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最終投稿プレビュー

昨日と、そのまた昨日と、寸分違わず同じ角度で部屋を白く塗りつぶしていく。

私は、彼の枕元に置かれたノートの新しいページを眺めていた。


『神様、どうか。明日、 彼女に「はじめまして」と言わなくて済みますように。』


昨日、私が彼を突き放したあとの、彼なりの「恋」の記録。

彼はもうすぐ目覚める。そして、この一文を読み、また新鮮な情熱を胸に私の元へやってくるのだ。


「 . . . . おはよう」


低い声。シーツが擦れる音。

私はあえて背中を向けたまま、窓の鍵を開ける。


「おはよう。顔を洗っておいで。朝ごはんは、おばさんがテーブルに置いていったよ」


「あ、ありがとう。君は . . . . えっと。」

彼は枕元のノートを素早く手に取り、必死に情報を咀嚼する。

その「予習」の姿が、今の私には鋭利な刃物のように突き刺さる。


彼はノートを閉じると、決意を固めたような顔で私を見た。

「君は、僕の幼馴染、なんだよね?」


「そうだよ。ただの、腐れ縁」

私は振り返り、いつもの「テンプレート」を唇に乗せた。


今日の彼は、昨日よりも少しだけ慎重だ。

ノートに書かれた『悲しそうな顔』という一文が、彼の踏み込む歩幅を狂わせている。


「昨日、僕、君に . . . . 何か失礼なこと、言わなかったかな?」

「いいえ。何も」


嘘をつく。


昨日の彼は、夕暮れの帰り道で「忘れたくないんだ」と、私の袖を掴んで子供のように泣きじゃくった。

その熱量を、今の彼は知らない。知っているのは、インクの染みという無機質な記号だけ。

私は彼を置いて、窓から自分の家へと飛び移ろうとした。その時、


「待って!」

彼が、私の手首を掴んだ。

いつもなら、ここで私は冷たく振り払う。でも、彼の手のひらがあまりに熱くて、一瞬だけ呼吸を忘れた。


「君が誰なのか、名前もまだ思い出せない。でも . . . . このノートを読んで思うんだ。僕はきっと、毎日君に恋をして、毎日君に振られているんだろう?」


彼は、震える指先で自分の胸元を指した。

「ここが、覚えてるんだ。言葉じゃなくて、もっと痛い何かが、君を見るたびに疼くんだよ。 . . . . ねえ、今日は『ごめんね』以外の言葉を、聞かせてくれないか?」


真っ白な光の中で、彼の瞳が揺れている。

それは「再放送」ではない、今日という新しい絶望の始まりだった。

私は彼の手をゆっくりと解き、残酷なまでに美しい笑顔を作って言った。

「いいよ。じゃあ、今日の夜までに、私の名前を当ててみて。」


どうせ明日になれば、そのクイズの答え合わせをすることすら、彼は忘れてしまうのに。


私は、彼の期待に満ちた瞳を、凍りつくような冷笑で貫いた。

「そんな . . . . でも、ノートには . . . . 」

「それは君が罪悪感で書いただけ。」



「君はあの日、私から逃げようとして事故に遭ったの。幼馴染っていう重荷を捨てたくて、私を置いて遠くへ行こうとして。 . . . . 本当は、顔も見たくないくらい嫌いなはずだよ。」


