案内してもらってから、数日後。美羽は正式に皇学園に転校した。
─────────────────────────
重厚な扉が、ゆっくりと開く。
担任の教師に促され、美羽は深呼吸をして教室へと足を踏み入れた。
その瞬間、数十人分の視線が突き刺さる。
そこに並ぶのは、誰もが知る企業の令嬢、代々続く名家の跡取り、そして芸能活動をしているような少年少女たち。
漂ってくるのは、高価な香水と「余裕」の匂いだった。
(……大丈夫。バイトの面接だと思えばなんてことない。笑顔、笑顔!)
美羽は背筋をピンと伸ばし、黒板の前に立った。
[大文字]
「春川高校から転校してきました、成宮美羽です」
[/大文字]
その声は、意外なほど凛として教室に響いた。
途端、教室のあちこちから、ひそひそとした私語が漏れ聞こえてくる。
「春川……? どこそれ、公立校?」
「特待生って噂よ。でも、あんな普通の……」
「ねえ、彼女が蒼空様の……」
美羽はそれらの視線を真っ向から受け止める。
「前の学校では、[大文字]バイトを5つ掛け持ち[/大文字]しながら学年1位を守っていました。こちらでも、皆さんに負けないように努力します。よろしくお願いします!」
「……バイト、5つ?」
「学年1位……?」
どよめきが広がる。この学園で「バイト」なんて言葉が出るのは、きっと創立以来初めてのことだった。
教室の最奥、窓際の席で、蒼空が退屈そうに肘をつきながら、口角をわずかに上げた。
(あいつ、マジで言ったよ。……バイト5つなんて、ここじゃ宇宙語だろ)
蒼空は、わずかに拳を握りしめている美羽の姿を、じっと冷たい目で見ていた。
すると、一人の男子生徒がニヤニヤしながら手を挙げる。
「成宮さーん質問。バイト5つって、そんなに家が貧乏なの? 咲城くんの婚約者なら、そんなことしなくていいのにね」
教室に失礼な笑いが広がる。美羽の眉がピクリと動いた。
言い返そうとした瞬間、それよりも早く、椅子がガタンと鳴る音が響いた。
「おい、そこまでにしておけよ」
蒼空が、静かに、けれど有無を言わさない威圧感を纏って立ち上がった。
騒ついていた教室が、一瞬で静まり返る。
「彼女は俺の婚約者。……それと、お前らが親の金で遊んでる間に、自分の力で生きてるやつのほうが、よっぽどかっこいいと思わない?」
蒼空は美羽の方へ歩み寄り、美羽の肩にポンと手を置いた。
美羽は驚いて蒼空を見上げる。
「蒼空くん……」
「……何、アホ面してんの。ほら、お前の席は俺の隣。成宮美羽」
蒼空は美羽にだけ見える角度で、いたずらっぽく片目を瞑ってみせた。
[小文字]「アホ面はいらない…!」[/小文字]
美羽は小声で怒りつつも、その影の優しさに、少しだけ胸の奥が暖かくなった。
─────────────────────────
重厚な扉が、ゆっくりと開く。
担任の教師に促され、美羽は深呼吸をして教室へと足を踏み入れた。
その瞬間、数十人分の視線が突き刺さる。
そこに並ぶのは、誰もが知る企業の令嬢、代々続く名家の跡取り、そして芸能活動をしているような少年少女たち。
漂ってくるのは、高価な香水と「余裕」の匂いだった。
(……大丈夫。バイトの面接だと思えばなんてことない。笑顔、笑顔!)
美羽は背筋をピンと伸ばし、黒板の前に立った。
[大文字]
「春川高校から転校してきました、成宮美羽です」
[/大文字]
その声は、意外なほど凛として教室に響いた。
途端、教室のあちこちから、ひそひそとした私語が漏れ聞こえてくる。
「春川……? どこそれ、公立校?」
「特待生って噂よ。でも、あんな普通の……」
「ねえ、彼女が蒼空様の……」
美羽はそれらの視線を真っ向から受け止める。
「前の学校では、[大文字]バイトを5つ掛け持ち[/大文字]しながら学年1位を守っていました。こちらでも、皆さんに負けないように努力します。よろしくお願いします!」
「……バイト、5つ?」
「学年1位……?」
どよめきが広がる。この学園で「バイト」なんて言葉が出るのは、きっと創立以来初めてのことだった。
教室の最奥、窓際の席で、蒼空が退屈そうに肘をつきながら、口角をわずかに上げた。
(あいつ、マジで言ったよ。……バイト5つなんて、ここじゃ宇宙語だろ)
蒼空は、わずかに拳を握りしめている美羽の姿を、じっと冷たい目で見ていた。
すると、一人の男子生徒がニヤニヤしながら手を挙げる。
「成宮さーん質問。バイト5つって、そんなに家が貧乏なの? 咲城くんの婚約者なら、そんなことしなくていいのにね」
教室に失礼な笑いが広がる。美羽の眉がピクリと動いた。
言い返そうとした瞬間、それよりも早く、椅子がガタンと鳴る音が響いた。
「おい、そこまでにしておけよ」
蒼空が、静かに、けれど有無を言わさない威圧感を纏って立ち上がった。
騒ついていた教室が、一瞬で静まり返る。
「彼女は俺の婚約者。……それと、お前らが親の金で遊んでる間に、自分の力で生きてるやつのほうが、よっぽどかっこいいと思わない?」
蒼空は美羽の方へ歩み寄り、美羽の肩にポンと手を置いた。
美羽は驚いて蒼空を見上げる。
「蒼空くん……」
「……何、アホ面してんの。ほら、お前の席は俺の隣。成宮美羽」
蒼空は美羽にだけ見える角度で、いたずらっぽく片目を瞑ってみせた。
[小文字]「アホ面はいらない…!」[/小文字]
美羽は小声で怒りつつも、その影の優しさに、少しだけ胸の奥が暖かくなった。