〜夢に〜
#1
幕開け?
進路希望調査のプリントが、まるで判決文のように机の上に置かれている。
春川高校1年生、夢崎日向(ゆめさき ひな)は、消しゴムのカスを指先でいじりながら、小さくため息をついた。
(……また、これだ)
日向の苗字には「夢」という漢字が入っている。
けれど、その名前に反して、彼女の胸の中はいつだって空っぽだった。
隣の席では、親友の福美凛(ふくみ りん)が、鼻歌を歌いながら凄まじい勢いでペンを走らせている。
「ひなっ! 進路なんて書いた?私はー」
凛が突き出してきたプリントには、枠からはみ出すほどの大きな文字で『起業家(世界で通用する会社を作る!)』と書かれていた。
「凛ちゃん…またすごいの書いたね……」
「当然でしょ! 私は自分の力で新しい価値を作りたいの。日向は何て書いたの? ……って、また白紙じゃん!」
凛の明るい声が教室に響き、日向は肩をすくめて顔を伏せた。
恥ずかしがり屋の日向にとって、目立つことは何よりの苦痛だ。ましてや「夢がない」という欠落を突きつけられるこの時間は、逃げ出したくなるほど心細かった。
「私、凛ちゃんみたいに『これだ!』って思えるもの、何もないから……」
「ないなら、“今ここで”作っちゃえばいいじゃん!」
「えっ……?」
凛の瞳が、悪戯っぽく、けれど真っ直ぐに日向を射抜いた。
「私、会社を作る練習がしたい。日向は、やりたいことを見つけたい。だったら、二人で『場所』を作ろうよ。部活! オリジナルの部活を作るの!」
「部活……? でも、何をやる部活なの?」
「それは……これから決めるの! 名付けて、『未完成研究部』!」
凛の勢いに押されるまま、日向は放課後の生徒指導室へと連行された。
顧問の先生に提出するための「部活動設立届」を前に、日向の指先は震えている。
「あ、あの、凛ちゃん……私、やっぱり無理だよ。引っ込み思案だし、部長なんて柄じゃないし……」
「大丈夫、日向。あんたはそこに座って、みんなが持ってくる『夢の欠片』を眺めてるだけでいいんだから。私が全部プロデュースしてあげる!」
凛の迷いのない笑顔。
日向は、その眩しさに少しだけ救われたような気がした。
提出された設立届の「活動内容」の欄には、凛によってこう書き殴られた。
[大文字]『やりたいことが見つからない人が、やりたいことを見つけるまで、何をやってもいい場所』
[/大文字]
それは、夢を持たない日向にとって、初めて「居心地が良さそう」だと思える言葉だった。
「……日向部長、これからの放課後、忙しくなるよ!」
「えぇっ!? 私が部長なの……っ!?」
春風が吹き抜ける教室で、日向の「夢探し」が、予期せぬ形で幕を開けた。
春川高校1年生、夢崎日向(ゆめさき ひな)は、消しゴムのカスを指先でいじりながら、小さくため息をついた。
(……また、これだ)
日向の苗字には「夢」という漢字が入っている。
けれど、その名前に反して、彼女の胸の中はいつだって空っぽだった。
隣の席では、親友の福美凛(ふくみ りん)が、鼻歌を歌いながら凄まじい勢いでペンを走らせている。
「ひなっ! 進路なんて書いた?私はー」
凛が突き出してきたプリントには、枠からはみ出すほどの大きな文字で『起業家(世界で通用する会社を作る!)』と書かれていた。
「凛ちゃん…またすごいの書いたね……」
「当然でしょ! 私は自分の力で新しい価値を作りたいの。日向は何て書いたの? ……って、また白紙じゃん!」
凛の明るい声が教室に響き、日向は肩をすくめて顔を伏せた。
恥ずかしがり屋の日向にとって、目立つことは何よりの苦痛だ。ましてや「夢がない」という欠落を突きつけられるこの時間は、逃げ出したくなるほど心細かった。
「私、凛ちゃんみたいに『これだ!』って思えるもの、何もないから……」
「ないなら、“今ここで”作っちゃえばいいじゃん!」
「えっ……?」
凛の瞳が、悪戯っぽく、けれど真っ直ぐに日向を射抜いた。
「私、会社を作る練習がしたい。日向は、やりたいことを見つけたい。だったら、二人で『場所』を作ろうよ。部活! オリジナルの部活を作るの!」
「部活……? でも、何をやる部活なの?」
「それは……これから決めるの! 名付けて、『未完成研究部』!」
凛の勢いに押されるまま、日向は放課後の生徒指導室へと連行された。
顧問の先生に提出するための「部活動設立届」を前に、日向の指先は震えている。
「あ、あの、凛ちゃん……私、やっぱり無理だよ。引っ込み思案だし、部長なんて柄じゃないし……」
「大丈夫、日向。あんたはそこに座って、みんなが持ってくる『夢の欠片』を眺めてるだけでいいんだから。私が全部プロデュースしてあげる!」
凛の迷いのない笑顔。
日向は、その眩しさに少しだけ救われたような気がした。
提出された設立届の「活動内容」の欄には、凛によってこう書き殴られた。
[大文字]『やりたいことが見つからない人が、やりたいことを見つけるまで、何をやってもいい場所』
[/大文字]
それは、夢を持たない日向にとって、初めて「居心地が良さそう」だと思える言葉だった。
「……日向部長、これからの放課後、忙しくなるよ!」
「えぇっ!? 私が部長なの……っ!?」
春風が吹き抜ける教室で、日向の「夢探し」が、予期せぬ形で幕を開けた。