三月。
水軍をまとめ、いざ最後の戦いに漕ぎ出そうというとき。義経は先陣のことで、また梶原景時達と揉めていた。
「俺が先頭に立って戦う!士気も上がるだろう!」
「総大将が先頭など危なすぎます!」
「そうじゃ、義経殿に万一のことあらば、どうするのだ!」
景時は吐き捨てるように言った。
「やはり大将の器ではないな…!」
「なんだとっ!この義経を愚弄するか!?」
あわや斬り合いになるところをまた周りが収めるはめになった。
結局、反対を押し切って義経は陣頭に立つこととなり、彼は何百もの船を率いて出発。
平家方も彦島から出て、ついに壇ノ浦の海で戦が始まった。
義経は最前線で敵方の船に攻めかかり、範頼は九州の沿岸から矢を放って義経を援護していた。
最初、潮の流れは平家に有利に働き、一時は後退する場面もあった。しかし壇ノ浦、関門海峡は潮の流れが変わりやすい。源氏軍側を押すように流れが変わると、戦況は一変した。
そのとき、義経は声を張り上げて命令した。
「船の漕ぎ手を狙え!!さすれば船はうごけまいぞ!!」
しかし戦わぬ漕ぎ手を狙うことは、戦の作法に反していた。周りは止めたが、そもそも平家の矢は尽きていたので、射かけられるままになっていた。
もう体勢を立て直すことも出来ず、平家の者達は負けを悟った。
義経は自ら船から船へと飛び移り、安徳天皇の乗る大きな船を目指している。
(帝と三種の神器は絶対に取り戻さねば!)
襲い来る敵の武将達を次々倒し、彼の顔は返り血に濡れていた。
すると、奥の船から、平家の女が出てくるのが見える。女達はそれぞれ箱を持っている。最後に出てきた尼君は清盛の妻で安徳帝の祖母、[漢字]二位尼[/漢字][ふりがな]にいのあま[/ふりがな]だった。腕に幼い帝が抱えられている。
(まさか)
まずい。義経は必死になって周りの武士を蹴散らしていく。
(奴らは身を投げる気だ…帝と神器を道連れに!!)
それはだめだ、やめろと叫んでも、彼女達は歩みを止めない。
尼に抱かれた小さな帝は、無邪気に問うた。
「これからどこへ行くのじゃ?」
二位尼は悲しげに微笑み、
「都へ帰るのですよ。都には、皆が待っております…お祖父様も」
「早く行こう、行こう」
何も知らない安徳天皇はきゃっきゃとはしゃいだ。
尼はさすがに涙を堪えきれずに、しかし笑顔を作った。
「参りましょう…波の下の都へ」
「よせーーーーーーっ!!!!」
義経の叫びも虚しく、幼帝は飛沫を上げて海に沈んだ。二位尼に続いて女官達が神器を抱えて飛び込んでいく。
平家の武将も次々身を投げた。
ここに、あれほど栄華を誇った平家は滅んだ。
彼らの赤旗は海の上に漂い、紅葉のようだったという。
・・・
入水した平家の者の中には引き揚げられた者もおり、生け捕りにされた。
その後の捜索で神器の内の二つ、鏡と勾玉は見つかったが、宝剣だけはついに見つからなかった。
また、安徳帝も海に消え、浮いてくることはなかった。まだ六歳、あまりに幼い死だった。
つづく
水軍をまとめ、いざ最後の戦いに漕ぎ出そうというとき。義経は先陣のことで、また梶原景時達と揉めていた。
「俺が先頭に立って戦う!士気も上がるだろう!」
「総大将が先頭など危なすぎます!」
「そうじゃ、義経殿に万一のことあらば、どうするのだ!」
景時は吐き捨てるように言った。
「やはり大将の器ではないな…!」
「なんだとっ!この義経を愚弄するか!?」
あわや斬り合いになるところをまた周りが収めるはめになった。
結局、反対を押し切って義経は陣頭に立つこととなり、彼は何百もの船を率いて出発。
平家方も彦島から出て、ついに壇ノ浦の海で戦が始まった。
義経は最前線で敵方の船に攻めかかり、範頼は九州の沿岸から矢を放って義経を援護していた。
最初、潮の流れは平家に有利に働き、一時は後退する場面もあった。しかし壇ノ浦、関門海峡は潮の流れが変わりやすい。源氏軍側を押すように流れが変わると、戦況は一変した。
そのとき、義経は声を張り上げて命令した。
「船の漕ぎ手を狙え!!さすれば船はうごけまいぞ!!」
しかし戦わぬ漕ぎ手を狙うことは、戦の作法に反していた。周りは止めたが、そもそも平家の矢は尽きていたので、射かけられるままになっていた。
もう体勢を立て直すことも出来ず、平家の者達は負けを悟った。
義経は自ら船から船へと飛び移り、安徳天皇の乗る大きな船を目指している。
(帝と三種の神器は絶対に取り戻さねば!)
