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篠突く雨の熱帯夜

飛んでいるのは、蝿である。

その閉ざされた鉄扉の奥。
嗚咽を漏らしそうになるような異臭が漂う暗い室内。
生暖かい湿気のある空気が異臭を際立たせる。
足を踏み入れると、暗くてよくは見えないが、粘性のナニカが耳障りな音を立てて崩れる。
隅には、髪を無造作に伸ばした人間が壁にもたれかかるように座っている。
その不気味な空間の中、唯一明るさを保っているのは小型サイズのテレビである。
「――です。今夜もま―被害がでてし――まっ―模様です。―――市の連続―人事件の―人目の被―者です。―時過ぎ頃、近隣―民が『[漢字]劈[/漢字][ふりがな]つんざ[/ふりがな]―よう―悲鳴を聞―た』と警―に―報し――ザザザザザザザザザザ―――」

「――っはぁ」
その人間はため息をつき、ノイズにかき消されたテレビを消す。
しけった煙草に火を付け、ゆっくりと目を閉じ一服する。
周りにある白く乾いたゴツゴツとしたナニカに、[漢字]燻[/漢字][ふりがな]くゆ[/ふりがな]る煙草を押し付け吸い殻を落とす。
異臭を放つ粘性のナニカと、不潔なその人間には何匹も蝿がたかっており、まさに廃人である。
「ゔーー」
気が狂うように人間はそう声を発し、床一面の粘性のソレを口に運ぶ。
ソレは、赤黒い肉の塊のようなもので、どす黒い液体が滴っている。
クチャ、グチャ……
その人間は咀嚼を続けながらのっそりと立ち上がり、扉へと歩を進める。
――ギィィィィィ。
床一面の湿ったソレのせいで錆びきった重い鉄扉を押し開け、その人間は裸足で外へ出る。
ザザザザザザザザザザザザ………
外は豪雨である。
激しい雨が口の周りにねっとりと付着したどす黒い液体を洗い流していく。
「オレは…オレの望む世界を」
そう独りごち、男は雨に叩かれる夜道を歩く。
ザザザザザザザザザザザザ………
喧しく降る雨は、男の社会に辟易とした気持ちを代弁しているようだった。

男が暫く歩いていると前から中年の女が傘を差して歩いてきた。
刹那、雨の夜道に一筋の緊張が走る。
女は男に気づくと、少し警戒し足早に通り過ぎようとする。
だが、男は、女に容赦なく近づき、無作為に首筋にハサミのような刃物をを突き立てた。
女は逃げようともがき悲鳴を上げるものの、雨にかき消されてその声は誰にも届かない。
力任せに刃物を体にねじ込み、頸動脈が簡単に切断される。
赤黒い液体がアスファルトに飛び散る。
女は目を剥き、口の[漢字]端[/漢字][ふりがな]は[/ふりがな]に泡を立てる。
首筋から右脇腹へ向け、刃物を突き立て肉を裂く。
血が吹き、肉が崩れ、悲鳴にならない呻き声が漏れる。
一つ命が遠ざかる。
男は目を血走らせ、肉の塊と化した屍体にひたすら刃を突き立て――。

ピシャ

その時、空間が真っ白に灯る。
瞬間、大気が震え、世界が裂けるような音が響く。

バリバリバリバリバリ…ドゴォォォォォォォォオオオオオ……!!!!