嘘だ。


あの日、彼は私との未来を誓おうとして、私の元へ駆け寄る途中で車に撥ねられた。


でも、毎日繰り返される「偽りの初恋」に耐えられない私は、彼の中に私への「嫌悪」を植え付けることで、このループを断ち切ろうとした。


「だから、もう隣の家には来ないで。私も、もうここには来ない」
呆然と立ち尽くす彼を置き去りにして、私は窓を越え、自室に閉じこもって声を殺して泣いた。


独り残された部屋で、彼は震える手でノートを捲った。


「嫌い、だった独り残された部屋で、彼は震える手でノートを捲った。

「嫌い、だった . . . . ? 僕が、彼女を?」

文字と感情が一致しない。胸の奥の疼きは、拒絶ではなく渇望を叫んでいる。


その時、ノックもなしに部屋のドアが開いた。

「よぉ、起きてるか」

立っていたのは、共通の友人である。

彼は部屋の重苦しい空気と、泣きそうな顔の彼を見て、浅く息を吐いた。


「 . . . . また、あいつに突き放されたのか。」

「教えてくれ。僕は . . . . 僕は彼女のことを、本当に嫌っていたのか?」

佐藤は一瞬、苦々しい表情を浮かべ、窓の外にある隣の家を見やった。そして、静かに首を振った。

「逆だよ。あの日、あいつが車に撥ねられそうになったのを、突き飛ばして助けたのはお前だ。」


彼の心臓が、大きく跳ねた。


「お前はあいつを守って、代わりに記憶を失った。あいつが毎日お前に嘘をついて冷たく当たるのは、お前を愛してないからじゃない。」


「自分のせいで壊れたお前の人生を、これ以上『恋』なんていう残酷な希望で縛り付けたくないからだ」


佐藤は机の上に置かれた、真っ白な今日のページを見つめる。

「あいつは、お前に『嫌われること』で、お前を自由にしてやろうとしてるんだよ。たとえ、自分が世界で一番の悪者になってもな」


窓の向こう、カーテンを閉め切った彼女の部屋。

彼は、ノートの真っ白なページを握りしめた。

明日になれば、この真実も、今感じているこの裂けるような痛みも、すべて白紙に戻る。

けれど彼は、震える手でペンを走らせた。


明日の自分へ。記憶の淵に沈む自分へ。

「嫌われてもいい。それでも、彼女の嘘を信じるな」と。

















カーテンを閉め切り、暗い部屋の隅で膝を抱えていた。


頬を伝う涙が冷たくて、自分がついた嘘の味が、喉の奥で苦く残っている。

「これでいいんだ」

何度も自分に言い聞かせる。

毎日、初めて会ったかのような顔で恋を囁かれるのは、もう限界だった。

期待に満ちた彼の瞳を見るたびに、彼から未来を奪ったのが自分だという事実が、チクチクと毒のように刺さる。


私が彼を「嫌っていた」ことにすれば、彼は明日から、義務のような恋に縛られなくて済む。


私の名前をノートに書き留めることも、窓越しに私の姿を探すこともなくなるはずだ。


それが、彼にできる唯一の罪滅ぼしだと信じていた。

その時、壁を隔てた隣の部屋から、微かに声が聞こえた気がした。
共通の友人である佐藤くんが、彼に何かを話している。

私は耳を塞いだ。


真実なんて、知らなくていい。


彼が私を助けたことも、私が彼を愛していることも、全部この真っ白な朝日に溶けて消えてしまえばいい。

けれど、しばらくして佐藤くんが去った後、隣の部屋はひどく静かになった。


私は耐えきれず、そっとカーテンの隙間から彼の部屋を覗いた。


彼は、机に向かっていた。


私が「君は僕を嫌っていた」と突き放したはずなのに、彼は泣きながら、必死にペンを動かしている。

明日の彼へ。

また全てを忘れてしまう、残酷な「明日」の自分へ。

彼は、私が教えなかったはずの私の名前を、何度も、何度もノートに刻みつけていた。

窓越しに目が合ったような気がして、私は慌てて身を隠す。


心臓がうるさい。


嘘をついて彼を突き放したはずなのに、彼が私を忘れようとしないことが、どうしようもなく嬉しくて、そして何よりも恐ろしかった。


明日もまた、真っ白な朝日が昇る。

そして彼はきっと、今日私がついた嘘さえも忘れて、ボロボロになったノートを抱え、私の名前を呼びにくるのだ。



終わりのない、愛の処刑台に向かって。

リレー小説「し ゅ ら 。 × 片思いちゃーんの合作「空白のページに、君の名前を刻む」」

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