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独眼竜の昔話

#4

四,

家光は静かな口調で話し始めた。
「…そうだね…僕の産まれたときのことから」
・・・
徳川家康の息子、二代将軍徳川秀忠に男子が産まれた。後の家光だ。母親は織田信長の姪、お江の方である。彼は嫡男として祖父であり初代将軍、家康と同じ「竹千代」の名を与えられた。彼は産まれてすぐに乳母、お福―後の春日局―に預けられ、彼女の元で育てられていた。幼少期の家光は体が弱く人見知りでおとなしい子供で、吃音の症状もあったと言われる。が、お福は彼を愛情深く、時には厳しく教育した。
そんな彼の転機になったのが、弟、国松の誕生である。彼は乳母では無く母親のお江の手で育てられ、体も丈夫で活発、さらに眉目秀麗な子であった。秀忠とお江は国松をこの上なく可愛がり、しぜん、家光を遠ざけるようになっていった。
お江にすれば、兄より優れた、しかも自ら育てた子は愛おしかったに違いない。しかし家光は両親からの愛を欲する幼少期に愛を受けられず、劣等感に酷く苦しんだ。
・・・
政宗は胸が苦しくなった。
「幼かった時、私は病によって右目が飛び出し、愛する母から避けられたのですよ。」
「親父殿も?」
「御守り役だった片倉景綱…彼に右目をえぐり取ってもらってからは、私は見違えるように活発になったって皆言いました。母の態度は…変わりませんでしたが。でもそれまでは暗い日々を送っていたのです。だから上様と自分を重ねてしまいましてな…お辛かったでしょう」
「…うん。死のうとしたこともあったよ…すんでのところでお福に止められたけどね。でも」
家光は虚空を見つめて目を輝かせた。
「お祖父様がね…」
・・・
将軍家の様子を見て危機感を募らせたのがお福である。両親が国松殿を溺愛する様子を見て、家臣たちはどう思うだろうか?
(次の将軍は国松様、と思う輩も出てくるであろう…いや、そうはさせない。竹千代様の将来もお心も私が守る)
お福は伊勢神宮に参拝に行くと偽り駿府城へ向かった。そこは家康の住む城である。彼女は家康に直談判して家光を次期将軍として確定させようとしたのだ。
「ほう…江戸はそんなことになっているのかね」
家康は溜め息をついた。この時代は長男が家を継ぐのが普通である。国の頂点に立つ将軍家がその順序を違えれば国が乱れる。家康は何か思い立ち、江戸城に出向いた。
秀忠、そして家臣たちがずらりと並ぶ。お江もいるようである。家康は、家光と国松を連れてこさせた。
「竹千代殿、さあこちらへ、こちらへ」
家康が家光を丁寧に家康の座っている上段へ招いた。すると国松も兄に続いて上がろうとする。しかし家康は
「これ、国松!お前はそこにいろ」
と言い放った。家康は国松より竹千代の方が上だということを、皆に分からせたのである。
家光の心に光が差した。
(将軍になるのだ、僕は…)
・・・
「だから僕はお祖父様が大事なんだ。勿論国の為や順序に従ってなさった事だとは分かってるけど、結果として僕を助けてくれたんだもの」
祖父の事は曇り無き笑顔で話してくれる。一人称まで変わるのも可愛らしい…。政宗はふと、また自分が家光のことを息子のように想っているのに気付き、苦笑した。
「まるで本当の父上みたいだ、親父殿」
「んえっ!?」
「沢山面白い話してくれるし、優しい言葉かけてくれるし、二人目の父上がいるみたいだ」
自分の心情を見透かされたのかと政宗は慌てたが、違ったようで安堵する。
家光はそんな政宗を見つめながら、
「ねえ、今度は親父殿から見たお祖父様のこととか教えて。ほかにももっと、お祖父様の戦った戦や武将のことも教えてほしいな」
と上目遣いで頼む。まだまだ若い将軍は政宗と話すと純粋な子供に戻るようである。
お話いたしますとも、と次に会う約束を交わして二人は別れた。
この日は彼らにとって、互いの境遇に共通点を見いだし、より心を通わせあえた日となった。

つづく

作者メッセージ

見てくださってる方がいて嬉しいです。頑張ります。

2024/01/18 22:45

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
コメント

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歴史日本史江戸時代

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