなら治してあげたいが、現代の医療の力には限りがある。
彼女だけ何故、とも思うが、これが世界だ。
幸せな人はこの上ないほど幸せで、不幸な人は一生不幸に見舞われ続ける。
欲動に巣食った愚かな人間のせいで、彼女の母が死にかけているのだ。
神様は平等というものを知らないのか。
そう訴えたって、どうにもならない。
私にできるのは彼女に寄り添い、助けることしかない。
「大変だったね。絶対助かるとは言えないけど、お母さんが治るように、全力を尽くすね。」
しばらくして、彼女の母は亡くなった。
彼女は寝不足なのか、若干ふらふらしながら、久々に学校にやってきた。
「ねえ、大丈夫?流石に休まないと……」
「いいえ、大丈夫。それに、今日もバイトをしなきゃだし……」
目だけは強い意思で、鋭く光っていた。
「あ、来たんだ、あんた。あんた、目障りだから来なくて良かったのに。」
クラスメイトの一人がそういった。
黙り込んでしまった彼女の代わりに私が反論する。
「そんな言い方って、ないじゃない!」
予想外の人からの反論に一瞬たじろいだが、クラスメイトがそれに反論する。
「あ〜ら、何よ、この前まで自殺未遂を繰り返してた根暗さん?あっ、ごめ〜ん、ちょっと言い過ぎちゃった?また自殺しようとしちゃったらたまんないわぁwww」
その言葉にはっ、と彼女が私を見る。
私は反論を諦め、彼女の手を取り、教室をあとにした。
私は今から十年前、6歳の時に両親を亡くしていた。
父は仕事が上手くいかず、酒に溺れて死んだ。
母はそんな父を追い、私と共に無理心中を試みた。
結果、私だけが取り残された。
今は叔父に引き取ってもらって、良くしてもらっている。
だが、あの時ついた傷は、未だに塞がっていない。
それが、自殺未遂となって出ている。
父は昔は優しかった。
母はよく笑う人だった。
その頃の2人を求め、天国へ向かおうとする。
叔父さんはとても心配してくれるが、周りは馬鹿にする。
ああ、死にたい。
Side ユリ
僕は今日も働く。
ろくに働きもしない父親の代わりに。
いいや、あんなの父親とだなんていえやしない。
母が死んでしまったことで保険金はもらえたが、大半は父親が酒と遊びに使った。
一生懸命働いても、やはりバイトだから足りない。
誰かを頼るなんてこともできない。
親族はもうほとんどいないし、いたとしても連絡がつかない。
それに、もう母の友達のせいで、人が、世界が信じられなくなった。
全部、全部歪んで見える。
それでもエマだけは。
エマは私の心の支えになっていた。
なのに。
彼女は、学校の屋上から飛び降り、自殺した。
ねえ、エマ。
きっと辛かったよね。
なのに、僕ばっかり話聞いてもらって。
エマはそれを自分に重ねてとても辛かったんだよね。
それに、僕のことをあの時クラスメイトから守ったことでいじめられて。
外を見ると、大雨が降っている。
ねえ、起きて、あの日のように、傘を差し出して―――
Side エマ
ごめんね、ユリ。
最近は、抑えてたんだけどね。
辛くなると、自殺しようとする、悪い癖になっちゃってて。
でもね。
ユリは強いよ。
だから、大丈夫。
ここで待ってるから、頑張って。
Side ユリ
エマが死んでから5年。
僕はカウンセラーの仕事に就いていた。
僕がエマに救われたように、こう願いながら日々働く。
僕も、“だれかの心臓になれたなら”
死んでもなお、綺麗な彼女の顔。
なんで、僕をおいていったの。
そう問いかけても、冷たい彼女は答えてくれない。
「ねえ、起きてよ、エマ―――」
Side エマ
ユリは儚げな見た目とは裏腹に、鋭い刃のような性格だった。
悪意のある者を容赦なく斬りつけ、自分を守る。
故に、一匹狼のようにクラスでは孤立していた。
私の叔父は大きい病院を経営していた。
叔父に用事があり、訪ねると、大雨だというのに、傘もささずに、ずぶ濡れになっていた。
彼女は泣いていた。
いつもまとっている鋭いオーラは消え失せ、とても見ていて痛々しかった。
「……どうしたの?」
私は傘を差し出しながら聞いた。
拒絶されるか、と思ったけど、意外と彼女は理由を話してくれた。
「お母さんがっ、お母さんが、起きないの。もう、10日も……」
