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大姫鎌倉日記

#30

亀裂

義経は捕虜になった平家の棟梁[漢字]平宗盛[/漢字][ふりがな]たいらのむねもり[/ふりがな]らを連れて、鎌倉へ向かった。
頼朝が怒っているというのは耳にしていたので、彼は大焦りである。が、心の奥で「直接会って話せば分かってくれる」とまだ楽観視していた。しかし義経を迎えたのはあまりに厳しい現実だった。
義経は鎌倉の少し前、腰越に留め置かれることとなったのだ。
「宗盛、清宗のみ鎌倉へ連れてこいとの仰せですので」
「わ、私は何ゆえに鎌倉へ入れてもらえぬのだ…!」
「鎌倉殿は大層お怒りでございます。義経殿にお会いになるお気持ちはございません」
「…そんな、頼む、兄に一目だけでも会わせてくれ」
彼は必死で頭を下げ頼み込んだが、鎌倉に入ることは出来なかった。
(そうだ、手紙を書こう。なんとか俺の気持ちを伝えなくては)
いわゆる「腰越状」だ。義経の悲痛な思いが長々と綴られている。

「私は命を懸けて平家と戦いましたのに、告げ口によってあらぬ疑いをかけられています。私の望みは、平家を滅ぼし父の仇を討つという願いを叶えることだけです。それどころか検非違使にまで任じられたのは、[漢字]源氏の名誉[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]です。それなのにどうしてそんなにお怒りになるのですか。私に野心の無いこと、神に誓います。我らは兄弟ではございませんか。どうか一度会って話す機会を頂きたく思います。」

「源氏の名誉、だと」
この手紙は文官、[漢字]大江広元[/漢字][ふりがな]おおえのひろもと[/ふりがな]づたいに頼朝に届けられた。これを読んだ頼朝は、文面からひしひしと伝わってくる絶望感、悲しみに胸を締めつけられた。それと共に、弟の未熟さ、考えのいたらなさに苛立ち、呆れた。
「…あいつは何も分かってないんだな」
「義経殿の処遇、いかがなさいますか」
広元の質問に、少し頼朝は答えを詰まらせた。心の奥底では助けてやりたいと思っている。話を聞いてやるくらいはしてやりたい。…だがしかし、ここで許せば示しがつかないのでは。それに、野心が無いなどどこまで信じていいのだろうか。頼朝の異常な猜疑心が発動する。
「鎌倉へは入れぬ。さっさと京へ帰るように伝えよ」
「かしこまりました」
広元は、賢明な判断だと言わんばかりに頭を深く下げた。
・・・
「平宗盛を連れて、京へ帰るようにとのことです」
「…それが、兄上の答えか」
義経は一呼吸おいて、
「あいわかった」
とだけ返事をした。
使者が帰った後、義経は一人、縁側で夕暮れ時の空を見上げていた。
(兄上は、分かってくださらなかった…)
切なさが胸にこみ上げてきた。唇を噛んで、虚しさと悲しさの波に耐える。一瞬でも気を抜けば、泣き出しそうだった。
(なんで、なんでだよ、兄上…!)
義経は床を殴りつけた。
(弟だからとか関係なく…俺は、ただ戦の功を認めてもらいたいだけだったんだ!平家を倒せたのは俺が頑張ったからなんだ!それをいい加減認めてくれよ…!!)
しかし悲しいかな、義経はまだ兄が何に怒っているのか、何を求めているのか分かっていないし、頼朝にとって義経は手を取り合って共に歩める弟ではなかったのだ。
また彼の胸に絶望が押し寄せる。

つづく

作者メッセージ

今回も読んでいただきありがとうございます。
義経くん、書いてて痛々しいです。

2024/03/30 18:31

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
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歴史日本史鎌倉時代源平合戦恋愛

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