『まともを追求し、光り輝く勇者一行の最後尾で泥にまみれた荷物持ちと一羽のハシブトガラスが共謀して作り上げた、誰も死なず誰も救われない、しかし極めて合理的で「まとも」な世界の終わり方についての冒険記』
戦場という場所は、ハシブトガラスのクロにとって「巨大な食堂」に過ぎなかった。 空気が鉄の匂いに染まると、それは食い物が転がっている合図だ。
1. 蹂躙のあと
谷底には、かつて「軍隊」と呼ばれていた肉の塊が散乱していた。 勝った側の人間たちは、めぼしい貴金属を剥ぎ取ると、死体の山をそのままにして去っていった。彼らにとっての「正義」や「勝利」の祭りは終わり、あとに残ったのは静寂と、腹を空かせた黒い翼の群れだ。
クロは、ひときわ大きな岩の影に降り立った。 そこには、銀色の甲冑に身を包んだ「いかにも強そうな男」が転がっていた。だが、クロが狙うのはその男ではない。重い鎧は突きにくいし、中身はもう冷え切っている。
クロの目は、その男の影で震えている「小さくて、汚れた個体」を捉えた。
2. 生き残った「荷物持ち」
エリオンは、主人の死体の下で息を潜めていた。 彼の仕事は、主人の剣を磨き、食料を運び、その華々しい戦果を羊皮紙に記すことだった。だが、主人はあっけなく死に、エリオンの手元に残ったのは、血に汚れた日記帳と、背嚢の奥に隠した「最後の一塊の乾パン」だけだった。
「カァ」
短く、催促するようにクロが鳴いた。 エリオンは顔を上げ、泥と涙で汚れた瞳でクロを見た。普通の人間の個体なら、石を投げて追い払う場面だ。
「……君も、お腹が空いているのかい?」
エリオンの声は掠れていた。彼は震える手で背嚢を探り、自分自身の命を繋ぐはずだった乾パンを取り出した。それを細かく砕き、岩の上に並べる。
3. 奇妙な契約
クロは一歩、また一歩と距離を詰める。 人間は狡猾だ。罠かもしれない。だが、この個体からは「敵意」や「覇気」が一切感じられなかった。あるのは、深い諦念と、対象を淡々と見つめる観察者の視線だけだ。
クロは岩の上の一片を嘴で拾い上げた。 ひどくパサついていて、麦の殻が混じっている。だが、確かに「生」の味がした。
「僕はエリオン。……君は、この惨状をどう思う?」
エリオンが独り言をこぼす。クロはそれに答えず、ただ喉を鳴らして次の破片を狙った。 空の上では、他のカラスたちが死肉を巡って騒がしく争っている。しかし、この岩の影だけは、不思議と「まとも」な時間が流れていた。
1. 蹂躙のあと
谷底には、かつて「軍隊」と呼ばれていた肉の塊が散乱していた。 勝った側の人間たちは、めぼしい貴金属を剥ぎ取ると、死体の山をそのままにして去っていった。彼らにとっての「正義」や「勝利」の祭りは終わり、あとに残ったのは静寂と、腹を空かせた黒い翼の群れだ。
クロは、ひときわ大きな岩の影に降り立った。 そこには、銀色の甲冑に身を包んだ「いかにも強そうな男」が転がっていた。だが、クロが狙うのはその男ではない。重い鎧は突きにくいし、中身はもう冷え切っている。
クロの目は、その男の影で震えている「小さくて、汚れた個体」を捉えた。
2. 生き残った「荷物持ち」
エリオンは、主人の死体の下で息を潜めていた。 彼の仕事は、主人の剣を磨き、食料を運び、その華々しい戦果を羊皮紙に記すことだった。だが、主人はあっけなく死に、エリオンの手元に残ったのは、血に汚れた日記帳と、背嚢の奥に隠した「最後の一塊の乾パン」だけだった。
「カァ」
短く、催促するようにクロが鳴いた。 エリオンは顔を上げ、泥と涙で汚れた瞳でクロを見た。普通の人間の個体なら、石を投げて追い払う場面だ。
「……君も、お腹が空いているのかい?」
エリオンの声は掠れていた。彼は震える手で背嚢を探り、自分自身の命を繋ぐはずだった乾パンを取り出した。それを細かく砕き、岩の上に並べる。
3. 奇妙な契約
クロは一歩、また一歩と距離を詰める。 人間は狡猾だ。罠かもしれない。だが、この個体からは「敵意」や「覇気」が一切感じられなかった。あるのは、深い諦念と、対象を淡々と見つめる観察者の視線だけだ。
クロは岩の上の一片を嘴で拾い上げた。 ひどくパサついていて、麦の殻が混じっている。だが、確かに「生」の味がした。
「僕はエリオン。……君は、この惨状をどう思う?」
エリオンが独り言をこぼす。クロはそれに答えず、ただ喉を鳴らして次の破片を狙った。 空の上では、他のカラスたちが死肉を巡って騒がしく争っている。しかし、この岩の影だけは、不思議と「まとも」な時間が流れていた。