闇の中で、声がした。
姿はない。
境目だけが、揺れている。
『名を知ったな』
低く、静かな声。
私は答えなかった。
答えなくても、声は続けた。
『名を持つ者は、あちら側だ』
怒りも、優しさもなかった。
事実を述べる声だった。
『おまえは、長く逃げた』
逃げていたのかもしれない。
選ばずに、立ち止まっていただけかもしれない。
『どうする』
選択肢は、言われなくてもわかっていた。
名を呼ばせれば、夜に行く。
名を捨てれば、また境に戻る。
あるいは——
私は一歩、夜に近づいた。
『おまえがこちら側にも、あちら側にも属さぬ者になることは』
声が、少しだけ間を置いた。
『——できる』
それだけだった。
姿はない。
境目だけが、揺れている。
『名を知ったな』
低く、静かな声。
私は答えなかった。
答えなくても、声は続けた。
『名を持つ者は、あちら側だ』
怒りも、優しさもなかった。
事実を述べる声だった。
『おまえは、長く逃げた』
逃げていたのかもしれない。
選ばずに、立ち止まっていただけかもしれない。
『どうする』
選択肢は、言われなくてもわかっていた。
名を呼ばせれば、夜に行く。
名を捨てれば、また境に戻る。
あるいは——
私は一歩、夜に近づいた。
『おまえがこちら側にも、あちら側にも属さぬ者になることは』
声が、少しだけ間を置いた。
『——できる』
それだけだった。