虹の根もと、舗道の上
雨上がりの匂いが、記憶の蓋をそっと開ける 濡れたアスファルトが放つ
あの日と同じ、埃っぽくて懐かしい香り
信号が青に変わるまで 私は少しだけ、立ち止まって深呼吸をした
百科事典の挿絵、夢見ていた冒険 信号が赤になり、スマホを見つめ 急ぎ足で交差点を渡る
あの頃と同じくらい、鮮やかな七色 今、思うとちょっと変だなと思う
でも、あの頃の私が笑っているだけで私は充分だ
ふと振り返ると、渡り終えたはずの横断歩道が 水たまりを鏡にして 空へと続く梯子に変わっている
アスファルトの黒はいつの間にか、銀河を溶かした濃紺へ
信号機は 瞬くたびに星を産み落とす 異国の灯台だ 私はスマホをポケットに深く沈め
「虹の根もと」へと続く、見えない歩道に足を踏みだす そこには金銀の財宝などないけれど
かつて百科事典の余白に書き留めた 名前のない魔法が、雨粒となって舗道に踊っている
爪先が触れるたび、コンクリートが花開く
埃っぽかった香りは、いつしか星屑の匂いへと混ざり合い 街の騒音は、遠い海のざわめきに吸い込まれていく
赤でも、青でもない、名もなき色の光に導かれ 私は、私を追い越していく風になる
虹の根もと、この舗道の上で
その時、不意に空が重く軋み 銀色の針のような豪雨が、幻想の幕を叩き落とした
激しく叩きつける雨粒は、アスファルトを白く煙らせ
虹の根もとも、星の灯台も、一瞬で水の壁の向こうへ消える
傘を打つ音は、激しい鼓動のオーケストラのよう 視界を奪うほどの白濁とした世界で
私は独り、天と地が混ざり合う渦の中に立っている けれど、不思議と心は凪いでいた
この雨は、過去を流すための儀式 あるいは、新しい季節を連れてくるための産声
びしょ濡れの靴底が、舗道を強く踏みしめる 「さよなら」の代わりに、もう一度深く、雨の匂いを吸い込んだ
嵐のあとに訪れるはずの、もっと澄んだ青空を 私は、雨粒の向こうに既に見つけている
重い玄関の扉を押し開け 非日常を遮るように、静かに鍵をかけた
閉じたばかりの傘を仕舞って家の中に入ると さっきまでの狂騒が嘘のような、濃密な沈黙が私を包む
ふと見れば、水滴を滴る足跡が少し残っている 玄関先にも水たまりが出来ている
それは外の世界と私を繋いでいた、最後の一片 雨粒が肌を濡らす感触だけが、
あの虹の根もとが幻ではなかったのだと 冷たく、けれど確かに、私の輪郭をなぞっている
タオルを手に取り、髪を拭う 鏡の中の私は、少しだけ新しい目をしていて
明日になれば、乾いたアスファルトの上を また、私の足で歩き出せる
あの日と同じ、埃っぽくて懐かしい香り
信号が青に変わるまで 私は少しだけ、立ち止まって深呼吸をした
百科事典の挿絵、夢見ていた冒険 信号が赤になり、スマホを見つめ 急ぎ足で交差点を渡る
あの頃と同じくらい、鮮やかな七色 今、思うとちょっと変だなと思う
でも、あの頃の私が笑っているだけで私は充分だ
ふと振り返ると、渡り終えたはずの横断歩道が 水たまりを鏡にして 空へと続く梯子に変わっている
アスファルトの黒はいつの間にか、銀河を溶かした濃紺へ
信号機は 瞬くたびに星を産み落とす 異国の灯台だ 私はスマホをポケットに深く沈め
「虹の根もと」へと続く、見えない歩道に足を踏みだす そこには金銀の財宝などないけれど
かつて百科事典の余白に書き留めた 名前のない魔法が、雨粒となって舗道に踊っている
爪先が触れるたび、コンクリートが花開く
埃っぽかった香りは、いつしか星屑の匂いへと混ざり合い 街の騒音は、遠い海のざわめきに吸い込まれていく
赤でも、青でもない、名もなき色の光に導かれ 私は、私を追い越していく風になる
虹の根もと、この舗道の上で
その時、不意に空が重く軋み 銀色の針のような豪雨が、幻想の幕を叩き落とした
激しく叩きつける雨粒は、アスファルトを白く煙らせ
虹の根もとも、星の灯台も、一瞬で水の壁の向こうへ消える
傘を打つ音は、激しい鼓動のオーケストラのよう 視界を奪うほどの白濁とした世界で
私は独り、天と地が混ざり合う渦の中に立っている けれど、不思議と心は凪いでいた
この雨は、過去を流すための儀式 あるいは、新しい季節を連れてくるための産声
びしょ濡れの靴底が、舗道を強く踏みしめる 「さよなら」の代わりに、もう一度深く、雨の匂いを吸い込んだ
嵐のあとに訪れるはずの、もっと澄んだ青空を 私は、雨粒の向こうに既に見つけている
重い玄関の扉を押し開け 非日常を遮るように、静かに鍵をかけた
閉じたばかりの傘を仕舞って家の中に入ると さっきまでの狂騒が嘘のような、濃密な沈黙が私を包む
ふと見れば、水滴を滴る足跡が少し残っている 玄関先にも水たまりが出来ている
それは外の世界と私を繋いでいた、最後の一片 雨粒が肌を濡らす感触だけが、
あの虹の根もとが幻ではなかったのだと 冷たく、けれど確かに、私の輪郭をなぞっている
タオルを手に取り、髪を拭う 鏡の中の私は、少しだけ新しい目をしていて
明日になれば、乾いたアスファルトの上を また、私の足で歩き出せる
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