[漢字]伊豆山権現[/漢字][ふりがな]いずさんごんげん[/ふりがな]。
僧兵の力が強く、誰も手出しが出来ないために頼朝の挙兵以来北条家の女達はここに匿われている。
政子は一心に頼朝の無事を祈っていた。
(山木攻めは成功した。でもその後、私達が伊豆山へ来てからは頼朝様や父上がどうしているのか分からない…)
「また佐殿のこと考えてるの?」
政子の妹、波子だ。半分呆れ、半分心配そうな顔で床掃除をしている。
「だって何にも知らせが無いんだもの」
「いつだったか、佐殿は天に愛されてる、絶対死なないって言ったのは姉上でしょう?それに便りが無いのは良い便りと言うじゃない」
「あなたの呑気に励まされたのは初めてだわ、ありがとう」
「なにそれあんまり嬉しくない」
二人が談笑していると突然ぼろぼろになった使者がやってきた。政子は待ってましたとばかり駆け寄って問い詰めた。
「佐殿はどうしておられる?無事でおられるのか?」
「…佐殿、先の石橋山合戦にて平家方の大庭勢に敗れました…!」
「えっ」
「奥方様方はここにいるかぎり大丈夫にございますが、お味方…未だ行方知れず…」
「そ、んな、頼朝様…!父上、三郎、小四郎…ほかにも多くの家人が」
「姉上、大丈夫よ!少なくとも死んだって知らせじゃないんだから、ね!」
(そうだ…私が気を強く持たねば、幡姫を守らねばならないのだから…)
とはいえしばらくは皆、眠られぬ日々を過ごした。
しかし不安な日々は長く続かなかった。また伊豆山権現に使いが来たのである。政子は恐る恐る聞いた。
「佐殿は無事か、それとも…否か?」
「御殿は、ご無事でございます!安房国で多くの味方を集め、再び盛り返しましてござる!また、奥方様のお父上、小四郎殿両名無事です!」
「おお、それは何より!」
「味方も集まっているのね!」
政子と波子は喜びあったが、ふと気づいた。
「両名って…三郎は?…無事でしょうね?」
三郎宗時。政子の弟で、北条家の後継ぎ。政子と頼朝が出会った頃から彼らの強力な味方であった。
「宗時様…お討ち死にとの知らせが入っております…」
戦になる以上、覚悟はしていた。が、二人にあまりにも重くのしかかる死。
幼い、まだなにも分からない幡姫は政子の腕に抱かれたまま涙を流す母を見つめている。
つづく
僧兵の力が強く、誰も手出しが出来ないために頼朝の挙兵以来北条家の女達はここに匿われている。
政子は一心に頼朝の無事を祈っていた。
(山木攻めは成功した。でもその後、私達が伊豆山へ来てからは頼朝様や父上がどうしているのか分からない…)
「また佐殿のこと考えてるの?」
政子の妹、波子だ。半分呆れ、半分心配そうな顔で床掃除をしている。
「だって何にも知らせが無いんだもの」
「いつだったか、佐殿は天に愛されてる、絶対死なないって言ったのは姉上でしょう?それに便りが無いのは良い便りと言うじゃない」
「あなたの呑気に励まされたのは初めてだわ、ありがとう」
「なにそれあんまり嬉しくない」
二人が談笑していると突然ぼろぼろになった使者がやってきた。政子は待ってましたとばかり駆け寄って問い詰めた。
「佐殿はどうしておられる?無事でおられるのか?」
「…佐殿、先の石橋山合戦にて平家方の大庭勢に敗れました…!」
「えっ」
「奥方様方はここにいるかぎり大丈夫にございますが、お味方…未だ行方知れず…」
「そ、んな、頼朝様…!父上、三郎、小四郎…ほかにも多くの家人が」
「姉上、大丈夫よ!少なくとも死んだって知らせじゃないんだから、ね!」
(そうだ…私が気を強く持たねば、幡姫を守らねばならないのだから…)
とはいえしばらくは皆、眠られぬ日々を過ごした。
しかし不安な日々は長く続かなかった。また伊豆山権現に使いが来たのである。政子は恐る恐る聞いた。
「佐殿は無事か、それとも…否か?」
「御殿は、ご無事でございます!安房国で多くの味方を集め、再び盛り返しましてござる!また、奥方様のお父上、小四郎殿両名無事です!」
「おお、それは何より!」
「味方も集まっているのね!」
政子と波子は喜びあったが、ふと気づいた。
「両名って…三郎は?…無事でしょうね?」
三郎宗時。政子の弟で、北条家の後継ぎ。政子と頼朝が出会った頃から彼らの強力な味方であった。
「宗時様…お討ち死にとの知らせが入っております…」
戦になる以上、覚悟はしていた。が、二人にあまりにも重くのしかかる死。
幼い、まだなにも分からない幡姫は政子の腕に抱かれたまま涙を流す母を見つめている。
つづく
- 1.序幕,伊豆国の姫君
- 2.突然の危機
- 3.伊豆山の女性たち
- 4.鎌倉入り
- 5.木曽の将軍
- 6.人質と姫君
- 7.若武者の正体
- 8.福始
- 9.義高の懐郷病(一)
- 10.義高の懐郷病(二)
- 11.躍進する義仲
- 12.小咄,鎌倉の恋人
- 13.幡姫の立ち聞き
- 14.旭日昇天
- 15.没落の始まり
- 16.決別と忠告
- 17.最悪の予感
- 18.そして日は沈む
- 19.矛盾した願い
- 20.恐ろしい計画
- 21.守りたいひと(一)
- 22.守りたいひと(二)
- 23.知らせ
- 24.それぞれの後悔
- 25.巴御前
- 26.義経の憂鬱
- 27.屋島
- 28.壇ノ浦の海
- 29.歓喜と不信
- 30.亀裂
- 31.不穏
- 32.別離の襲撃
- 33.すれ違いの果てに
- 34.囚われの白拍子
- 35.幡姫と静(一)
- 36.幡姫と静(二)
- 37.空蝉
- 38.奥羽の重鎮