襲い来る敵の武将達を次々倒し、彼の顔は返り血に濡れていた。
すると、奥の船から、平家の女が出てくるのが見える。女達はそれぞれ箱を持っている。最後に出てきた尼君は清盛の妻で安徳帝の祖母、[漢字]二位尼[/漢字][ふりがな]にいのあま[/ふりがな]だった。腕に幼い帝が抱えられている。
(まさか)
まずい。義経は必死になって周りの武士を蹴散らしていく。
(奴らは身を投げる気だ…帝と神器を道連れに!!)
それはだめだ、やめろと叫んでも、彼女達は歩みを止めない。
尼に抱かれた小さな帝は、無邪気に問うた。
「これからどこへ行くのじゃ?」
二位尼は悲しげに微笑み、
「都へ帰るのですよ。都には、皆が待っております…お祖父様も」
「早く行こう、行こう」
何も知らない安徳天皇はきゃっきゃとはしゃいだ。
尼はさすがに涙を堪えきれずに、しかし笑顔を作った。
「参りましょう…波の下の都へ」
「よせーーーーーーっ!!!!」
義経の叫びも虚しく、幼帝は飛沫を上げて海に沈んだ。二位尼に続いて女官達が神器を抱えて飛び込んでいく。
平家の武将も次々身を投げた。
ここに、あれほど栄華を誇った平家は滅んだ。
彼らの赤旗は海の上に漂い、紅葉のようだったという。
・・・
入水した平家の者の中には引き揚げられた者もおり、生け捕りにされた。
その後の捜索で神器の内の二つ、鏡と勾玉は見つかったが、宝剣だけはついに見つからなかった。
また、安徳帝も海に消え、浮いてくることはなかった。まだ六歳、あまりに幼い死だった。
つづく
- 1.序幕,伊豆国の姫君
- 2.突然の危機
- 3.伊豆山の女性たち
- 4.鎌倉入り
- 5.木曽の将軍
- 6.人質と姫君
- 7.若武者の正体
- 8.福始
- 9.義高の懐郷病(一)
- 10.義高の懐郷病(二)
- 11.躍進する義仲
- 12.小咄,鎌倉の恋人
- 13.幡姫の立ち聞き
- 14.旭日昇天
- 15.没落の始まり
- 16.決別と忠告
- 17.最悪の予感
- 18.そして日は沈む
- 19.矛盾した願い
- 20.恐ろしい計画
- 21.守りたいひと(一)
- 22.守りたいひと(二)
- 23.知らせ
- 24.それぞれの後悔
- 25.巴御前
- 26.義経の憂鬱
- 27.屋島
- 28.壇ノ浦の海
- 29.歓喜と不信
- 30.亀裂
- 31.不穏
- 32.別離の襲撃
- 33.すれ違いの果てに
- 34.囚われの白拍子
- 35.幡姫と静(一)
- 36.幡姫と静(二)
- 37.空蝉
- 38.奥羽の重鎮