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大姫鎌倉日記

#7

若武者の正体

幡姫のつぶやきに気づいて少年は彼女の方へ目線を落とした。
「光源氏…ですって?」
思わずこぼれた言葉とはいえ急に恥ずかしくなって彼女は黙り込んでしまった。少年はその様子を見てしゃがんで幡姫と目線を合わせる。
「あなたはひょっとして、鎌倉殿の姫君、幡姫様ですか?」
「どうして私を知ってるの?あなたは誰なの?」
彼女は驚きで目がまん丸くなる。ふふ、と微笑んで少年は続けた。
「信濃から参りました。義高といいます」
「義高…様」
木曽の山奥にいたというだけで勝手に粗暴な男を想像していた幡姫は彼の美しい瞳に釘付けとなってしまった。
(これが義高様…なんて綺麗な)
「あの、その、私、源氏物語を読んでいたところだったから…光源氏が現れたのかと思ったの…」
「光源氏だなんてそんな…幡姫様こそ、さながら物語から出てきたように可愛いので驚いていたところです」
「義高様も物語をお読みになるの?」
「ええ、私がいたのは木曽の田舎ですので少しですが」
二人の間に親密な空気が流れ始めた。
ところがその空気を読まない頼朝が話し声を聞きつけてやってきた。
「二人とも仲良くしておるのう」
「あ…これは、その」
義高の頬にほんのりと赤みが差した。
「幡よ、これからも義高殿と仲良くしなさい、末永くな」
頼朝は意味ありげに幡姫に目配せして、義高を連れてどこかへ行ってしまった。
(もう、父上のせいで)
幡姫は不満に思ったが、父上の口ぶりでは義高様は当面帰らないだろうからまた探せばいいか、と思い直した。
幡姫は義高が「人質」であることを知らない。

翌日、幡姫は珍しく早朝に起き出した。
「小菊、早く早く」
「姫?」
小菊は怪訝に思いながら幡姫の髪をすいた。
「めずらしゅうございますね、姫はお寝坊さんなのに」
「いいの!今日は特別なの」
昨日義高と会うのを拒んだ手前、政子や小菊には内緒で義高を探しに行きたかったのだ。ところが彼女が源氏物語を持って庭に出ようとすると、政子に呼び止められた。
「幡姫、このあとお客様がいらっしゃるからあなたもいなさいな」
「えっ…」
幡姫は逆らいきれずに義高を探すのを諦め、[漢字]朝餉[/漢字][ふりがな]あさげ[/ふりがな]のときも仏頂面でいた。待っているときも無愛想な顔でいたが、小菊に叱られたのでずっと顔をうつむけている。
(普段は邪魔にならないようにあっちへ行ってなさいって言うのに…なんでこんな時ばかり)
すると、誰かが入ってきたのが分かった。前髪の隙間から上目遣いで見ると、紺色の袴がちらと見えた。
(まさか)
がばっと頭を上げると前で義高が座ってくすくすと笑っているのが分かった。
「母上、なんで義高様だって言ってくれなかったの!?」
「だってあなた逃げてしまうもの」
(分かってたらこんな姿見せなかったのに)
恥ずかしさで義高の方を見られない。
「幡姫様、昨日からずっと、またお話したいと思っていました」
「昨日?」
小菊が首を傾げて幡姫を見た。
(義高様っ!)
幡姫はすっかり板挟みになってしまった。するとその空気を打ち破るように政子の笑い声が響いた。
「ふふふ、小さなお二人は知らぬうちにもう仲良しになったとみえる」
その言葉に幡姫以外の三人はおかしそうに微笑んだ。政子はきょとんとしている幡姫に言った。

「幡姫は素敵な婿殿をいただいたこと」


つづく

作者メッセージ

今回も読んでいただきありがとうございます!
コメントしてくださった方も本当にありがとうございます!
これからも精進いたします。

2024/02/11 18:23

青葉よしまつ
ID:≫ 4eITYY1IIrji.
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歴史日本史鎌倉時代源平合戦恋愛

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