仮装パーティー?
とある部屋の片隅で、冬夜は椅子に腰掛けていた。色白な彼が持つスマホが発する着信音には「ネッ友」の文字。すぐにタップすると、画面が切り替わる。
「冬夜〜、いま暇?」
スピーカーから明るい男性の声が響く。ネッ友の1人であるハウルだ。外国人らしい少しカタコトの日本語に、思わず笑ってしまう。
「暇だよ。またゲームする?」
「いや、それも楽しそうだけど。来週には何があるかわかる?」
今日は10月24日。来週は10月31日が含まれていることをカレンダーで確認する。
「ハロウィンかな、もしかしてハロウィンパーティでもするの?」
「さっすが冬夜、話が速くて助かるよ!」
すると、ぽんっと軽やかな音をたてて2人同時に通話に入ってくる。
「あ、愛夢も空も来てくれたんだね!俺、感激だよ!」
「きっとハロウィンのことでしょう?面白そうじゃない。」
「自分も、パーティしたい。」
少し強気なお姉さんが愛夢、無口な方が空だ。2人ともやる気満々である。
「あとは幽と神楽だけね、もうすぐかしら?」
「幽は来るんじゃない? 神楽は朝型だからあと3時間くらいかな。」
現在の時刻は午前3時。良い子も悪い子も寝る時間だ。
ピロン、と音がなり「幽」の文字が増える。
「ごめん、遅くなった〜?」
「大丈夫。待ったのは数分だから。」
「そういう問題かな・・・・・?」
幽は中性的な声だが、一応男だ。同じく男である冬夜からすると、その声と雰囲気は、とても男のものとは思えなかった。
「来週、みんなでパーティしようよ! 場所はもう取ってあるから!」
「どこで待ち合わせにする?」
「ハチ公前でいいんじゃない?みんな東京住みだし。」
「あとは、どこでパーティするかだけど・・・・。」
「俺の家は森の中だから騒いでも大丈夫だよ!」
「森だなんてロマンチックでいいじゃない、あたしは賛成よ。」
「自分は静かなとこならどこでも―――。」
冬夜は内心、静かな場所は都合が良いと感じていたため、それに賛成した。
「あたしの家は静かだけどちょっと汚いかも。」
着々と必要事項が決まっていく。
結局、ハウルの家で行うことになった。
「あとは僕が神楽に連絡しておくよ。」
神楽は「たまーに依頼される仕事を頑張ってる。」と言っていた。フリーランスかなにかだろうと、冬夜は考えている。
通話から抜け、神楽に連絡をする。
「きてくれると嬉しいな。」
そう言いながらカレンダーを眺める。
その日は満月、幽霊が月光を浴びながらこの世に舞い戻るのだ。
「これでいいかな・・・。やっぱり変かも。」
冬夜が身にまとっているのは、黒いマント。ヴァンパイアの服装である。
それぞれがモンスターの格好をして来るよう、ハウルが提案したのだ。
しっかり身支度を整え、持ち物を確認し外に出る。
「やっぱり仮装してる人が多いな、当然だけど。」
車のナンバーを眺めながら、考える。
都外の地名が多い。これもハロウィンの影響か。
しばらく歩いていると、ハチ公前についた。待ち合わせをしている人で溢れかえっている。
「・・・・僕、迷子になりそうだ。」
普段から外に出るタイプではないため、人混みに酔いそうだ。
少し端のほうで休憩していると、声をかけられた。
「もしかして冬夜?待たせてごめんね!」
「ハウル、会えて本当によかった。」
犬のような耳をつけた金髪の男、彼こそがハウルである。
「狼男のコスプレ? よく似合ってるよ。」
「でしょでしょ!? やっぱりわかってるね〜!」
他愛ない会話をしていると、周りがざわめき始めた。
「あれ、みんな向こうをみてるね。」
「なにかあったのかな?」
コツン、コツン、と響くヒール音。騒ぎの原因は彼女のようだ。
「あれ、愛夢じゃない?」
「・・・なかなか凝ったコスプレをしてきたね。」
少し呆れ気味の冬夜。それもそのはず、愛夢のコスプレはサキュバス。これから寒くなるというのに過度な露出だ。特に男性の視線を釘付けにしている。
「あら、2人とも早いわね。」
「そうだよ〜!ちょっと早めに出てきたんだ!」
「愛夢。お願いだからこれ羽織って。」
そう言って自らのマントを手渡す。
「どうして? わざわざ着てきたのよ?」
