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主人公・ハルには、特殊な能力がある。それは、「人がついた嘘が、その人の色で空中に浮かんで見える」というものだ。
優しい嘘は淡い桜色、自分を守るための嘘は霧のような灰色、そして悪意のある嘘はどす黒い紫。

ハルの日常は、色とりどりの「嘘」に囲まれている。
「テストの点数、次は期待してるわよ」と言う母親の頭上には、真っ赤な執着の嘘が。
「親友だから何でも言ってよ」と笑う友人の肩には、濁った黄色の計算の嘘が。
ハルはそれらを見ないふりをして、自分もまた「大丈夫だよ」という透明な嘘をついて生きている。


ある日、ハルのクラスにカナタという転校生がやってくる。
驚いたことに、カナタが何を喋っても、彼の周りには一切の色がつかないのだ。
「僕は嘘をつけない体質なんだ」
そう語るカナタの言葉すら、色を持たない。ハルは初めて、嘘のない世界、つまり「真実だけの音」を聴く。

ハルはカナタに惹かれていく。彼と一緒にいれば、誰かの顔色を伺って「人形」になる必要がない。ハルは彼にだけ、自分の特殊な能力のこと、そして世界が嘘の色で埋め尽くされている絶望を打ち明けた。

しかし、ある放課後。
ハルは、カナタがクラスの誰かと話しているのを目撃する。
「ハルの能力のこと? ああ、適当に話を合わせただけだよ。あいつ、ちょっと変わってるからさ」
その瞬間、カナタの口から、今まで見たこともないほど鮮やかで美しい、深海のような青い色が溢れ出した。

カナタは「嘘をつけない」のではなく、「自分のつく嘘を、心の底から真実だと思い込める」という、もっとも深い嘘つきだったのだ。


絶望するハルに、カナタは微笑んで言う。
「色が見えるからって、それが本心とは限らないだろ? 嘘は、誰かと繋がるための『お守り』なんだよ」

ハルは気づく。自分を縛り付けていた親の嘘も、友人の嘘も、それらは自分を攻撃するための武器ではなく、彼らが彼ら自身を保つための必死の防衛反応だったのかもしれない、と。

ハルは初めて、自らの意志で、鮮やかな黄金色の嘘をつくことに決めた。
「……あなたの嘘、とっても綺麗だね」

空中に浮かんだ黄金色の煙を見つめながら、ハルは人形であることをやめ、一人の「嘘つきな人間」として歩き出す。

「真実だけでは息が詰まる。嘘があるから、私たちは他人と触れ合えるのかもしれない」

2026/03/20 23:09


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