文字サイズ変更

文スト短編集

#29

痴漢 敦

なるほど、立場が「逆」ですね。
つまり、**「あなたが痴漢に遭っているところに、敦くんが助けに来てくれる」**というシチュエーションですね。
仕事帰りの満員電車。あなたは逃げ場のない人混みの中で、背後に感じる異質な感触に凍りついていた。
何度も執拗に、服の上から這い回る指。

(やめて……誰か……)

恐怖で声が出ない。周囲は無関心な乗客ばかり。
そんな絶望に沈みかけた時、不自然なほど近くに「彼」が滑り込んできた。

「——そこまでですよ」

聞き慣れた、けれど今まで聞いたことがないほど冷え切った声。
敦が、あなたの背後に無理やり割り込み、●●の腰をまさぐっていた男の手首を、万力のような力で掴み取った。

「な、なんだお前は! 邪魔するな……っ!?」

男の怒鳴り声が、敦の視線に触れた瞬間に消えた。
敦の瞳が、獣のように黄金色に光っている。その眼光は、獲物を仕留める直前の猛獣そのものだった。

「……僕の、大切な人に触ったんです。タダで済むと思わないでください」

敦の瞳が獣の黄金色に輝き、犯人の男を射抜く。男は悲鳴を上げて逃げ出し、車内に静寂が戻った。
敦は肩を震わせながら、あなたの肩を抱き寄せた。

「……怖かったよね。ごめん、もっと早く気づけば……」

心底申し訳なさそうに眉を下げ、あなたの顔を覗き込む敦。その指先が、まだ少しだけ白虎の鋭さを残したまま、あなたの頬に触れようとした、その時。

「おやおや、敦くん。随分と物騒な顔をしているじゃないか」

聞き慣れた、ひょうひょうとした声。
いつの間にか背後に立っていたのは、砂色のコートをなびかせた太宰治だった。

「だ、太宰さん!? どうしてここに……」

「たまたま通りかかってね。……いや、君たちの『熱い視線』が電車を突き抜けて聞こえてきたと言った方が正しいかな?」

太宰は口角を上げると、敦が●●を抱きしめていた腕を、ひょいと軽く叩いて解かせた。
そして、●●の前にすっと入り込み、あえて敦を遮るようにしての●●手を取る。

「災難だったね。こんなに綺麗な手を震わせて……。敦くん、君が守りきれなかったせいで、彼女の心が傷ついてしまったじゃないか」

「うっ……す、すみません……」

太宰の言葉に、敦が目に見えて落ち込み、耳を垂らした犬のようにシュンとする。
けれど、太宰の瞳は笑っていなかった。彼は●●の手を取り、指先にそっと触れながら、敦にだけ聞こえる低い声で告げる。

「……次は『威嚇』だけで済ませるのかい? 敦くん。君の大切なものを奪おうとする者は、もっと徹底的に叩き潰さないと。……ねぇ?」

その言葉に、敦の背筋が凍りつく。
太宰はすぐにいつものふざけた表情に戻り、「さぁ、探偵社に戻って、美味しいお茶でも淹れてあげよう。敦くんの奢りでね!」と歩き出した。

あなたの背中を優しく押す太宰の横で、敦は「えっ、僕の奢りですか!?……でも、次は絶対に、指一本触れさせませんから……!」と、今度はより強い決意を瞳に宿して、●●の隣をぴったりとキープし直すのだった。

太宰さんが「お先に失礼、若い二人の邪魔はしない主義でね」と、ひらひらと手を振って路地へ消えていく。
残されたのは、街灯が灯り始めた静かな道。

「……あの、大丈夫? 手、まだ震えてる」

敦くんが、おずおずとあなたの顔を覗き込む。
さっきまでの「白虎」の猛々しさはどこへやら、今の彼は捨てられた子犬のような、心配げな表情を浮かべていた。

「ごめんね。僕がもっと早く気づいていれば……太宰さんに言われた通りだ。君に怖い思いをさせて、守りきれなかった」

彼は自分の不甲斐なさを噛みしめるように唇を噛む。
●●が「そんなことないよ、助けてくれて嬉しかった」と伝えると、敦くんの瞳に、ふっと熱い色が灯った。

「……ねえ、もう一度、手を繋いでもいい?」

彼が差し出した手は、先ほど男の手首を掴み上げた時とは正反対の、優しくて切実な震えを帯びていた。
●●がその手を握り返すと、彼は壊れ物を扱うように指を絡ませ、ぎゅっと力を込める。

「……さっき、太宰さんが言ったこと。……本気だから」

彼は立ち止まり、●●を自分の方へと引き寄せた。
至近距離で見つめる黄金色の瞳が、夕闇の中でわずかに潤んで見える。

「君を傷つけるものは、僕が全部、叩き潰す。……君だけは、何があっても僕が守り抜くから」

そう囁くと、彼は●●の指先にそっと唇を寄せた。
騎士(ナイト)のような、けれどどこか「自分だけのものだ」と印をつけるような、深くて甘い口づけ。

「……今日は、このまま君の家まで送らせて。……もっと、君の体温を感じていたいんだ」

顔を赤らめながらも、繋いだ手は絶対に離さない。
少しだけ強引で、でも最高に優しい。そんな敦くんの独占欲に包まれながら、二人の夜がゆっくりと更けていく。

「おはようございます……っ」

敦くんがあなたの隣で、心なしか緊張した面持ちで挨拶をする。繋いでいた手は、探偵社のビルの前で名残惜しそうに離したけれど、彼の指先はまだあなたの体温を覚えているようだった。

