親友以上、恋人未満。
「ちょっと凜人! それ私のポテト! 返して!」
「早い者勝ちだって。結乃がボケっとしてるのが悪い」
学校近くのファストフード店。
西日が差し込む窓際の席で、私たちはいつものように、たわいもない小競り合いを繰り広げていた。
小町 凜人は、揚げたてのポテトを口に放り込みながら、ニカッと悪ガキみたいに笑う。
その整った顔立ちが台無しになるような生意気な笑顔だけど、私はそんな彼の表情に、いつも調子を狂わされてしまう。
「もう……! 凜人ってば、外見だけは王子様なのに、中身はただの食いしん坊だよね」
「うるさいな。結乃こそ、さっきからポテトのケチャップで猫の顔描こうとして失敗してるじゃん。不器用すぎ」
「あー! 見たな! これ、意外と難しいんだから!」
二人で顔を見合わせて、どっちからともなく吹き出した。
「あはははは!」と笑い声が重なり、窓際で踊る埃の粒さえも、ダイヤモンドの粉みたいにキラキラと輝いて見える。
結乃と凜人。私たちは、誰が見ても「仲の良い親友」だ。この心地よいリズムが、永遠に続くんだと信じていた。
「……あ、ねえ見て、凜人。外、すごく綺麗」
笑い疲れてふと外を見ると、空は燃えるようなアプリコット色から、しっとりとした薄紫色へと移り変わるグラデーションに染まっていた。
街灯がひとつ、またひとつと灯り始め、街全体が宝石箱を開けた時のような、淡い光に包まれていく。
「……本当だ。結乃、こういう色好きだよね」
凜人の声が、さっきまでのふざけたトーンより少しだけ低くなる。
不意に視線を感じて横を向くと、凜人がポテトを食べる手を止めて、じっと私を見つめていた。
逆光の中で、彼のシルエットが黄金色の縁取りに彩られる。
いつもはうるさいくらいに喋る彼に見惚れてしまった。
大きい目に、サラサラな髪。夕日に照らされている横顔。到底、親友だけでは表せない、何かがある。
「……な〜に、俺に惚れちゃった?」
低い、甘い声。
凜人はゆっくりと椅子を引いて、私の方へ体を乗り出した。
テーブルの上で、私たちの距離がぐっと縮まる。
ドリンクのカップに付いた水滴が、照明を反射してプリズムみたいに光った。
「そーだよ。悪い?」
凜人の大きな手が、迷うように空中で一度止まり、それから優しく私の前髪に触れた。
指先が額に触れた瞬間、そこから全身に魔法の粉が振りかけられたみたいに、鼓動が速くなる。
「……お前、笑ってる時が一番可愛いけど。黙ってると、もっと……」
言葉の続きは、夜の帳が降りる直前の静寂に溶けて消えた。
凜人の指が、前髪を整えるふりをして、そのままゆっくりと私の頬を撫でる。
親友としての「一線」が、足元で音を立てて崩れていくような感覚。
キラキラした街の光が、二人の間にある曖昧な境界線を照らし出していた。
「凜人……」
「……やべ、今のなし。忘れて!」
急に凜人がバッと離れて、真っ赤な顔をしてストローを吸い始めた。
「氷しか入ってないよ」と突っ込みたかったけれど、私の胸も、甘いパニックでいっぱいだった。
「……忘れるわけないじゃん、バカ」
小さく呟いた私の声は、街を走り抜ける風にかき消されたけれど。
「早い者勝ちだって。結乃がボケっとしてるのが悪い」
学校近くのファストフード店。
西日が差し込む窓際の席で、私たちはいつものように、たわいもない小競り合いを繰り広げていた。
小町 凜人は、揚げたてのポテトを口に放り込みながら、ニカッと悪ガキみたいに笑う。
その整った顔立ちが台無しになるような生意気な笑顔だけど、私はそんな彼の表情に、いつも調子を狂わされてしまう。
「もう……! 凜人ってば、外見だけは王子様なのに、中身はただの食いしん坊だよね」
「うるさいな。結乃こそ、さっきからポテトのケチャップで猫の顔描こうとして失敗してるじゃん。不器用すぎ」
「あー! 見たな! これ、意外と難しいんだから!」
二人で顔を見合わせて、どっちからともなく吹き出した。
「あはははは!」と笑い声が重なり、窓際で踊る埃の粒さえも、ダイヤモンドの粉みたいにキラキラと輝いて見える。
結乃と凜人。私たちは、誰が見ても「仲の良い親友」だ。この心地よいリズムが、永遠に続くんだと信じていた。
「……あ、ねえ見て、凜人。外、すごく綺麗」
笑い疲れてふと外を見ると、空は燃えるようなアプリコット色から、しっとりとした薄紫色へと移り変わるグラデーションに染まっていた。
街灯がひとつ、またひとつと灯り始め、街全体が宝石箱を開けた時のような、淡い光に包まれていく。
「……本当だ。結乃、こういう色好きだよね」
凜人の声が、さっきまでのふざけたトーンより少しだけ低くなる。
不意に視線を感じて横を向くと、凜人がポテトを食べる手を止めて、じっと私を見つめていた。
逆光の中で、彼のシルエットが黄金色の縁取りに彩られる。
いつもはうるさいくらいに喋る彼に見惚れてしまった。
大きい目に、サラサラな髪。夕日に照らされている横顔。到底、親友だけでは表せない、何かがある。
「……な〜に、俺に惚れちゃった?」
低い、甘い声。
凜人はゆっくりと椅子を引いて、私の方へ体を乗り出した。
テーブルの上で、私たちの距離がぐっと縮まる。
ドリンクのカップに付いた水滴が、照明を反射してプリズムみたいに光った。
「そーだよ。悪い?」
凜人の大きな手が、迷うように空中で一度止まり、それから優しく私の前髪に触れた。
指先が額に触れた瞬間、そこから全身に魔法の粉が振りかけられたみたいに、鼓動が速くなる。
「……お前、笑ってる時が一番可愛いけど。黙ってると、もっと……」
言葉の続きは、夜の帳が降りる直前の静寂に溶けて消えた。
凜人の指が、前髪を整えるふりをして、そのままゆっくりと私の頬を撫でる。
親友としての「一線」が、足元で音を立てて崩れていくような感覚。
キラキラした街の光が、二人の間にある曖昧な境界線を照らし出していた。
「凜人……」
「……やべ、今のなし。忘れて!」
急に凜人がバッと離れて、真っ赤な顔をしてストローを吸い始めた。
「氷しか入ってないよ」と突っ込みたかったけれど、私の胸も、甘いパニックでいっぱいだった。
「……忘れるわけないじゃん、バカ」
小さく呟いた私の声は、街を走り抜ける風にかき消されたけれど。
クリップボードにコピーしました