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返事をしたのは、誰?

 停電は、予告もなく来た。

 集会所の灯りが、ふっと消える。
 一瞬遅れて、外の街灯も落ちた。

「……真っ暗だな」

 誰かがそう言って、すぐに黙った。
 この村では、暗闇で余計なことを言わない。

 私は畳に座ったまま、動かなかった。
 人数は六人。
 来たときに、確かめている。

 返事をしてはいけない。
 暗闇で呼びかけられても、声を返してはいけない。
 それが、この村の決まりだ。

 闇に目が慣れてくる。
 何も見えない代わりに、音だけがはっきりする。

 衣擦れ。
 誰かの息。
 柱の軋む音。

「……いる?」

 低い声だった。
 問いかけるようで、確かめるような声。

 誰も答えない。
 それでいい。

 私は、息の数を数えた。

 一つ。
 二つ。
 三つ。
 四つ。
 五つ。

 ……もう一つ、どこだ?

 私のすぐ近くで、誰かが息を吸った。
 近すぎる。
 そんな位置に、人はいなかったはずなのに。

「今の、誰?」

 別の声。
 少し高い。

 返事をしてはいけない。
 問いかけに、応じてはいけない。

 闇が、静かに沈黙する。

 もう一度、声がした。

「……そこに、いる?」

 今度は、はっきり近い。

 その直後——
 小さな声が、確かに答えた。

「……いる」

 すぐに、息を詰める音。
 後悔したみたいに。

 誰の声だったのか、分からない。

「今の……」

「誰だ?」

 ざわり、と空気が揺れる。
 でも、誰も名前を呼ばない。
 それだけは守っている。

 私は耳を澄ました。
 さっき返事をしたはずの場所から、
 もう呼吸が聞こえない。

 代わりに、背後で息が重なる。

「……ヒロ?」

 不意に、名前が呼ばれた。
 私の名前だった。

 心臓が跳ねる。
 けれど、私は答えない。

 返事は、していない。

 長い夜だった。

 やがて、窓の外が白み始める。
 鳥の声がして、
 誰かが安堵の息を吐いた。

 灯りが戻る。

 ちゃんと、誰も欠けていない。
 元通り——

 ————『五人』いる。

「よかったな」

 誰かがそう言った。
 誰も、数を数え直さない。

 私はその輪の中に立っている。
 最初から、そうだったみたいに。

 返事をしたのは、誰だったのか。
 消えたのは、誰だったのか。

 そのことを、
 考えようとする“人間”は——

 もう、いなかった。

作者メッセージ

読んでくれてありがとうございました!

2026/01/04 13:20

わたあめのべとべと
ID:≫ 8i2mOjc170zx2
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ホラー因習暗闇サスペンス閉鎖空間

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