話を聞くと、どうやら彼女の母はもういつ死んでもおかしくない状態なんだそうだ。
「お母さんが、病気だとわかって、まだ起きてたころ、お母さんの友達の病院で治療を頼んだんだけど………」
話しだした彼女の目には、激しい憎しみが浮かんでいた。
「有り金のほとんどを差し出したのに、お金だけふんだくって、ろくな治療をしなかったの。その後、逃げるように病院を畳んで、どこかへいった」
そんな、酷い話だ。
ならば、この頃学校に来なかったのは、治療費や生活費のためにバイトをしていたからなのだろう。
「それに、そうと分かった後ここにすぐに来たけど、もうっ、もう、お母さんは……」
そんな話があってたまるか、と私は思った。
出来るなら治してあげたいが、現代の医療の力には限りがある。
彼女だけ何故、とも思うが、これが世界だ。
幸せな人はこの上ないほど幸せで、不幸な人は一生不幸に見舞われ続ける。
欲動に巣食った愚かな人間のせいで、彼女の母が死にかけているのだ。
神様は平等というものを知らないのか。
そう訴えたって、どうにもならない。
私にできるのは彼女に寄り添い、助けることしかない。
「大変だったね。絶対助かるとは言えないけど、お母さんが治るように、全力を尽くすね。」
しばらくして、彼女の母は亡くなった。
彼女は寝不足なのか、若干ふらふらしながら、久々に学校にやってきた。
「ねえ、大丈夫?流石に休まないと……」
「いいえ、大丈夫。それに、今日もバイトをしなきゃだし……」
目だけは強い意思で、鋭く光っていた。
「あ、来たんだ、あんた。あんた、目障りだから来なくて良かったのに。」
クラスメイトの一人がそういった。
黙り込んでしまった彼女の代わりに私が反論する。
「そんな言い方って、ないじゃない!」
予想外の人からの反論に一瞬たじろいだが、クラスメイトがそれに反論する。
「あ〜ら、何よ、この前まで自殺未遂を繰り返してた根暗さん?あっ、ごめ〜ん、ちょっと言い過ぎちゃった?また自殺しようとしちゃったらたまんないわぁwww」
その言葉にはっ、と彼女が私を見る。
私は反論を諦め、彼女の手を取り、教室をあとにした。
私は今から十年前、6歳の時に両親を亡くしていた。
父は仕事が上手くいかず、酒に溺れて死んだ。
母はそんな父を追い、私と共に無理心中を試みた。
結果、私だけが取り残された。
今は叔父に引き取ってもらって、良くしてもらっている。
だが、あの時ついた傷は、未だに塞がっていない。
それが、自殺未遂となって出ている。
父は昔は優しかった。
母はよく笑う人だった。
その頃の2人を求め、天国へ向かおうとする。
叔父さんはとても心配してくれるが、周りは馬鹿にする。
ああ、死にたい。
Side ユリ
僕は今日も働く。
ろくに働きもしない父親の代わりに。
いいや、あんなの父親とだなんていえやしない。
母が死んでしまったことで保険金はもらえたが、大半は父親が酒と遊びに使った。
一生懸命働いても、やはりバイトだから足りない。
誰かを頼るなんてこともできない。
親族はもうほとんどいないし、いたとしても連絡がつかない。
それに、もう母の友達のせいで、人が、世界が信じられなくなった。
全部、全部歪んで見える。
それでもエマだけは。
エマは私の心の支えになっていた。
なのに。
彼女は、学校の屋上から飛び降り、自殺した。
ねえ、エマ。
きっと辛かったよね。
なのに、僕ばっかり話聞いてもらって。
エマはそれを自分に重ねてとても辛かったんだよね。
それに、僕のことをあの時クラスメイトから守ったことでいじめられて。
外を見ると、大雨が降っている。
ねえ、起きて、あの日のように、傘を差し出して―――
Side エマ
ごめんね、ユリ。
最近は、抑えてたんだけどね。
辛くなると、自殺しようとする、悪い癖になっちゃってて。
でもね。
ユリは強いよ。
だから、大丈夫。
ここで待ってるから、頑張って。
Side ユリ
エマが死んでから5年。
僕はカウンセラーの仕事に就いていた。
僕がエマに救われたように、こう願いながら日々働く。
僕も、“だれかの心臓になれたなら”
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