腕がピリピリと痺れる。
大地が揺れる。近くで大きな雷が墜ちたようだ。
その方向を見ると、真っ赤な炎が吹き上がり、悲鳴を上げて人が行き惑い、この世とは思えないほどに混沌としている。

「嗚呼、美しい…」
そう狂気じみた感嘆の音を溢し、男が落雷の方向を見つめる。
すると、何かが狐火のように明滅しながらこちらへ向かってくるのが見えた。
スラっと伸びた黒い何か。人影のようだ。
体格的に男。それも壮年の男だと直ぐに判断する。
陽炎と錯覚するほどの、ゆらゆらとした珍妙な動き。
雨が激しく降り続くのに、ソイツの体は何故か濡れていない。
――ただの人間ではない。
ソイツに恐怖を覚えるものの、体は惹きつけられたように動かない。
黒い夜の中、黒い人影はどんどん近づいてくる。
パッ、パッ、と何度も姿を現しては消え、現しては消えを繰り返し―
やがて、ソイツはオレの前で静かに止まった。
黒い法衣に身をまとったソイツは、不気味な笑みを浮かべた仮面を被っていた。
三日月を逆さまにしたような形の眼。裂けるように伸びた口。
これらが描かれた不気味で悪趣味なそれは道化だろうか。いや、どちらかといえばジョーカーに似ているかもしれない。

「―サクラ」

突然、仮面の男はそう言葉を発した。
不気味な容姿からは違い、[漢字]厳[/漢字][ふりがな]いかめ[/ふりがな]しさの中にどこか優しさがある、そんな声であった。

「桜…?」
「イノウエ、サクラ」

―イノウエ、サクラ。井上、咲良。
そうだ、そうだった。
懐かしい名前だ。
俺の、いや、私の名前。

とっくの昔に忘れてしまった、自分。
憎しみと哀しみに囚われて見失っていた、自分。

[水平線]

物心ついたときに母はおらず、父が私を育てた。
どうして私に母はいないのか。私には解らなかった。
学校では同級生に母がいないと虐められた。
酷い、いじめであった。
先生も一緒になってみんなでよってたかって私を虐めた。
殴られて、蹴られて、唾を吐かれて。
もっと良い家庭に生まれたかった。
母と父と仲良く暮らしたかった。
平凡な、毎日を望んだ。
なのに―。

私を虐める男の子は、「お前の父がお前の母を殺した」んだ、犯罪者の子供だ、と私を罵る。
だから、私は変えたかった。
こんな世界は嫌だった。
望む世界を、作りたかった。

夜遅く、仕事で疲れている父。
リビングのソファでぐっすり眠っている。

私は、一心不乱にハサミを突き立てて殺した。

お母さんを返せ、と泣きながら。
目を潰した。
舌を裂いた。
耳を千切った。
歯を抜いた。
首を[漢字]伐[/漢字][ふりがな]き[/ふりがな]った。
四肢をもいだ。

ドロドロと垂れた粘性の血肉はリビングを真っ赤に染め、私の脳を焼いた。
初めて、人を殺めた。

父は、死んだ。

初めて、父の部屋に入った。
所有者のいなくなったその部屋は、薄暗くどこか悲しい印象を受ける。
壁には、前に見せてもらったことのある、母と父と幼い私の写真が飾られている。
私は机の上に、一冊のぼろぼろのノートを見つけた。
『さくら』
一つ、ページを捲る。

◯月△日
今日から交換日記みたいな感じでたまに出来事をつづっていきます。
今日は咲良が初めて自分で立った記念日になったよ。
私はがんで死んじゃって見れないかもしれないけど、咲良が大きくなるのが楽しみです。

by咲

古ぼけたノートは、母と父の交換日記のようなものであった。
そこには母と父の仲睦まじい様子や私の幼い頃の記録がされていた。
パラパラとページを捲る。
ノートの後半数ページはすべて余白になっていた。
私は、書き残された最後のページを読んだ。

