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大姫鎌倉日記

#22

守りたいひと(二)

「ではまた会いましょう、幡姫様」
「ええ、必ず!」
義高は小袖を上に被り、小菊達に紛れて御所を出た。
(信濃までどうか、ご無事で…!)
幡姫は涙をぐっとこらえて、愛する人を見送った。

「ここから先は三浦にお任せ下さい」
義村が鎌倉の[漢字]切通[/漢字][ふりがな]きりどおし[/ふりがな]を抜けた先で義高を出迎えたが、彼は首を振った。
「もし私の逃亡が知れ、あなたが手伝っていることを見られたらいけません。これよりは私一人で大丈夫です。」
「しかし…」
だが、義高が頑ななので義村は諦めて馬を渡し、
「絶対に死になさるな。姫のためにも」
と告げて鎌倉へ戻った。
・・・
義高の部屋では、紺色の直垂の青年が双六をしていた。
幸氏だった。主君を無事に逃がすために、朝から晩まで義高のふりをしてさいころを振り続ける。
しかしそれで永遠に偽り続けることも出来ず、ついに義高逃亡は頼朝に知られてしまった。
「義高を捕まえろ!出来れば生け捕り、抗えば殺しても構わぬ!」
幸氏や小菊、幡姫の女中達は頼朝の前に連れ出された。幡姫は彼女達の前に立ちふさがって父に訴えた。
「父上!やめて!」
「幡姫、お前は下がっていろ」
「お戻りください、姫様!」
女中達の止めるのもきかず、必死に叫び続けた。
「何も殺すことないでしょ、お願い、父上!」
「あなたとて幼い日に平家に命を救われた身では?」
政子が非難がましく言った。かつて「平治の乱」に負け、捕らわれた頼朝はまだ子供と言うことで助命されている。
「ああ、命を救われたとも。しかしその儂は今、平家に何をしようとしている?」
「…頼朝様」
「そういうことだ」
突き刺すように冷たく言い放った。
「そもそも、逃げたのはやましき事があったからではないのか」
「違います!殺されるって聞いたから…!」
幡姫は父としばらく押し問答を繰り広げたが、頼朝の心が動くことはなかった。
うなだれて自分の居室に戻り一人になると、急に父に裏切られたような気持ちになった。
「あの優しい父上は偽りだったの…?」
悔しさと悲しさとが入り混じって、ただ苦しく、涙も出ない。
(ごめんなさい、義高様…どうかどうか、生き延びて…!!)
祈ることしか、幡姫に出来ることは残されていなかった。

頼朝は義時を呼びつけた。
「御家人に義高追討の知らせを広めよ」
「…まだ幼い姫様に、あまりの仕打ちとは思われませぬか」
「儂とて辛い」
「いいえ、鎌倉殿はあまりにひどい」
義時は切り込んだ。
「私の妻に、義高殿を討つと噂を流したのは頼朝様のお指図でしょう。そしてわざと義高殿が逃げるように仕向け…」
「小四郎」
部屋は暗く、頼朝の表情は分からない。
「それ以上は言うな」
「…はっ」
恐ろしく低い声に抗えず、下がった。自分の無力さに歯ぎしりしながら。
すると廊に小菊が縮こまっているのに気付いた。鼓動が早くなる。
(しまった、知らぬ方が良かったのに)
恐る恐る尋ねる。
「お前、聞いていたのか…?」
「小四郎殿、私…」
「小菊!!」
彼女は気を失い、義時に抱き抱えられた。
・・・
それから五日たった。
義高は武蔵国の知り合いを頼るべく数人の供と歩いていた。
「だいぶ鎌倉からも離れた。もう少しだぞ、皆」
手にはあの幡姫の髪留めの布を握り締めている。
山道に入った所で、ふと後ろから声をかけられた。
「お探ししていました!木曽義高殿でございますか?」
我らを助けるべく、迎えに来たのだろうか。
「ええ、あなたは一体…」
その刹那、空中に一筋の光が走った。

つづく

作者メッセージ

今回も読んでいただきありがとうございます。

2024/03/06 18:44

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
コメント

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歴史日本史鎌倉時代源平合戦恋愛

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