「せめてここでは羽織って。周りからの視線が痛いから。」
舐め回すような視線が注がれていることに気づいた愛夢は肩をすくめた。
「そうね、ありがたく借りることにするわ。」
その時、冬夜の足にフサフサしたものが巻き付いた。
「ごめんね〜、遅れちゃった。」
「・・・みんな、似合ってる。」
「私達で最後かな。ま、みんなの分の切符買ったから許して?」
フサフサの正体は、空の九尾の尻尾だったらしい。神楽はシスター、幽は幽霊のコスプレをしていた。神楽が持つ十字架から目を背けながらも、合流する。
「それじゃ、早速行こうか。」
買ってもらった切符を手に、一行は駅へと向かう。ハチ公前は人で溢れていたが、冬夜たちは皆、一様にオーラが違ったのか、奇妙なほどスムーズに改札へとたどり着いた。
電車の中は人でごった返していた。冬夜は神楽の持つ十字架から距離を取るように、幽と並んで立つ。幽は相変わらず中性的で、幽霊のコスプレと完璧にマッチしていた。
「冬夜、顔色悪いわよ? 人混み酔い?」
愛夢が心配そうに尋ねる。
「大丈夫・・・。」
冬夜は愛夢の肩から提げられたバッグに目をやった。中身は分からないが、不自然に重そうだ。少しだけ空いているチャックの隙間からは甘い香りが漂う。
窓の外はもう暗闇に包まれている。ハウルが満面の笑みでスマホの天気予報を見せてきた。
「見て冬夜!今夜は最高の満月だよ!」
空は静かに窓の外を見つめている。神楽は無言で十字架を握りしめていた。
駅を降りると、人はまばらで落ち着いた雰囲気だった。
「星、きれい・・・・。」
「きっと東京では見られないわよね。」
「さぁ、みんな。ついてきて、こっちだよ!」
駅の外に広がるのは森。言われるがままついていき、鬱蒼とした森を歩く。陽気なハウルがこんな暗いところに住んでいることに冬夜は驚きを隠せない。
「ここだよ!」
目の前に[漢字]佇[/漢字][ふりがな]たたず[/ふりがな]むのは立派な館。
「すごいね〜、こんなに大きい建物初めて〜!」
幽の言う通りだ、と冬夜は思う。人が住んでいいのかと疑うほどの広さだった。
「みんな準備をして。早速始めよう!」
愛夢が仕切ったおかげか、準備はすぐに終わった。
「グラスは持った?それじゃあ、かんぱーい!」
冬夜の心配は杞憂だったのか、和やかにパーティは進んだ。
グラスを傾けつつ、談笑する友達。
その光景を眺めながら、赤ワインを注ぐ。
「うん、美味しい。」
いつも飲んでいるものとあまり味が変わらない。安心感を覚えつつも、談笑に加わる。
「ごめん、お手洗いに行ってくるね。」
そういったハウルは少し焦っているようにも見えた。手が震えている。
神楽が十字架を落としてしまった。愛夢のほうに転がるが、彼女は後ずさる。
その十字架は幽のほうへ転がる。そして、幽のことをすり抜けていった。目を見開く愛夢と冬夜。慌てる幽。
ハウルが戻ってきた。床には、はっきりと犬のような足跡が残っている。それを見て目を細める空。
「さて、ハウルも戻ってきたし、本題に入ろうか。」
神楽は十字架を拾い、手で弄びながらそう切り出した。ミシっと空気が軋む感覚がする。
「みんな、罠にかかってくれてありがとう。おかげで―――」
銀のナイフを手に持った。そこで全員が察した。
「安心して狩れる。」
神楽は退魔師(ハンター)だ。
「ヴァンパイア、狼男、九尾、サキュバス、幽霊。みんなのそれは仮装じゃない。」
誰も反論しない。しても無駄だとわかっているから。
「ここに結界を張らせてもらったの。みんなの嫌いな聖域を。」
モンスターたちは、聖なる力が苦手だ。自身の存在を揺るがす危険なものだから。
「・・・どうして。僕達は友達じゃなかったの?」
「友達だよ、私の大切な友達。でも、依頼されちゃったから。」
普段と同じ笑顔。でも、その瞳だけは違ったものだった。
「この館に狼男が出るから、退治してくれってね。」
もうその言葉を誰も聞いていなかった。ハウルは狼の姿になっていたし、愛夢は魔法陣を描いていた。空は狐火を灯していたし、幽は実体を消した。もちろん、冬夜も使役するコウモリを呼んでいた。
「楽しい狩りの始まりよ!」
