文字サイズ変更

ビブリオフィリア

#10

第十章

 おうちゃんとは、小さい頃から仲良しの、幼なじみだ。
 僕とおうちゃんは、2人とも本が好きだった。いつも学校が終わると、図書館へ走って向かっていた。
「あおくん!はやくついてこないと、置いてっちゃうよー?」
 僕のことを「あおくん」と呼ぶのは、おうちゃんだけだ。
「待ってー!」
 おうちゃんの、大きな背中を追いかけた。
 おうちゃんは、好奇心旺盛で、よくいろんなところを走り回っていた。
「ねえねえ、あおくん、これ読んでみて?」
 いつもおうちゃんは、僕にいろんな本をすすめてきた。
「『くまくんとケーキ』……。くまくんシリーズ、有名だよね」
「そう!特に、この話はおもしろいんだよー。くまくんがケーキを食べるだけの話なんだけど、ケーキは生きてるんだよ?それを食べるくまくん、すごくない?」
「そうだね、すごいね。ところでそれ、ネタバレじゃない?」
「えっ、……だいじょーぶだよ!」
「怪しいけど……。まあ、読む気ないし良いか」
「えー、読まないの?なんで?おもしろいよ?」
「絵本って、短くってすぐ読み終わっちゃうから、あんま好きじゃない……」
「んー、じゃあ、こっちはどう?」
「数学の専門書……、法律の本……。こんな難しそうなの、読めないよ」
「あおくんなら理解できるって!」
「無理だよ……。学校の先生ですら、読めないって言ってたよ」
「えー……。どんな人でも、何度も読めば、わかるのに……」
「何度も読むことが、普通は難しいんだよ、おうちゃん」
「そんなものかなあ……。でも、あおくん、その図鑑しか見ないんだもん。図書館には、いっぱい本があるのに。もったいないよ!」
「そう?図鑑だって、おもしろいよ?ほら、たとえば、この花」
「んー?『キバナコスモス』?きれいだけど、それがなに?」
「きれいでしょ?眺めてると、楽しいよねってこと。それだけ」
「それだけ?なら、外で観察してればいーじゃんか」
「あ……、えっと、図鑑だったら、見た目だけじゃなくて、豆知識も知ることできるよ」
「へえ。たとえば、どんなの?」
「んー、例えばキバナコスモスなら、『道路で普通に見かけることができる』って」
「へえー!帰り道に、あるかなあ?」
「帰るときまで、覚えておこう」
「うん!」
「じゃ、僕、本読むから」
「はーい。……でも、やっぱり、他の種類もいろいろ読んでほしいなあー。あっ、そうだ!いいこと思いついた!」
 おうちゃんは、どこからかかわいらしい紙を取り出して、何かを書き始めていた。
 問題は、その日の帰り道のことだった。
「あっ!あおくん、キバナコスモス?って、あれのことじゃない?」
 おうちゃんに言われて見てみると、確かに、図鑑通りの花が、道路に咲いていた。
「たぶん、そうだね」
「わー!本にのってるものが、まさか実際に見れるなんて!」
 すごーい!とはしゃぎながら、おうちゃんは、反対側に咲いていたキバナコスモスに向かって走っていった。
 ……どれだけ後悔したことか。
 この時。この時、僕がおうちゃんを止めていれば。図鑑なんて、見せていなければ。そうしたら、おうちゃんは、今も生きていたのかな。
 僕の記憶は、突然現れた車がおうちゃんに触れたところで途切れた。
 それからのことは、あまり覚えていない。ずっと、かなしい感情に飲まれ、頭に霧がかかったようにぼんやりとしていた。
 元から話があったのか、流れるように知らない場所へと引っ越しをした。
 霧が晴れた頃には、僕の記憶はなくなっていた。
 それでも。なぜか、僕はもう一度、おうちゃんに会うことができた。忘れていたのに、思い出すことができた。
 はやく、おうちゃんに会いたい。
 また、あの笑顔を見たい。
「……戻ろう」
 おうちゃんに、会いに行こう。

作者メッセージ

読んでくださりありがとうございます。
僕の好きな、過去編ですね。
次回は感動の再開です。
おたのしみに!

2026/06/25 08:24

楓ひなた
ID:≫ 72f7ySuR6WeuU
コメント

この小説につけられたタグ

謎解き幽霊図書館少女大学生小説連載

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は楓ひなたさんに帰属します

TOP