次の話題に移る前に、義経の妾について書いておきたい。
[漢字]静御前[/漢字][ふりがな]しずかごぜん[/ふりがな]と言う女性である。まだ二十歳に満たない少女。
彼女は[漢字]白拍子[/漢字][ふりがな]しらびょうし[/ふりがな]という、男の格好をして歌い踊る芸者だった。静は中でも特に優れた白拍子で、容姿もそれはそれは目を見張るような美しさだったという。都で義経に見初められ、彼の愛妾になった。
義経は才色兼備の静を愛していたし、静のほうも、勇敢で心映えやさしい義経を愛した。
・・・
さてこの頃、義経は静と共に、都の六条堀川館で過ごしていた。静かな秋の夜、二人は同じ床に入っている。
「義経様は、これからどうなさるのですか」
静が、か細い声で尋ねた。
「…わからぬ。なんとか兄上に許してもらいたいとは思うが…」
悲しげに笑って、静の艶やかな黒髪を撫でる。義経自身も、これからどうしたらいいのか、まったく掴めていなかった。
(なんとかお助けしたい。自分に何か出来ることは)
静のその思いを感じ取った義経は健気なその少女を愛しく思ったが、
「お前は心配せずともよい」
と言った。二人はそのまま眠りに落ちた。
静は不思議な音で目が覚めた。それが、何騎もの馬と人とがこちらへ向かってくる音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「義経様、賊がやって参ります!」
「賊だと!?鎧を!!」
義経はすぐに起き上がると大鎧を身に付け馬に乗った。そして家臣の[漢字]佐藤忠信[/漢字][ふりがな]さとうただのぶ[/ふりがな]達を引き連れて、門を開け、敵兵に襲いかかる。
「守るより攻めるのだ!さあ、かかれ!」
義経らが必死で戦う中、騒ぎを聞きつけた行家も軍勢をつれて応援に来た。
「助太刀に参ったぞ義経!」
「叔父上…!ありがたい!」
彼らの奮闘に、ついに攻め寄せた軍勢は退却していった。
義経の屋敷を襲ったのは、[漢字]土佐坊昌俊[/漢字][ふりがな]とさのぼうしょうしゅん[/ふりがな]という者で、[漢字]頼朝の命[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]を受けて攻めてきたのだった。
「兄上が、俺を、殺しにきたのか」
「殿…」
「義経様…」
静や家臣達が義経を案じる。すると突然、義経は笑い出した。
「ははは…ははははは!!」
皆が顔を見合わせて怪訝に思う。
「はは…そうか…兄上はもう、俺なんか用済みなんだ…はは」
大笑いする彼の目から、涙が零れ落ちてくる。顔を上に向けて目を擦るが、止められそうにないほど。
「ははは…はは…は…っ……ああああああああああっ!!!」
義経は慟哭した。
つづく
[漢字]静御前[/漢字][ふりがな]しずかごぜん[/ふりがな]と言う女性である。まだ二十歳に満たない少女。
彼女は[漢字]白拍子[/漢字][ふりがな]しらびょうし[/ふりがな]という、男の格好をして歌い踊る芸者だった。静は中でも特に優れた白拍子で、容姿もそれはそれは目を見張るような美しさだったという。都で義経に見初められ、彼の愛妾になった。
義経は才色兼備の静を愛していたし、静のほうも、勇敢で心映えやさしい義経を愛した。
・・・
さてこの頃、義経は静と共に、都の六条堀川館で過ごしていた。静かな秋の夜、二人は同じ床に入っている。
「義経様は、これからどうなさるのですか」
静が、か細い声で尋ねた。
「…わからぬ。なんとか兄上に許してもらいたいとは思うが…」
悲しげに笑って、静の艶やかな黒髪を撫でる。義経自身も、これからどうしたらいいのか、まったく掴めていなかった。
(なんとかお助けしたい。自分に何か出来ることは)
静のその思いを感じ取った義経は健気なその少女を愛しく思ったが、
「お前は心配せずともよい」
と言った。二人はそのまま眠りに落ちた。
静は不思議な音で目が覚めた。それが、何騎もの馬と人とがこちらへ向かってくる音だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「義経様、賊がやって参ります!」
「賊だと!?鎧を!!」
義経はすぐに起き上がると大鎧を身に付け馬に乗った。そして家臣の[漢字]佐藤忠信[/漢字][ふりがな]さとうただのぶ[/ふりがな]達を引き連れて、門を開け、敵兵に襲いかかる。
「守るより攻めるのだ!さあ、かかれ!」
義経らが必死で戦う中、騒ぎを聞きつけた行家も軍勢をつれて応援に来た。
「助太刀に参ったぞ義経!」
「叔父上…!ありがたい!」
彼らの奮闘に、ついに攻め寄せた軍勢は退却していった。
義経の屋敷を襲ったのは、[漢字]土佐坊昌俊[/漢字][ふりがな]とさのぼうしょうしゅん[/ふりがな]という者で、[漢字]頼朝の命[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]を受けて攻めてきたのだった。
「兄上が、俺を、殺しにきたのか」
「殿…」
「義経様…」
静や家臣達が義経を案じる。すると突然、義経は笑い出した。
「ははは…ははははは!!」
皆が顔を見合わせて怪訝に思う。
「はは…そうか…兄上はもう、俺なんか用済みなんだ…はは」
大笑いする彼の目から、涙が零れ落ちてくる。顔を上に向けて目を擦るが、止められそうにないほど。
「ははは…はは…は…っ……ああああああああああっ!!!」
義経は慟哭した。
つづく
- 1.序幕,伊豆国の姫君
- 2.突然の危機
- 3.伊豆山の女性たち
- 4.鎌倉入り
- 5.木曽の将軍
- 6.人質と姫君
- 7.若武者の正体
- 8.福始
- 9.義高の懐郷病(一)
- 10.義高の懐郷病(二)
- 11.躍進する義仲
- 12.小咄,鎌倉の恋人
- 13.幡姫の立ち聞き
- 14.旭日昇天
- 15.没落の始まり
- 16.決別と忠告
- 17.最悪の予感
- 18.そして日は沈む
- 19.矛盾した願い
- 20.恐ろしい計画
- 21.守りたいひと(一)
- 22.守りたいひと(二)
- 23.知らせ
- 24.それぞれの後悔
- 25.巴御前
- 26.義経の憂鬱
- 27.屋島
- 28.壇ノ浦の海
- 29.歓喜と不信
- 30.亀裂
- 31.不穏
- 32.別離の襲撃
- 33.すれ違いの果てに
- 34.囚われの白拍子
- 35.幡姫と静(一)
- 36.幡姫と静(二)
- 37.空蝉
- 38.奥羽の重鎮