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【大型参加型】何でも屋Absolute Vanta残り7枠

#22

零と律と梅紀

廊下には、不穏な静寂が漂っていた。
本来なら、任務終わりの賑やかな声が聞こえてくる時間。だが、今はただ、重苦しい「過呼吸」の音と、それをなだめようとする壱羽志梅紀の困惑した声だけが響いている。

梅紀「ねえ、ボス……大丈夫だって。誰も死んでない、みんな無事だよ、ね……?」

壁を背に崩れ落ち、頭を抱えて激しく震えているのは月城零だ。その瞳は焦点が合っておらず、純白の手袋は床を掻きむしりすぎたせいで汚れ、指先が白くなるほど強く握り込んでいる。

零「ひ、ひ……っ、だめだ、糸、引いて……心臓、動かさなきゃ……止まっちゃう、死なせない、死なせない……っ!」

梅紀「あー、もう! 零さん、しっかりしてよ。俺に向かって拳はダメだけど、自傷もダメ。……『disordered love』でもかけて落ち着かせる? ……あ、いや、これじゃ逆効果か」

銀髪をポニーテールに結んだ梅紀は、大きな体を屈めて必死に零の肩を掴むが、パニック状態の零の怪力に弾かれそうになる。

梅紀「……埒が明かない。……律さん!! 律さん、助けて!! ボスがもう限界!!」

梅紀の悲痛な叫びに応えるように、廊下の向こうから落ち着いた靴音が近づいてきた。
ベージュのロングコートを翻した尼崎律が現れる。その手には、先ほどまで格闘していたであろう大量の書類ではなく、救急箱が握られていた。

律「……全く。若者にこんな面倒な絡み方をするのは辞めてくださいと言ったでしょう、首領」

梅紀「律さん! やっと来た、もう、零さん全然俺の言うこと聞いてくれないんだよ!」

律「お疲れ様、梅紀くん。……後は私が引き受けます。貴方は少し離れていなさい」

律は流れるような動作で零の前に跪くと、暴れる彼の両手を力強く、だが慈しむように押さえつけた。30歳の「大人」としての重みが、零の狂乱を真っ向から受け止める。

零「……、……っ、あ……りつ……律……」

律「落ち着きなさい、月城零。……貴方の立ち位置を思い出しなさい」

律の低く、静かな声が鼓膜を打つ。律は零の瞳を真っ直ぐに見つめ、その特異な能力を発動させた。

律「……今から私の質問に全て正直に答えて貰います。……いいですね?」

零の瞳が、能力の強制力によって僅かに虚ろになる。

律「……ここにいるのは、誰ですか」

零「……律。…と、梅紀くん」

律「ええ。私たちが死んでいるように見えますか?」

零「……。ううん。……生きてる。あったかい」

律「結構。……では、貴方は首領として何をすべきですか」

零「…………。みんなを、……家族を、守らなきゃ。……笑わせなきゃ。……ごめん、律。もう、大丈夫……」

律が能力を解くと、零の荒い呼吸が次第に穏やかになっていく。零は力なく律の肩に額を預け、長い三つ編みが律の腕に絡みついた。

律「……はぁ。何故私はこんな男について行ってしまったのでしょう……。全く、秘書の仕事に『首領の介護』は入っていないはずなのですが」

零「あは、あはは……。ごめんね、律。……梅紀くんも。怖がらせちゃったかな?」

ようやく正気に戻った零が、弱々しく笑いながら梅紀を見る。梅紀はほっとしたように、いつもの末っ子らしい表情に戻って零の背中に抱きついた。

梅紀「もう! ほんっとに、心臓に悪いから。遊びたかったのに遊べないじゃん。……お詫びに今から俺と遊んでよね?」

零「いいよ。……かき氷でも食べようか。チョコバナナもつけるよ。ほかに食べたいものはある?」

律「……その前に。サボった分の書類を終わらせてください、首領。既にデスクは雪崩を起こしています」

律が冷たく言い放ち、眼鏡のブリッジを押し上げる。

律「大丈夫ですよ。貴方は貴方の仕事をこなせています。……ただし、事務作業以外は、ですがね」

零「あはは……手厳しいなぁ。……ねぇ、律。いつもありがとう」

律「……。愚痴を零す余裕があるのなら働いてください」

そう言いながらも、律は零が立ち上がるのをさりげなく支えていた。有能すぎる秘書と、寂しがり屋の執行幹部。そして、危うい均衡を保つ首領。

歪な家族の、いつもの「日常」がまた動き始めた。

作者メッセージ

そういやパニック書いてないなぁ~と思ったので書いてみました。
因みに正しいストーリーが始まるのは枠が埋まってからです!

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