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太陽が死んだ夜

「なんかさ…もし太陽が昇らなくなったら、お前どうする?」
「知らない。ていうか僕らが生きてる時にそんなこと起こんないでしょ」
「いやそういう話じゃないじゃん。例えじゃん。あのさぁ」
「はいはい分かった分かった、僕なら太陽の絵をいっぱい描く」
「あーお前絵上手いもんな」
「うん。いっぱい描いていっぱい売ってお金儲け」
「そっちかよ!」
午後3時47分の暖かい日差しが差す。今は放課後、教室には男二人しかいない。
突然太陽が昇らなくなったらなんて言う彼は、僕、[漢字]神崎瑠透[/漢字][ふりがな]かんざきると[/ふりがな]の親友だ。
小学生も何回かクラスが一緒になったことがある。二人はほぼ正反対の性格をしていたが、何故か惹かれるものがお互いにあったらしい。今ではすっかり仲良しだ。
瑠透は現実主義で何事も計画を立て計画のままに進めることを得意とする。
親友はわりと夢見がちで幻想的なものが好きでいわゆる猪突猛進タイプだ。
だから喧嘩することもあるが、喧嘩した後は前より仲が深まっていることの方が多かった。
「じゃあ何、お前はどうすんの」
瑠透が聞いた。多分相手がどう言うかを知りたかったんだと思う。
でも返ってきた答えは意外で、
「んー…俺は、どうしてるかな」
親友はそう答えた。なんだかその答えを言う顔が寂しそうに見えたから、心配になって
「……生きてるよね?」
と聞いた。
「さぁ、どーだろ」
「え」
「死んでるかもな案外。だって太陽が昇らないなんてそんな」
「生きてよ。お前がいない世界は嫌だよ僕」
思わずそう言ってしまった。言ってからはっと口を塞ぐ。
死ぬか死なないかなんてその人の勝手だ。その勝手に口を出してしまった。
謝らなくちゃ。思わず声を出した時、
「ごめ」
「生きれるなら生きてみるわ、んじゃ」
さっきの寂しそうな顔とは裏腹に明るくって軽い、親友の声が返ってきた。
「マジ!?」
「まじまじ、てかそんなに俺に生きててほしいの?まさかお前寂しいんだなぁ!?」
「はぁ?いや寂しいとか一言も言ってないんですけど?」
「素直じゃないなぁおまえは!このこの〜〜〜!」
「やめろこっち来んな!」
親友が椅子を蹴り立ち上がったので思わず瑠透も立ち上がる。
それからは二人きりの教室で鬼ごっこが始まった。
始まったから、言いそびれてしまった。
お前の顔が一番寂しそうだったよ、って。

[水平線]

翌日、瑠透は目を疑った。ジリリリリとうるさいタイムキーパーの胴体の部分の小さな電光掲示板を見る。
AM06:55と書かれた文字を指でなぞりながら読み上げる。そして、顔をあげる。
外は真っ暗だった。
「___嘘」
昨日の声が耳の奥でぐわんと鳴る。もし、太陽が昇らなくなったら___あいつは。
絵なんて描いている場合じゃないと思った。制服を着て、家族を起こすこともせず、自転車の鍵を握りしめて親友の家へと全力でペダルを漕いだ。
家に着く。インターホンを押す。不在。
親友の名前を呼びながら周辺をくまなく探す。いない。
親友のあいつがどこにもいない。
学校、近所の公園、コンビニ、よく一緒に行ったスーパー、親友のお気に入りの場所、
全部探しても、あいつがどこにもいなかった。
いなくなった。それを自覚した瞬間、口から嗚咽が出た。
そのまま地面に泣き崩れてしばらく立ち上がることができなかった。
親友の家の目の前で。

どれほどそうしていただろう。息が落ち着いて涙も流れなくなって顔を上げると、目の前に人影が立っていた。
影、と言ったのはそのまんま、皮膚も顔も全てが真っ黒で何も分からなかったからだ。
まるで影絵から切り取ってきたかのようにその体が黒い。
しかも身体が長いから本当に紙のようだ。
「う、わぁ!」
なんとも言えない恐怖が首輪のように首にまとわりついて掠れた声が出る。
瑠透が少し後退る。人影が一歩近づく。
何度かそれを繰り返していたけど、ついに瑠透の背が家のドアにつく。
逃げられない。そう思った瞬間いきなり人影が距離を詰めてきた。
反射的に目を強く閉じる。夢なら覚めてくれ、と何度も願う。
だけれどもう一度目を開けても目の前には真っ黒な影が広がるだけで何も変化はなかった。
喉が息をヒューヒュー言わせていて、うまく息が吸えない。怖い。誰か助けて。
誰か。
「少年」
初めて影が声を発した。女とも男とも判別がつかない声。
「お前には素質がある」
頭が混乱してうまく聞こえない。内容が分からない。素質?なんだそれは。
僕はしがない学生だ、と瑠透は心の中で思った。
「親友を助けたいか」
心臓が跳ねる。
「助けられ…るの?」
待て、罠だ。こんなの。手の込んだドッキリだ。
「ああ、きっと君なら出来るさ」
ドッキリならこの人どうやって真っ黒になってるんだろう。なんで僕なんだろう。
「さぁ、私の手を取りなさい。君にチャンスをあげよう」
___手を、伸ばした。
影の手に触れた瞬間だった。
心臓がもう一度、二度と大きく跳ねて息が荒くなる。
視界がぐにゃりと歪んで胃液が口にせりあがってくる。
あまりの衝撃に思わず手を振り払おうとするが、影がしっかりと掴んで離さない。
逃げられない。
そのまま瑠透は意識を失った。