✕月□日
余命宣告はもう少し先だけど、自分の余命ぐらい何となく分かる。
これまで長く続いたがんとの闘病生活も明日で多分終わりだと思う。
迷惑ばっかりかけたかもだけど、ごめんね。
咲良はもう3歳になったね。
この先咲良はどんな成長をするんだろう。
楽しい思い出もあれば、つらい思い出もできると思う。
一番近くで咲良を見てあげられない事になってすごく悲しい。
でも、咲良のママであれて嬉しかったし、何より良平の奥さんになれてよかった。
これからは咲良を任せることになるけど、良平なら大丈夫。
私を愛してくれてありがとう。
大好きだよ。

by咲

―母は、がんで死んだ。
父が殺したのではなかった。
小学生だった私は、いじめっ子の法螺話を鵜呑みにしてしまい、感情に流されて父を殺してしまった。
父は心から私を愛していた。
父は悪くなかった。
後悔と絶望が私を支配した。
ひとしきり父に泣いたあと、覚えたのは怒りであった。
私を除け者にして絶望の淵に追いやった社会への怒りである。

殺してやる、何もかも。
壊してやる、何もかも。

強くありたい、完璧な世界を作りたい。
か弱い女ではいられない。
私は、いや、俺は―。

それから、俺を虐めた人間は残らず根絶やしにした。
それでも俺を取り巻く憎しみの気持ちは消えず、殺人を繰り返し―――。

[水平線]


自分の名前も性別も目的も、何もかも忘れていた。
井上、咲良。
そうだ、そうだった。
私の名前。
大切な母と父がつけてくれた、大切な名前だ。
思い出した、平和な完璧な世の中を望むという目的も。

「もう、殺して」

私は、最初の目的を見失っていた。
父への餞としての殺しは―
ただの自己満足だったのかもしれない。
本能のままに殺し続けてしまった。
もう、熱は冷めた。
もう、何もかも疲れた。

「少し、やりすぎたな」

不気味な仮面の男の声はどこか懐かしい安心感を与えてくれる。
そんな仮面の男は私の口に無造作に手を突っ込んだ。

「――ぅ」

手はするすると喉の奥に入っていき、優しく心臓の部分へと伸ばされる。
息苦しいはずなのに、苦しくない。

「楽に殺してやる」

男は語りかけるように言い、手を抜いた。
体全身の力が抜けて、私は死を悟る。
人を殺す中で、私はどこか死という救済を自分に求めていたのかもしれない。

雨は一層ひどく降り出した。
―お父さん、ごめんなさい。
これまでに殺してきた人に、謝罪の気持ちが込み上げる。
自分がしてきたことは何だったのか。
涙が溢れる。

「最期ぐらい、笑え」

そう言って男は、その不気味なほどの笑顔の仮面を、私につけた。
そうしてあらわとなった男の素顔。
そこには、私の大好きな、人生の目的の、最初に殺した人の顔があった。

作者メッセージ

「死神」をモチーフにした話が書きたーい!
という思いつきでこの話を書きました。
殺人鬼と死神のお話です。
新たなジャンル「ホラーグロ感動」を生み出してしまいました


ここからは作品の解説になるので自分なりの解釈をしたい人は一度考えてから見てください
↓↓↓↓↓↓↓
子供の頃にいじめられて紆余曲折あって、唯一の家族だった父を手にかけてしまって少しおかしくなった主人公は、名前も性別も忘れてただ殺すことを生きがいとします。
冒頭の床一面に散らばっているのは人肉。
たばこの灰皿がわりの白いのは人骨。
廃人状態で人を殺しては殺して日々を過ごす主人公。
いつも通りに人を殺した大雨の日。
雷と一緒に死神が命を刈り取りに来ます。
死神の男に名前を呼ばれて最初の目的とか色々記憶を呼び覚まされた主人公は生きるのが辛くなります。
死神は主人公を楽に逝かせてやります。
人生に笑いが足りなさすぎるその主人公に、死神は自分の笑った仮面をつけて、最期を笑って迎えさせます。
そうして見えた素顔。
自分の父は、死神となって娘を救いに来たのです。
最初に殺した人間が自分のことを殺す…そんな展開です。

2025/06/06 21:10

TAKOっち
ID:≫ 0seAHgxl/4K6Y
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暴力表現TAKOっち文庫ホラーグロあり感動

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