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ハピエンではありません。
登場キャラがお亡くなりになります。

苦手な方は今のうちに避難する事をお勧めします。

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物語の果て、何を願う。

コツン、コツン。

足音が響く。振り返ったってそこには誰もいないけれど。ただ、1人だけの世界だった。見渡す限り誰も居なくて、食べ物もなにもない。

[下線]?? ??[/下線]
「…。」

理不尽だと、そう思わずには居られなかった。
初めて物語を呪った。
許さない。

叶うならばもう2度と_

[水平線]

朝、起きた。陽光がこちらを照り付け、日の位置に違和感を覚えて時計を見る。示す文字は10:42。

[下線]?? ??[/下線]
「…ん?」

思わず目を擦り、もう一度時計を見る…が、時間は変わらない。遅刻だ。脳内で呑気に描写してる暇なんてなかった。圧倒的遅刻。ここまで来たら逆にどうでもいいような気がして来た…ので描写を再開する。我ながら物語オタクだと思う。

辺りを見渡せばいつも通りの部屋。白いカーテンに薄い緑の円形のカーペット。天井につく照明の灯りは白くて思わず目を細める。ベッドは黒い縁に白の布団が広げてある。私はむくりと起き上がり、地に足をつけてクローゼットの前へ向かう。クローゼットの扉は木製で大きい。扉に手をかけ、開く。中には高校の制服と白のパーカー2着と同じく白のワンピース3着しか入っていない。さっさと高校の制服に着替えて2階から下へ降りる。

階段は木製で落ち着いた雰囲気があるが、同時にどこまでも静かすぎた。物音の一切しない家はどこまで行っても慣れる事はなかった。

今でも昔の幻想に浸りたくなる。両親がまだ生きていた頃、私は幸せだった。

[水平線]

私は昔から物語が大好きな子だったらしい。幼い子供なら誰しも通る道。それを何度も読んでは幸せそうに微笑むものだから両親はほんの少しだけ難しい本を与えたそうだ。そうすれば私はその本を読む為に辞書を引いたり、親や幼稚園の先生によく聞きに行ったらしい。
詳しい事はもう随分昔のことだから覚えてはいなかった。

それでも、1つだけ覚えていることがあった。

[明朝体]その物語を読み終わった時の感動。[/明朝体]

私は幼いながらに物語に囚われてしまったのだ。

周りが外を走って、遊んでいる中、私は1人、本を読み続けた。先生も親も優しくて、そんな私を変な子だと言うのではなく、

[下線]幼稚園の先生[/下線]
「[漢字]椎名[/漢字][ふりがな]しいな[/ふりがな]ちゃん、こんな物語は知ってる?これはね、冒険の話なんだけど…どうかな?読んでみない?」

と色んな物語を教えてくれた。

親は私が誕生日を迎える度に色んな本を買ってくれた。

[下線]親[/下線]
「誕生日おめでとう!プレゼントは椎名が欲しいって言ってた本と〜…なんだと思う?」

[下線]幼い椎名[/下線]
「え〜、なんだろう…やっぱりお本?」

[下線]親[/下線]
「そうだよ!今の椎名にはちょっ〜と難しいかもしれないけど…読んでみるかい?」

[下線]幼い椎名[/下線]
「もちろん!」

そうやって本を読み続け、気付けば小学校へ入学する前に小学生の漢字は大体記憶に入っていた。優しいだけではない。私を大人へ導こうとしてくれる、本当にいい親と先生だった。

小学校へ入学してからは少しだけ酷い日々が待っていた。皆が外でぎゃーぎゃー騒ぐ中、1人だけポツンと席に座って本を読んでいるものだからきっと幼い子供でも協調性のない、一緒にいてつまらない子だと気付いたのだろう。段々孤立していつの間にかひとりぼっちになっていた。それでも、別に私は気にしなかった。優しい先生には

[下線]小学校の優しい先生[/下線]
「最近、困った事はない?」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「ないです。」

[下線]小学校の優しい先生[/下線]
「ん〜、先生ね、椎名さんの事、少し心配なんだ。椎名さんっていつも本を読んでるからね、教室で1人になりやすくて…」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「大丈夫です。1人は慣れてるので。」