神楽は水筒の中身を撒いた。ただの水ではない、聖水だ。モンスターたちが触った途端に、体が消滅するほどの強力なもの。神楽は只者ではないらしい。ドアの方に聖水が撒かれたことで、逃げ道は塞がれた。神楽はニヤリと笑う。
「無駄よ、この館は聖域になっている。あなたたちの魔力は、外に出られないどころか、弱まっているはず。」
実際、愛夢の描いた魔法陣は輝きを失いかけていた。空の狐火も、普段より弱々しい。ハウルは唸り声を上げているが、動きが鈍い。冬夜は悟った。神楽は自分たちの弱点を完全に把握し、この場に誘い込んだのだと。
「くっ・・・・!」
しかし、冬夜は諦めなかった。彼は使役していたコウモリたちに、館の天井にあるシャンデリアを狙うよう指示を出す。シャンデリアが落ちれば、明かりが消え、視界が遮られる。神聖な力が満ちる場所でも、闇はヴァンパイアの味方だ。
ガシャン、と音を立ててシャンデリアが砕け散り、館の中は漆黒の闇に包まれた。
「ここからは僕のステージだ、神楽!」
冬夜の声が聞こえる。聖域で弱っていても力強い声だった。
勝負は一瞬で決着がついた。闇を舞うヴァンパイアと夜目がきかない人間ではその差は歴然としている。
「・・・負けね。」
「ごめん。大事な友達だけど、君は生かしておけない。」
少しずつ息が弱々しくなって、最後は静かに目を閉じた。冬夜はガブッと肩を噛んで血をすする。友達が亡くなった、というのに微動だにしないのはモンスターだからなのか。
そして聖域が消えた。結界が解けたことで、館には再び月明かりが差し込み、魔力も戻ってきた。愛夢はドレスの煙を払い、ハウルは人間の姿に戻り、空は尻尾を収める。幽はいつの間にか姿を現し、血を吸う冬夜を静かに見ていた。
冬夜は血を吸い終え、満足げに振り返る。しかし、そこにいたはずの愛夢やハウル、空、幽は、彼を見る目が違っていた。そこにあったのは友情ではない。捕食者としての本能だ。
「ねえ、冬夜・・・・?」
愛夢が艶めかしく笑う。
「私たち、まだお腹が空いてるの。」
ハンターという共通の敵がいなくなった今、彼らは冬夜を次のターゲットと見なしたのだ。本当の恐怖は、これから始まる。
「冬夜〜、いま暇?」
スピーカーから明るい男性の声が響く。ネッ友の1人であるハウルだ。外国人らしい少しカタコトの日本語に、思わず笑ってしまう。
「暇だよ。またゲームする?」
「いや、それも楽しそうだけど。来週には何があるかわかる?」
今日は10月24日。来週は10月31日が含まれていることをカレンダーで確認する。
「ハロウィンかな、もしかしてハロウィンパーティでもするの?」
「さっすが冬夜、話が速くて助かるよ!」
すると、ぽんっと軽やかな音をたてて2人同時に通話に入ってくる。
「あ、愛夢も空も来てくれたんだね!俺、感激だよ!」
「きっとハロウィンのことでしょう?面白そうじゃない。」
「自分も、パーティしたい。」
少し強気なお姉さんが愛夢、無口な方が空だ。2人ともやる気満々である。
「あとは幽と神楽だけね、もうすぐかしら?」
「幽は来るんじゃない? 神楽は朝型だからあと3時間くらいかな。」
現在の時刻は午前3時。良い子も悪い子も寝る時間だ。
ピロン、と音がなり「幽」の文字が増える。
「ごめん、遅くなった〜?」
「大丈夫。待ったのは数分だから。」
「そういう問題かな・・・・・?」
幽は中性的な声だが、一応男だ。同じく男である冬夜からすると、その声と雰囲気は、とても男のものとは思えなかった。
「来週、みんなでパーティしようよ! 場所はもう取ってあるから!」
「どこで待ち合わせにする?」
「ハチ公前でいいんじゃない?みんな東京住みだし。」
「あとは、どこでパーティするかだけど・・・・。」
「俺の家は森の中だから騒いでも大丈夫だよ!」
「森だなんてロマンチックでいいじゃない、あたしは賛成よ。」
「自分は静かなとこならどこでも―――。」
冬夜は内心、静かな場所は都合が良いと感じていたため、それに賛成した。
「あたしの家は静かだけどちょっと汚いかも。」
着々と必要事項が決まっていく。
結局、ハウルの家で行うことになった。
「あとは僕が神楽に連絡しておくよ。」
