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文スト短編集

#23

優しさ 中島敦

横浜の街を包む夕刻の群青は、今の私には少し重すぎる。
 駅へ向かう人波に肩をぶつけられ、小さく謝る声さえ、乾いた喉に張り付いて出てこない。仕事で重なったミス、上司の冷ややかな視線、自分への失望。それらが泥のように足元に絡みついて、一歩踏み出すのさえ億劫だった。

……どこか、遠くへ行きたいな

 そんな子供じみた逃避行を空想しながら、力なく俯いて歩いていた、その時。

中島「――っ、あの! ……あ、やっぱり」

 聞き覚えのある、少し高めで、それでいて落ち着く声が鼓膜を震わせた。
 視線を上げると、そこには見覚えのある白い髪と、アンバランスに長いベルトを揺らした少年――中島敦くんが立っていた。

●●「敦、くん……」

中島「やっぱり、そうですか。遠くから見て、なんだかすごく……消えてしまいそうな背中が見えたから、つい」

 彼は私を呼び止めてしまったことに少し戸惑うように、眉を八の字に下げて立ち尽くしている。
 いつもの彼なら、ここで「お疲れ様です!」と元気に挨拶をしてくれるはずだ。けれど、今の彼は言葉を選んでいるようで、その紫金色の瞳は、隠しきれない私の疲弊を真っ向から見つめていた。

中島「……何か、ありましたか?」

 その問いかけは、あまりに優しすぎて。
 大丈夫だよ、と笑おうとした私の唇が、情けなく震えたのを彼は見逃してくれなかった。

中島「……あの、もし良ければなんですけど」

敦くんがおずおずと差し出した手は、私の冷え切った指先に触れるか触れないかの距離で止まる。

中島「少しだけ、寄り道していきませんか? 美味しい珈琲……じゃなくて、すごく甘いココアとか。そういうのが必要な気がするんです、今の貴女には」

カラン、と乾いたドアベルの音が店内に響く。
 夕食どきを控えた『喫茶うずまき』は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。窓際の席に座ると、敦くんは「ここ、落ち着くんです」とはにかんで、私のために温かいココアを注文してくれた。

 運ばれてきたカップからは、濃厚なチョコの香りと、ぷかぷかと浮いたマシュマロの甘い匂いが立ち上る。
 それを一口啜ると、こわばっていた喉の奥が、熱を帯びてゆっくりと解けていくのが分かった。

●●「……あの、敦くん」

中島「はい」

●●「私、今日……本当にダメだったの。何をやっても空回りで、周りにも迷惑をかけて。……自分なんて、ここに居ない方がいいんじゃないかって、本気で思っちゃって」

 一度口にすると、堰を切ったように言葉が溢れた。情けなくて、視界がじわりと滲む。
 敦くんは、遮ることなく最後まで聞いてくれた。その大きな掌を、テーブルの上でぎゅっと握りしめながら。

中島「……僕も、同じでした」

 ぽつり、と彼が零した。
 顔を上げると、彼は窓の外、暮れなずむ横浜の街並みを見つめていた。

中島「孤児院にいた頃、僕は毎日そう思っていました。食べる価値も、息をする価値もない人間だって。誰からも必要とされず、ただ追い出される日を待っているだけの……暗い、暗い穴の底にいるような毎日でした」

 彼の声は静かだったけれど、そこには無視できないほどの重みがあった。

中島「でも、太宰さんに拾われて、探偵社のみんなに出会って。……初めて気づいたんです。誰かに『そこにいていい』と言ってもらえることが、どれほど救いになるか」

 敦くんは視線を戻すと、滲んだ私の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳は、夜を駆ける虎のように強く、それでいて壊れ物を扱うように優しい。

中島「貴女は、ダメなんかじゃありません。今日一日、そんなに苦しい思いをしながらも、こうして僕の前にいてくれる。それだけで、貴女は今日という日に勝ったんです」

●●「……敦くん」

中島「僕が、貴女の居場所になります。もし世界中の誰もが貴女を否定しても、僕だけは『ここにいてください』って言い続けます。……だから、自分を嫌いにならないでください」

 差し出された彼の手が、私の震える手に重なった。
 驚くほど熱いその体温は、冷え切っていた私の心に、確かな「生」の灯を灯してくれるようだった。


中島「……すみません、僕ばっかり喋っちゃって。少し、落ち着きましたか?」

 敦くんがふっと表情を和らげ、重なっていた手をそっと引く。けれど、その指先が離れる瞬間の寂しさに、私は無意識に彼の袖口を掴んでしまっていた。
 彼は一瞬驚いたように目を見開いたけれど、すぐにすべてを察したように、困ったような、でも愛おしそうな笑みを浮かべる。

中島「……帰りましょうか。家まで、送らせてください」

 会計を済ませて店の外へ出ると、横浜の街はすっかり夜の帳に包まれていた。海から吹き抜ける風は昼間よりも鋭く、私は思わず身を縮める。
 すると、隣を歩いていた敦くんが「あの」と言いかけて、迷うように右手を彷徨わせた。

中島「……冷えますから。……いい、ですか?」

 彼が差し出した掌に、今度は私からそっと指を絡める。
 その瞬間、ぎゅっと力強く握り返された。

●●「わっ、……敦くん、手、すごく温かい」

中島「あはは、やっぱり分かりますか? 虎の力っていうか……代謝がいいみたいで。冬場はよく、探偵社のみんなにカイロ代わりにされるんですよ」

 照れ隠しにそう笑う彼だったけれど、繋いだ手から伝わってくるのは、単なる体温だけじゃない。私の存在を肯定し、守ろうとしてくれる彼の強い意志そのものだった。

 街灯の下、二人の影が長く伸びて重なる。
 さっきまであんなに重かった足取りが、今は彼のリズムに合わせて軽くなっていくのが不思議だった。

●●「……敦くん、ありがとう。少しだけ、明日も頑張れる気がする」

中島「……はい。もし明日、また挫けそうになったら、今日のこの温度を思い出してください。僕はいつでも、貴女の味方ですから」

 家の前まで着いても、彼は名残惜しそうに、けれど優しく私の手を離した。

中島「おやすみなさい。……また明日、元気な貴女に会えるのを楽しみにしてます」

 暗闇の中でも鮮やかに輝く紫金色の瞳に見送られながら、私は初めて、心からの溜息ではない、深い安らぎの呼吸をつくことができた。

作者メッセージ

今回はAIを使いました!どうでしょうか?もしこれでもいいならたまにAIを使って書こうと思っています!
良ければ自分で書けよ!とかでもいいのでお気持ち教えてください!!

2026/02/22 14:11


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