徳川家光はこの頃仕事を手早く終わらせることが多い。父、秀忠がまだ実権を握っているから、というのもあるが、彼には仕事を早く終わらせたい理由があった。
(今日も政宗に話を聞きに行こう!)
「上様?今日もですか…、どちらへ?上様?」
怪しむ春日局の声も振り切り走り出した。
家光は政宗の時間の都合さえつけば、度々城を抜け出し仙台藩邸へ向かったのだ。
今日も二人で時間を決めてあったので最初のように足止めをくらうことはない。
政宗は家光のこの行動に始めは何も言わなかったが、あまり頻繁に彼が足を運ぶので流石にまずかろうと
「上様、来ていただけるのは誠に嬉しいのですがお忍びにも限界がござろう」
と苦笑いして言った。
家光は自分が子供の様なことをしているのに気づいて赤くなった。もう自分は将軍なのだった。
(そういえば春日の奴も気付いているのだろう…遠まわしに注意してくる。)
そこで家光は一計を案じる。
「では、政宗、そなたに江戸城に来てもらいたい!そなたを御伽衆として城に呼ぶ、儂に話をしてくれ!無論都合のつくときにな、それなら良かろ?」
まくし立てるように家光は言った。
彼は戦国を知る大名を御伽衆として時々城に呼び、話をねだったという。
政宗は嬉しそうに了承した。この自分好きの大名は自分の話をするのが好きであった。
・・・
「小田原攻めのことはご存知ですね、私はあの時大分遅れて秀吉の元に参じたのですよ、殺されるかもしれないって状況で…その時に私は白装束で秀吉の前に出ましてね、つまり死ぬ覚悟でここへ来たってことでござる、これには流石の秀吉も驚き遅参を許したってことなのでございます、いや、それにしても口惜しいことよ、秀吉に屈せざるを得なかったのは。秀吉が早く産まれたせいで…私は十年早く産まれていれば天下を取っていたって言われるのですよ!」
政宗はまったく、よく話す男だ。家光は彼の話を夢中になって聞いた。ただ、政宗の話がどこまで正しいかはわからない。名だたる武将はとっくにこの世にいないので彼の好きに脚色出来るからである。しかしそれでも家光は彼の武勇伝を信じきり、憧れの的にしている。
「では、親父殿が早く産まれていたら私はこの城にこうしていることは無かったのだなぁ…」
親父殿、というのは家光が政宗を尊敬してつけた呼び名である。
家光はただ、
(運命の悪戯で歴史がこうも変わるのか)
と感じて呟いただけなのだが、政宗は慌てた。現天下人に対してなんと軽率なことを言ったのだろう!
「も、勿論、家康公にはかないませんがな!うん、家康公がいらっしゃる!」
家光は政宗の必死な弁解だとは気付かず、
「強い強い伊達の親父殿でさえお祖父様にはかなわないのか!お祖父様は凄い!」
と、嬉しそうに頬を紅潮させた。政宗はほっとしつつ、ふとした疑問を投げた。
「ところで、家康公をそこまで崇拝なさるのは何故なのでございますか?ただ事ではないと見受けますれば…」
政宗は家光の家康崇拝に異常ささえ感じたのだ。
すると彼の表情がすっと曇った。が、すぐ首を横に振り笑顔を見せた。
「勿論…私のお祖父様だからだよ」
しかし政宗は家光の表情から様々なことを汲み取った。
(上様は語りたくない事があるのだろうか?思い出したくない忌まわしい記憶でも?)
「何か家康公に優しくして頂いたり?」
なぜか無性に気になって今度は優しい口調で聞いた。この作戦は有効だった様で家光は口を開いた。
「親父殿になら話してもいいな、沢山面白い話してもらったし…」
家光は他に誰もいないのを確認してぽつりぽつりと語り始めた。
つづく
(今日も政宗に話を聞きに行こう!)
「上様?今日もですか…、どちらへ?上様?」
怪しむ春日局の声も振り切り走り出した。
家光は政宗の時間の都合さえつけば、度々城を抜け出し仙台藩邸へ向かったのだ。
今日も二人で時間を決めてあったので最初のように足止めをくらうことはない。
政宗は家光のこの行動に始めは何も言わなかったが、あまり頻繁に彼が足を運ぶので流石にまずかろうと
「上様、来ていただけるのは誠に嬉しいのですがお忍びにも限界がござろう」
と苦笑いして言った。
家光は自分が子供の様なことをしているのに気づいて赤くなった。もう自分は将軍なのだった。
(そういえば春日の奴も気付いているのだろう…遠まわしに注意してくる。)
そこで家光は一計を案じる。
「では、政宗、そなたに江戸城に来てもらいたい!そなたを御伽衆として城に呼ぶ、儂に話をしてくれ!無論都合のつくときにな、それなら良かろ?」
まくし立てるように家光は言った。
彼は戦国を知る大名を御伽衆として時々城に呼び、話をねだったという。
政宗は嬉しそうに了承した。この自分好きの大名は自分の話をするのが好きであった。
・・・
「小田原攻めのことはご存知ですね、私はあの時大分遅れて秀吉の元に参じたのですよ、殺されるかもしれないって状況で…その時に私は白装束で秀吉の前に出ましてね、つまり死ぬ覚悟でここへ来たってことでござる、これには流石の秀吉も驚き遅参を許したってことなのでございます、いや、それにしても口惜しいことよ、秀吉に屈せざるを得なかったのは。秀吉が早く産まれたせいで…私は十年早く産まれていれば天下を取っていたって言われるのですよ!」
政宗はまったく、よく話す男だ。家光は彼の話を夢中になって聞いた。ただ、政宗の話がどこまで正しいかはわからない。名だたる武将はとっくにこの世にいないので彼の好きに脚色出来るからである。しかしそれでも家光は彼の武勇伝を信じきり、憧れの的にしている。
「では、親父殿が早く産まれていたら私はこの城にこうしていることは無かったのだなぁ…」
親父殿、というのは家光が政宗を尊敬してつけた呼び名である。
家光はただ、
(運命の悪戯で歴史がこうも変わるのか)
と感じて呟いただけなのだが、政宗は慌てた。現天下人に対してなんと軽率なことを言ったのだろう!
「も、勿論、家康公にはかないませんがな!うん、家康公がいらっしゃる!」
家光は政宗の必死な弁解だとは気付かず、
「強い強い伊達の親父殿でさえお祖父様にはかなわないのか!お祖父様は凄い!」
と、嬉しそうに頬を紅潮させた。政宗はほっとしつつ、ふとした疑問を投げた。
「ところで、家康公をそこまで崇拝なさるのは何故なのでございますか?ただ事ではないと見受けますれば…」
政宗は家光の家康崇拝に異常ささえ感じたのだ。
すると彼の表情がすっと曇った。が、すぐ首を横に振り笑顔を見せた。
「勿論…私のお祖父様だからだよ」
しかし政宗は家光の表情から様々なことを汲み取った。
(上様は語りたくない事があるのだろうか?思い出したくない忌まわしい記憶でも?)
「何か家康公に優しくして頂いたり?」
なぜか無性に気になって今度は優しい口調で聞いた。この作戦は有効だった様で家光は口を開いた。
「親父殿になら話してもいいな、沢山面白い話してもらったし…」
家光は他に誰もいないのを確認してぽつりぽつりと語り始めた。
つづく