村の古い蔵は、昼でも薄暗い。
埃と紙と、時間の匂いがする。
私は呼ばれたわけじゃない。
気づいたら、そこに入っていた。
棚の奥に、帳面があった。
文字は崩れていて、ところどころ読めない。
[明朝体]——名を捨てた。[/明朝体]
何度も出てくる言葉だった。
“夜”から逃れるため、名を捨てた者たち。
本名を隠し、呼ばれぬようにし、子へと伝えなかった一族。
その代償として、
“夜”に触れられること。
“夜”を恐れなくなること。
そして最後に、こう書いてあった。
[明朝体]——名を持たぬ者は、境に立つ。[/明朝体]
私は帳面を閉じた。
村の人間が、私を便利に使った理由がわかった。
夜に出せるのは、名を持たない者だけだった。
守っていたのか、使っていたのか。
その違いを、今さら考える気にはなれなかった。
ただ一つ、胸に残った。
[明朝体] ——境に立つ者は、いずれ選ばれる。[/明朝体]
埃と紙と、時間の匂いがする。
私は呼ばれたわけじゃない。
気づいたら、そこに入っていた。
棚の奥に、帳面があった。
文字は崩れていて、ところどころ読めない。
[明朝体]——名を捨てた。[/明朝体]
何度も出てくる言葉だった。
“夜”から逃れるため、名を捨てた者たち。
本名を隠し、呼ばれぬようにし、子へと伝えなかった一族。
その代償として、
“夜”に触れられること。
“夜”を恐れなくなること。
そして最後に、こう書いてあった。
[明朝体]——名を持たぬ者は、境に立つ。[/明朝体]
私は帳面を閉じた。
村の人間が、私を便利に使った理由がわかった。
夜に出せるのは、名を持たない者だけだった。
守っていたのか、使っていたのか。
その違いを、今さら考える気にはなれなかった。
ただ一つ、胸に残った。
[明朝体] ——境に立つ者は、いずれ選ばれる。[/明朝体]