神楽は「たまーに依頼される仕事を頑張ってる。」と言っていた。フリーランスかなにかだろうと、冬夜は考えている。
通話から抜け、神楽に連絡をする。
「きてくれると嬉しいな。」
そう言いながらカレンダーを眺める。
その日は満月、幽霊が月光を浴びながらこの世に舞い戻るのだ。
「これでいいかな・・・。やっぱり変かも。」
冬夜が身にまとっているのは、黒いマント。ヴァンパイアの服装である。
それぞれがモンスターの格好をして来るよう、ハウルが提案したのだ。
しっかり身支度を整え、持ち物を確認し外に出る。
「やっぱり仮装してる人が多いな、当然だけど。」
車のナンバーを眺めながら、考える。
都外の地名が多い。これもハロウィンの影響か。
しばらく歩いていると、ハチ公前についた。待ち合わせをしている人で溢れかえっている。
「・・・・僕、迷子になりそうだ。」
普段から外に出るタイプではないため、人混みに酔いそうだ。
少し端のほうで休憩していると、声をかけられた。
「もしかして冬夜?待たせてごめんね!」
「ハウル、会えて本当によかった。」
犬のような耳をつけた金髪の男、彼こそがハウルである。
「狼男のコスプレ? よく似合ってるよ。」
「でしょでしょ!? やっぱりわかってるね〜!」
他愛ない会話をしていると、周りがざわめき始めた。
「あれ、みんな向こうをみてるね。」
「なにかあったのかな?」
コツン、コツン、と響くヒール音。騒ぎの原因は彼女のようだ。
「あれ、愛夢じゃない?」
「・・・なかなか凝ったコスプレをしてきたね。」
少し呆れ気味の冬夜。それもそのはず、愛夢のコスプレはサキュバス。これから寒くなるというのに過度な露出だ。特に男性の視線を釘付けにしている。
「あら、2人とも早いわね。」
「そうだよ〜!ちょっと早めに出てきたんだ!」
「愛夢。お願いだからこれ羽織って。」
そう言って自らのマントを手渡す。
「どうして? わざわざ着てきたのよ?」
「せめてここでは羽織って。周りからの視線が痛いから。」
舐め回すような視線が注がれていることに気づいた愛夢は肩をすくめた。
「そうね、ありがたく借りることにするわ。」
その時、冬夜の足にフサフサしたものが巻き付いた。
「ごめんね〜、遅れちゃった。」
「・・・みんな、似合ってる。」
「私達で最後かな。ま、みんなの分の切符買ったから許して?」
フサフサの正体は、空の九尾の尻尾だったらしい。神楽はシスター、幽は幽霊のコスプレをしていた。神楽が持つ十字架から目を背けながらも、合流する。
「それじゃ、早速行こうか。」
買ってもらった切符を手に、一行は駅へと向かう。ハチ公前は人で溢れていたが、冬夜たちは皆、一様にオーラが違ったのか、奇妙なほどスムーズに改札へとたどり着いた。
電車の中は人でごった返していた。冬夜は神楽の持つ十字架から距離を取るように、幽と並んで立つ。幽は相変わらず中性的で、幽霊のコスプレと完璧にマッチしていた。
「冬夜、顔色悪いわよ? 人混み酔い?」
愛夢が心配そうに尋ねる。
「大丈夫・・・。」
冬夜は愛夢の肩から提げられたバッグに目をやった。中身は分からないが、不自然に重そうだ。少しだけ空いているチャックの隙間からは甘い香りが漂う。
窓の外はもう暗闇に包まれている。ハウルが満面の笑みでスマホの天気予報を見せてきた。
「見て冬夜!今夜は最高の満月だよ!」
空は静かに窓の外を見つめている。神楽は無言で十字架を握りしめていた。
駅を降りると、人はまばらで落ち着いた雰囲気だった。
「星、きれい・・・・。」
「きっと東京では見られないわよね。」
「さぁ、みんな。ついてきて、こっちだよ!」
駅の外に広がるのは森。言われるがままついていき、鬱蒼とした森を歩く。陽気なハウルがこんな暗いところに住んでいることに冬夜は驚きを隠せない。
「ここだよ!」
目の前に[漢字]佇[/漢字][ふりがな]たたず[/ふりがな]むのは立派な館。
「すごいね〜、こんなに大きい建物初めて〜!」
幽の言う通りだ、と冬夜は思う。人が住んでいいのかと疑うほどの広さだった。
「みんな準備をして。早速始めよう!」
愛夢が仕切ったおかげか、準備はすぐに終わった。
「グラスは持った?それじゃあ、かんぱーい!」
