鎌倉にも、平家が滅んだという知らせが飛んできた。
「政子!へ、平家が滅んだ…!」
「なんと!頼朝様、おめでとう存じます!!」
「ついに…憎き平家が滅んだ!!義経…!範頼…!よくやった!!」
頼朝と政子は涙を流して、大願成就を心から喜び合った。
幡姫はその様子を影から覗いている。
(九郎殿と範頼殿が、平家を滅ぼされた…)
ふと義高を思い出し切なくなったが、空に向かって語りかけた。
「義高様、義仲様、平家は滅びました」
志半ばで倒れた彼らに、せめて伝えたかった。
・・・
戦いを終えた義経は堂々と京に戻る。
平家を滅ぼし、都の平和を取り戻したとして、人々から讃えられ、英雄と称された。
(俺は遂に平家を倒した!兄上もさぞお喜びだろう。これで俺の忠誠は示されたといえるな)
義経自身は、宝剣を失ったことの負い目も感じていたが、この結果には満足していた。後白河の喜びも大層なものだった。
「この義経、平家を討ち滅ぼしましてございます」
「うむ、そなたの働き、見事であったと聞いている」
「しかし…帝を生け捕りには出来ず、宝剣まで失ってしまいました…申し訳もございませぬ!!」
「よいよい、そなたはよくやったぞ」
「法皇様…」
壇ノ浦に沈んだ宝剣は、模造品だったという説もある。
「どうか、これからも京を守っておくれ、な?そうじゃ、官位も授けよう」
「は…ははっ!!」
(法皇様には感謝してもしきれない)
義経は後白河への敬慕も強めていた。
・・・
「何?またあの義経は勝手に位階を賜ったというか」
「随分法皇様に気に入られたもようで」
「…」
(どうしてまた、そういうことをするのだ)
頼朝は別に、義経が嫌いなのではなかった。むしろ大好きだった。富士川の戦いの時、再会した弟の言葉を思い出すたび、自分はなんと幸せ者なのだろうと感じた。なのに。
(お前の命は儂のためにあるのではなかったか…そう言うたではないかっ!!)
「さらに」
あの梶原景時が、容赦なく続けた。
「屋島でも壇ノ浦でも、周囲の止めるのも聞かず勝手な行動をなされました。また、まるで手柄は自分だけのものであるかのようなお振る舞いは目に余ります」
「…」
「また、あの方は戦に勝つためには手段を選びませぬ。勝てば良いと思っておられるふしがあります」
義経は危険だから今のうちにどうにかするべきだ、とまであからさまではなかったが、景時は頼朝が分かるような言い回しで告げた。
「あいわかった。然るべき対処をする」
・・・
(上に立つとは辛いものだな)
頼朝は夜遅くまで杯を傾けていた。
(鎌倉の安定の為に、邪魔な者は消してきた。多くの御家人に、…娘の許婚まで)
今宵何杯目かの酒を注ぐ。
(そして、我が弟まで亡き者にせねばならぬと?)
公私をごちゃ混ぜにした政治などあってはならない。「鎌倉殿」に心などない。されど、なかなか割り切れない。
(どうして、兄に辛い思いをさせるのだ…義経!)
酔えないまま、夜が更けていく。
つづく
「政子!へ、平家が滅んだ…!」
「なんと!頼朝様、おめでとう存じます!!」
「ついに…憎き平家が滅んだ!!義経…!範頼…!よくやった!!」
頼朝と政子は涙を流して、大願成就を心から喜び合った。
幡姫はその様子を影から覗いている。
(九郎殿と範頼殿が、平家を滅ぼされた…)
ふと義高を思い出し切なくなったが、空に向かって語りかけた。
「義高様、義仲様、平家は滅びました」
志半ばで倒れた彼らに、せめて伝えたかった。
・・・
戦いを終えた義経は堂々と京に戻る。
平家を滅ぼし、都の平和を取り戻したとして、人々から讃えられ、英雄と称された。
(俺は遂に平家を倒した!兄上もさぞお喜びだろう。これで俺の忠誠は示されたといえるな)
義経自身は、宝剣を失ったことの負い目も感じていたが、この結果には満足していた。後白河の喜びも大層なものだった。
「この義経、平家を討ち滅ぼしましてございます」
「うむ、そなたの働き、見事であったと聞いている」
「しかし…帝を生け捕りには出来ず、宝剣まで失ってしまいました…申し訳もございませぬ!!」
「よいよい、そなたはよくやったぞ」
「法皇様…」
壇ノ浦に沈んだ宝剣は、模造品だったという説もある。
「どうか、これからも京を守っておくれ、な?そうじゃ、官位も授けよう」
「は…ははっ!!」
(法皇様には感謝してもしきれない)
義経は後白河への敬慕も強めていた。
・・・
「何?またあの義経は勝手に位階を賜ったというか」
「随分法皇様に気に入られたもようで」
「…」
(どうしてまた、そういうことをするのだ)
頼朝は別に、義経が嫌いなのではなかった。むしろ大好きだった。富士川の戦いの時、再会した弟の言葉を思い出すたび、自分はなんと幸せ者なのだろうと感じた。なのに。
(お前の命は儂のためにあるのではなかったか…そう言うたではないかっ!!)
「さらに」
あの梶原景時が、容赦なく続けた。
「屋島でも壇ノ浦でも、周囲の止めるのも聞かず勝手な行動をなされました。また、まるで手柄は自分だけのものであるかのようなお振る舞いは目に余ります」
「…」
「また、あの方は戦に勝つためには手段を選びませぬ。勝てば良いと思っておられるふしがあります」
義経は危険だから今のうちにどうにかするべきだ、とまであからさまではなかったが、景時は頼朝が分かるような言い回しで告げた。
「あいわかった。然るべき対処をする」
・・・
(上に立つとは辛いものだな)
頼朝は夜遅くまで杯を傾けていた。
(鎌倉の安定の為に、邪魔な者は消してきた。多くの御家人に、…娘の許婚まで)
今宵何杯目かの酒を注ぐ。
(そして、我が弟まで亡き者にせねばならぬと?)
公私をごちゃ混ぜにした政治などあってはならない。「鎌倉殿」に心などない。されど、なかなか割り切れない。
(どうして、兄に辛い思いをさせるのだ…義経!)
酔えないまま、夜が更けていく。
つづく
- 1.序幕,伊豆国の姫君
- 2.突然の危機
- 3.伊豆山の女性たち
- 4.鎌倉入り
- 5.木曽の将軍
- 6.人質と姫君
- 7.若武者の正体
- 8.福始
- 9.義高の懐郷病(一)
- 10.義高の懐郷病(二)
- 11.躍進する義仲
- 12.小咄,鎌倉の恋人
- 13.幡姫の立ち聞き
- 14.旭日昇天
- 15.没落の始まり
- 16.決別と忠告
- 17.最悪の予感
- 18.そして日は沈む
- 19.矛盾した願い
- 20.恐ろしい計画
- 21.守りたいひと(一)
- 22.守りたいひと(二)
- 23.知らせ
- 24.それぞれの後悔
- 25.巴御前
- 26.義経の憂鬱
- 27.屋島
- 28.壇ノ浦の海
- 29.歓喜と不信
- 30.亀裂
- 31.不穏
- 32.別離の襲撃
- 33.すれ違いの果てに
- 34.囚われの白拍子
- 35.幡姫と静(一)
- 36.幡姫と静(二)
- 37.空蝉
- 38.奥羽の重鎮