「おや、おはよう。二人揃っての出勤とは、仲が良いねぇ」

机に足を投げ出し、ヘッドホンを首にかけた太宰さんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。

「だ、太宰さん! 変な言い方しないでくださいよ!」
「おやおや、心当たりがあるのかい? 昨日の『白虎くん』は随分と勇ましかったからねぇ」

太宰さんの言葉に、敦くんの顔がみるみるうちに林檎のように赤くなる。
すると、その騒ぎを聞きつけたナオミさんが、兄様の腕に絡みつきながら割り込んできた。

「あら、何ですの? 敦さんと●●さん、何だか雰囲気が……昨日よりずっと『密』な感じですわね!」
「な、ナオミさんまで……!」
「ふふ、敦さん。顔に『僕の大切な人です』って書いてありますわよ」

与謝野先生までがコーヒーを片手に加わり、敦くんは完全に包囲網の中。
彼はタジタジになりながらも、チラリと●●の様子を伺う。

「……あの、皆さん! ●●さんを困らせないでください!」

敦くんは勇気を振り絞って、あなたの前に一歩踏み出し、背中で庇うように立ちふさがりました。

「昨日のことは……僕が、勝手に守りたいって思っただけですから。……茶化すなら、僕だけにしてください」

その言葉は少し震えていたけれど、声には確かな意志が宿っています。
それを見た太宰さんは「やれやれ、ご馳走様」と肩をすくめ、ナオミちゃんは「男前ですわ〜!」と拍手喝采。

「……大丈夫? 嫌じゃなかった?」

騒ぎが落ち着いた隙に、敦くんが小声であなたに囁いた。
その瞳は、周りのからかいなんてどうでもいいほど、まっすぐに●●だけを映していた。

「……今日は帰り道、誰にも邪魔されないところで、昨日の続き……ちゃんと言わせてください」

事務机の下で、彼は一瞬だけ、●●の小指に自分の指を絡めた。
探偵社の賑やかな日常の中で、二人だけの秘密の約束が、甘く静かに溶けていった。

「あーあ、敦くん。そんなに顔を真っ赤にして仕事をしていては、書類の文字まで燃えてしまいそうだねぇ」

太宰さんが大げさにため息をつきながら、ひらりと二人の間に割り込みました。
敦くんは「だ、太宰さん、仕事中ですよ!」と慌ててパソコンに向き直りますが、タイピングする指先がおぼつかないのは一目瞭然だ。

すると太宰さんは、二人の机にポン、と二枚のチケットを置いた。

「はい、これ。国木田くんから押し付けられた……いや、譲り受けた『特別任務』だ」

「任務……ですか? 遊園地の、ペアチケット……?」

敦くんが首を傾げると、太宰さんは悪戯っぽく片目を瞑る。

「そう。最近その界隈で『幸せそうなカップル』を狙う不届きな輩が出るという噂があってね。……君たち二人で、囮になって調査してきなよ。今すぐ!」

「ええっ!? 今すぐですか? でもまだ報告書が……」

「それは私が適当に……いや、完璧に片付けておくよ。さぁ、行き給え! これは社主の……というか、私の命令だ」

太宰さんは有無を言わせぬ勢いで、二人の背中をぐいぐいと出口の方へ押し出す。
ナオミさんが「あら、太宰さん、粋なことをしますわね!」とはしゃぎ、与謝野先生も「たまには羽を伸ばしてきな、敦」と不敵に笑って送り出してくれた。

結局、半分追い出されるようにしてやってきた夕暮れの遊園地。
「調査」という名目ですが、どこからどう見ても、それはただのデートだった。

アトラクションを巡り、少し落ち着いた頃。
二人はゆっくりと回る観覧車の中にいた。

「……太宰さん、あんなこと言ってたけど。本当は、僕たちのこと気遣ってくれたんですよね」

敦くんが窓の外を見つめながら、ぽつりと呟いた。
街の灯りがキラキラと彼の瞳に反射している。

「昨日、君を怖い目に遭わせちゃったから……。僕がずっと、君の隣で暗い顔をしてたから、元気づけようとしてくれたんだと思います」

彼はふっと笑うと、向かい合わせに座っていたあなたの隣に、少しだけ距離を詰めて座り直した。

「……でも、太宰さんに感謝しなきゃ。おかげで、二人きりになれたから」

観覧車が一番高いところに差し掛かった時。
敦くんは、あなたの手を昨日よりもずっと優しく、でも力強く包み込んだ。

「僕、もっと強くなるよ。君が隣で、ずっと笑っていられるくらいに。……だから、これからも僕のそばにいてくれますか?」

黄金色の瞳に宿る熱い決意。
太宰さんの粋な計らいは、二人の距離を昨日よりもずっと深く、確かなものに変えてくれたようだ。

「……ねぇ、もう一周、乗ってもいいかな? まだ、離したくないんだ」

照れくさそうに笑う敦くん。
探偵社に戻れば、きっと太宰さんに「どうだった? 任務の成果は?」と散々からかわれるでしょう。
でも、今の二人にとっては、そんな賑やかな日常も、この静かな時間も、すべてがかけがえのない宝物なのだった。

作者メッセージ

関係ないんですけど最近MARETUさんにハマってます!!

2026/02/24 20:46


ID:≫ 8hMcn.vWKf9vE
コメント

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権はさんに帰属します

TOP