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大姫鎌倉日記

#36

幡姫と静(二)

静が鎌倉に留め置かれている間、幡姫と静は何度も対面し、あれこれ話し合った。
不運をなげいて涙ぐんだり、想い人とのおかしな思い出話で大笑いしたり、義高と義経が仲の良かったことを思い出して懐かしんだり、九十九人が舞っても降らなかった雨が、静の雨乞いの舞で降ったと聞いて驚いたり。
初めて会ったときは暗くうつむいていた幡姫も、よく笑いよく話すかわいらしい一面を見せて静を楽しませた。互いに支え合って、二人の娘は鎌倉で生きていた。

しかしそれも一時のことで、日を経るごとに静は元気をなくしていった。
「どうなさったの?具合が悪いの?」
「…平気よ」
何度幡姫が聞いても、静は大丈夫だと言いつづける。でも、そんな訳がない。「大丈夫か」と聞かれて「大丈夫」と答えるのは、何が大丈夫でないのか分かっているからだ。しつこい問い詰め、ようやく静は口を割った。
「お腹の子がもうすぐ産まれるの…」
確かに静の腹はすでにかなり大きかった。
鎌倉にいたあいだ、静は義経の行方について尋問を受けていたが、彼女はどこに行くのかを知らされていなかったので、出産が済み次第放免とされることになっていた。
「もう産まれるのね?それでお体の具合が悪いのね?」
「…」
また彼女は口をつぐんでしまった。
「まさか」
齢九にして壮絶な経験をしている幡姫はなんとなく感づいた。
「…お腹のお子は…殺されてしまうの!?」
「半分は当たりよ…」
静は震えながら言った。
「もしも男の子なら殺されるの」
「…な、んて、」
脳にこびりつき離れない、あの血のにおい。つい数日前までそばにいた人が、突然この世から消えてしまう衝撃。それがありありと思い出された。真っ白な顔で茫然としている姫を慌てて小菊が落ち着かせた。
「ごめんなさい。怖いことを思い出させてしまって」
静は何度も謝った。
「ううん…私はいいの。それより、あなたが」
「大丈夫よ。女の子なら助けると御台所がおっしゃったの」
(女の子なら、生きられる…)
幡姫は少しほっとした。しかし、男の子ならば…という想像をかき消せなかった。実際、静が産んでみるまで分からないことなのだ。
「でも、でも…」
その先の言葉はかすれて聞こえなかったが、静はにこりと笑って答えた。
「安心してくださいな。私、絶対に女の子を産んでみせますから。」
優しく自分の腹を撫でる。何か念じているように。
静の腹にいる子は、義経の子。謀反人の子。頼朝にとってあまりに危険な存在であった。いくら嘆願しても、彼が許すわけがない。
だから幡姫は
「元気な、女の子でありますように」
と言って静の大きな腹に触れた。
「ありがとう…」
「私達は味方同士ですもの!頑張ってね!」
幡姫と静は笑い合った。
不遇の白拍子の、ほんのひとときの穏やかな夏の日だった。

つづく

作者メッセージ

今回も読んでいただきありがとうございます。
静は女の子を産めるのでしょうか。史実をご存知の方はとりあえず落ち着いて次回もご覧くださいませ。

2024/04/20 19:19

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
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歴史日本史鎌倉時代源平合戦恋愛

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