[水平線]

「やあ少年」
声が聞こえる。他にも綺麗なオルゴールの音色が耳に入ってきた。
目を開けた、というか、気が付いたという表現のほうが正しいのかもしれない。
まず視界に入ってきたのは光だった。上から自分を照らす照明。
周りを見渡す。真っ暗な闇が何処までも広がっている。
次に自分の身体を見て驚いた。瑠透は椅子に座っていて、その椅子にはいくつかの鉄の輪っかが付いていたからだ。その鉄の輪っかに自分の腕や脚が入って拘束されている状態。
自分の状態を把握していくうちに気を失う前の状況を思い出してきた。
親友がいなくなったこと、人影と出会ったこと、全部。
「少年?起きてるなら返事をしたらどうだ」
「あ……はい」
「先程のアレはここに少年を連れて行くことに必要なことだった。そうとはいえ、だいぶ辛いことをさせたな。すまなかった」
多分、アレというのは先程の病気の症状が一気に来たようなやつだろう。
「ああ、いえ、えと、大丈夫です…けど、ここは…」
「ここは[太字]裏の間[/太字]だ。私が名付けたんだ。いい名だろう?」
「……まぁ、はい」
センスがとても欠如している。ほぼゼロだ。ゼロ。だからといって指摘すればどんなことが起こるか分からない。とりあえず、大人しくしておく。
「話を戻そう少年。私は、まぁ、お前らの世界で言うところの神とやらだ。裏の間は人間に異能と呼ばれる要素を組み込むところで、少年、お前はそれに選ばれた。いや、“選ばれてしまった”」
「選ばれてしまった……?」
異能。実際にそんなものがリアルにあるとは思えない。
思えないが、今自分の身に起こっていることは明らかに異様だ。
神も異能もあるのかもしれないと脳が理解を進める。自分でも何故こんなにすんなりと受け入れられるのかが分からなかった。
「……異能を持つ人間はもはや人間ではない。私の力が他の何者かを変えてしまうのは、私自身も不本意だ。しかし、こうせねばならない理由がある。ご容赦、頼む」
「でも大体異能って凄いやつなんですよね?二次元だと異能を持った主人公が世界を救ったりするし」
はぁ、と声がため息をついた。
「馬鹿か少年。それは幻想やまやかしの類だぞ。実際の異能は精神を擦り減らし身体をも蝕む。呪い同様だ。いいか、お前はもうすでに呪われている。一生拭えない呪いにだ。……怖く、ないのか」
声が暗闇から響く。冷たさを感じるその声が心に刺さった。
最後の方は掠れていて聞き取りにくかったが、何とか聞き取る。
「怖いっちゃ怖いけど、親友のためだから」
先ほどより少し声色を強くして言った。自分に言い聞かせるように。
息を呑む声が聞こえ、少し間が空いてから、笑い声が聞こえた。
「……ふは、はははっ!少年…お前は、本当に馬鹿なやつだ」
温かい声色だった。
「よし、それでは本題へ戻ろう。お前は今から[大文字]異能者[/大文字]だ。そう名乗れ。じきに目を覚ますだろう。元いた場所ではなく、都会の路地裏を幾度曲がった先にある廃れたビルの入り口で。嗚呼、安心しろ、中は綺麗だぞ」
「あんまり気にしませんよ綺麗とか汚いとか」
「そうだったか。じゃあ今までの奴等がおかしかったのだな…」
声の主はおそらくさっきの人影だ。言うまでもない。
今までの奴等ということは同じような境遇の人が多数いるのだろう。
多分その中には潔癖症のやつもいる。多分。
「話を戻そう。そのビルを訪ね、中に居る異能者達を頼るのだ。きっとお前の役に立つ。その組織の名前は__」



[中央寄せ]異能結社・Boxだ。[/中央寄せ]

「いやセンス皆無かよ」
「せっかく私がいい風に終わらせたのに少年お前はほんとにああもう神を怒らせるとどうなるか実践してやろうか!?」


そんなグダグダした会話が何度か続いた後、唐突に人影の声が言った。
「まぁ、何かあれば私を呼べ。少年よ、名乗れ」
「…異能者の神崎瑠透です」
「うむ、良い。私はワコだ」
意外だった。人影……いや、神にも名前があったなんて思っていなかったからだ。
少し得した気分。
「ワコさん?」
「ワコで良い。特別だぞ、神崎瑠透。では行ってこい」
「……はい」
「お前の旅路に幸在らんことを」
意識が遠のく。

[水平線]

さっき裏の間に行った時のように、気が付けば真っ黒な路地に立っていた。
どうやら太陽は本当に無くなってしまったらしい。
瑠透の手には、周りの地形が詳細に書かれた地図が握られており、その地図の中央に赤丸で記されている場所がある。
なんとなくそこが現在地なのだろうと思った。
ワコの話を思いだす。確か目の前に……異能結社の根城があるはずだ。
自分と、同じ境遇の人がいるビル。
ドアノブを持つ手の震えを抑えるように、瑠透は両手でドアを開けた。




[斜体][中央寄せ]No.5 ルト[/中央寄せ][/斜体]

作者メッセージ

「太陽が死んだ日」如何でしたでしょうか。
これは近日投稿する「異能結社・Box」の小説に出てくるメンバー、神崎瑠透くんの過去話です。
たまにはこんな読み切りも投稿するつもりなので宜しくお願いします。

2024/01/14 11:51

しづこころ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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