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大姫鎌倉日記

#33

すれ違いの果てに

土佐坊による襲撃事件のすぐ後。
(もう兄に許してもらえることはないだろう。だが、このまま座して死を待つなど義経はせぬぞ!)
覚悟を決めた義経は後白河院の御所へ向かった。
「九郎判官(義経)ではないか。此度はいかがした」
「この義経は平家を滅ぼし、世を落ち着かせました。ですが兄、頼朝は私に褒美を与えてくれません。それどころか、先日、兵を差し向けて私を討ち取ろうとしたのは兄だったのです」
「なんと…」
「どうか、源頼朝追討の院宣を賜りとうございます!」
「!!」
この申し出に後白河は閉口した。正直、義経と頼朝とで、どちらの味方についたほうが良いかと言えば、絶対に頼朝だった。しかしこのまま院宣を出さずにいれば、都を荒らされるかもしれない…かつての義仲のように。
「もし頂けないのならば、私と行家はこの御所で自害いたします!」
「そ、それはならん!まて、まて」
法皇は公家達と話し合って、「とりあえず院宣を出しておいて、頼朝にはあとで事情を説明する」ということにした。
「良かろう。頼朝追討の院宣を出す」
しかしこの院宣をもってしても義経に従う者は少なかった。
・・・
鎌倉に、「頼朝追討の院宣」が出されたことが伝わる。
(…ついに、義経が刃向かったな)
頼朝は京への出陣を決めた。小御所の幡姫も父の出立を知ることになる。
「ああ、やっぱり」
「姫?やっぱり、とは?」
「父上は九郎殿を殺すのよ」
小菊は、口が過ぎると言ったが幡姫は虚ろな目をして続ける。
「どうせ父上は弟だって死んでいいんだわ…。義高様だって、ほんの子供だったのに…やっぱり父上は人でなし」
「姫っ!!」
小菊が怒鳴りつけた大声に、びくりと姫の肩が跳ねる。大きな目を潤ませ、ふるふると震えているのを見て、小菊は声を荒らげてしまったのに気づいた。
「も、申し訳ありませぬ」
「…もう、いい!!」
幡姫は走り去った。
(暗いお言葉を口にされるたびに、姫の心は荒んでいってしまう…)
小菊は小菊なりに案じていたのだが、不安のはけ口を求め、誰かに聞いてほしいとだけ思う幡姫にとっては不満だった。

(ああ、思い込みだったのね。結局小菊だって、私の気持ちなんか分かるわけないんだわ)
また茂みの影に身を潜めている。むかし、義高と出会った時の。
(父上は九郎殿までを……ひどい。ひどいひどいひどい!)
袖を顔に押し当てて嗚咽した。泣きながら、涙を流すのはここでだけにしようと決めた。母も小菊も自分が泣くと、元気づけようとしてくる。それが鬱陶しかった。
(このままだと誰も信じられなくなりそう。誰か、助けて…義高様…)
暗い思考の海に沈んでいく。幡姫は、自分が鎌倉の中でひとりぼっちになっているように思えて、この上なく心細くなった。

つづく

作者メッセージ

今回も読んでいただきありがとうございます。

2024/04/03 18:40

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
コメント

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歴史日本史鎌倉時代源平合戦恋愛

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