冬夜の心配は杞憂だったのか、和やかにパーティは進んだ。
グラスを傾けつつ、談笑する友達。
その光景を眺めながら、赤ワインを注ぐ。
「うん、美味しい。」
いつも飲んでいるものとあまり味が変わらない。安心感を覚えつつも、談笑に加わる。
「ごめん、お手洗いに行ってくるね。」
そういったハウルは少し焦っているようにも見えた。手が震えている。
神楽が十字架を落としてしまった。愛夢のほうに転がるが、彼女は後ずさる。
その十字架は幽のほうへ転がる。そして、幽のことをすり抜けていった。目を見開く愛夢と冬夜。慌てる幽。
ハウルが戻ってきた。床には、はっきりと犬のような足跡が残っている。それを見て目を細める空。
「さて、ハウルも戻ってきたし、本題に入ろうか。」
神楽は十字架を拾い、手で弄びながらそう切り出した。ミシっと空気が軋む感覚がする。
「みんな、罠にかかってくれてありがとう。おかげで―――」
銀のナイフを手に持った。そこで全員が察した。
「安心して狩れる。」
神楽は退魔師(ハンター)だ。
「ヴァンパイア、狼男、九尾、サキュバス、幽霊。みんなのそれは仮装じゃない。」
誰も反論しない。しても無駄だとわかっているから。
「ここに結界を張らせてもらったの。みんなの嫌いな聖域を。」
モンスターたちは、聖なる力が苦手だ。自身の存在を揺るがす危険なものだから。
「・・・どうして。僕達は友達じゃなかったの?」
「友達だよ、私の大切な友達。でも、依頼されちゃったから。」
普段と同じ笑顔。でも、その瞳だけは違ったものだった。
「この館に狼男が出るから、退治してくれってね。」
もうその言葉を誰も聞いていなかった。ハウルは狼の姿になっていたし、愛夢は魔法陣を描いていた。空は狐火を灯していたし、幽は実体を消した。もちろん、冬夜も使役するコウモリを呼んでいた。
「楽しい狩りの始まりよ!」
神楽は水筒の中身を撒いた。ただの水ではない、聖水だ。モンスターたちが触った途端に、体が消滅するほどの強力なもの。神楽は只者ではないらしい。ドアの方に聖水が撒かれたことで、逃げ道は塞がれた。神楽はニヤリと笑う。
「無駄よ、この館は聖域になっている。あなたたちの魔力は、外に出られないどころか、弱まっているはず。」
実際、愛夢の描いた魔法陣は輝きを失いかけていた。空の狐火も、普段より弱々しい。ハウルは唸り声を上げているが、動きが鈍い。冬夜は悟った。神楽は自分たちの弱点を完全に把握し、この場に誘い込んだのだと。
「くっ・・・・!」
しかし、冬夜は諦めなかった。彼は使役していたコウモリたちに、館の天井にあるシャンデリアを狙うよう指示を出す。シャンデリアが落ちれば、明かりが消え、視界が遮られる。神聖な力が満ちる場所でも、闇はヴァンパイアの味方だ。
ガシャン、と音を立ててシャンデリアが砕け散り、館の中は漆黒の闇に包まれた。
「ここからは僕のステージだ、神楽!」
冬夜の声が聞こえる。聖域で弱っていても力強い声だった。
勝負は一瞬で決着がついた。闇を舞うヴァンパイアと夜目がきかない人間ではその差は歴然としている。
「・・・負けね。」
「ごめん。大事な友達だけど、君は生かしておけない。」
少しずつ息が弱々しくなって、最後は静かに目を閉じた。冬夜はガブッと肩を噛んで血をすする。友達が亡くなった、というのに微動だにしないのはモンスターだからなのか。
そして聖域が消えた。結界が解けたことで、館には再び月明かりが差し込み、魔力も戻ってきた。愛夢はドレスの煙を払い、ハウルは人間の姿に戻り、空は尻尾を収める。幽はいつの間にか姿を現し、血を吸う冬夜を静かに見ていた。
冬夜は血を吸い終え、満足げに振り返る。しかし、そこにいたはずの愛夢やハウル、空、幽は、彼を見る目が違っていた。そこにあったのは友情ではない。捕食者としての本能だ。
「ねえ、冬夜・・・・?」
愛夢が艶めかしく笑う。
「私たち、まだお腹が空いてるの。」
ハンターという共通の敵がいなくなった今、彼らは冬夜を次のターゲットと見なしたのだ。本当の恐怖は、これから始まる。
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