[下線]小学校の優しい先生[/下線]
「…そっか。椎名さんがそれでいいならそれでいいんだけど…なにか困ったことがあったら言ってね。」

とよく心配された。でも私は別にどうでも良かった。物語を読むのに友達なんか必要ない。そう思っていたから。

その後はあまり心配すらもされなくなった。1年生の時の優しい先生は時々話に来てくれていたが、他の先生は私に対してなにも言わなくなっていた。

でも、高学年になってから、少し厳しい先生に会った。その先生は優しい先生みたいに心配するんじゃなかった。個人面談ではっきりと

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「[漢字]語部[/漢字][ふりがな]かたりべ[/ふりがな]さん。あなたは問題児です。」

と言われた。そんなにもド直球で来るとは思っていなかったので少し呆気に取られていたような気がする。そんな私を気にすることもなく、先生は言葉を繋げた。

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「あなたは周りに目を向けなさすぎる。好きな事を好きと言う。それに文句はありません。ですが…このままではあなたは社会に出れません。」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「なんでですか?周りと仲良くなくても宿題も読書もできますよ?」

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「えぇ、そうですね。あなたは決して言語化能力が足りない訳ではない。むしろ驚くほどにある。ですが、不完全です。」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「?不完全…ですか?」

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「本を読んで自分の中で考えを溜めておく。それでは本を読んだ事になりません。本は自分の考えを外に披露してようやく完成するのです。」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「…外に出す?」

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「そうです。例えばあなたはこの本を最近読んでいましたね。この本を読んであなたはどう思いましたか?簡単にで構いません。」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「人と通じ合う事の難しさとすれ違いの恐ろしさ、恋故に盲目になってしまう登場人物達が、記憶売りの商人の力を借りて互いの心を分かち合い、和解し、許し合う登場人物たちの心情がとても詳しく描かれた人間らしさがとてもある物語でした。」

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「ええ、そうですね。ではこちらは?」

[下線]小学生の椎名[/下線]
「優しい主人公達が裏切りと疑心暗鬼に溺れる中でも絆を作っていき、皮肉めいた形で始まり、発展した物語を皮肉返しして終わらせる…心情が風景の描写にも現れていて、フラグ回収の仕方がとても美しくて…特に序盤にあったフラグを最終局面で回収するところが本当に凄かったです。」

[下線]小学校の厳しい先生[/下線]
「そう、そう言う事です。周りにこんなところが良かった。あんな所が良かった。そう伝え合う、それも読書の魅力の1つです。語部さんは伝えられる相手がいればもっと輝ける。私はそう思っています。例えばですけど、2組の[漢字]話雅[/漢字][ふりがな]はなしが[/ふりがな] [漢字]菜湖[/漢字][ふりがな]なこ[/ふりがな]さん。あの子ならあなたと気が合うと思います。是非話しかけてみては?」

今思えば、この時、この先生が担任でよかったと思う。おかげで私は知れたから。世界の広さを、身近な存在を、そして自分の視野の狭さを。

その日、2組によって先生が言っていた話雅 菜湖に会いに行った。

[下線]語部 椎名[/下線]
「話雅 菜湖さん。居ますか?」

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「…えっと、あなたが語部 椎名さん?」

声はか細くて聞き取りにくい。そこで幼くもなんとなく察した。話す気はあっても話す内容が他と劣る彼女と、話す内容は面白くても話す気がない私。互いに互いの弱点を克服させようとしているのだ。

[下線]語部 椎名[/下線]
「うん、そう。あと同学年だしタメ口でいいよ。…菜湖ってよんでもいい?」

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「う、うん。いいで…じゃなかった…いいよ。」

初対面はこんな感じだった。互いに探り探りで、私がきいたことを菜湖が答える。そんな感じの関係。でも、私が1つの質問を投げた事でこの関係は変わった。

[下線]語部 椎名[/下線]
「ねぇ、菜湖。[明朝体]こんな話知ってる?[/明朝体]」

先生に言われた言葉に似た言葉。

そして、

[明朝体]私達にとっての魔法の言葉。[/明朝体]

その言葉を聞いた瞬間、菜湖は早口で語り始めた。菜湖が言っている内容はちゃんと理解できたけど、そこまで人に伝えようとする情熱は私にはなかったものだった。

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「あ、ごめんね…私ばっかり話しちゃって…」

そんな事を言われて思わず私は声を上げて笑った。多分赤ん坊の頃以来だろう。足りないものを互いに持っている2人。嗚呼、[漢字]これ[/漢字][ふりがな]人の人生[/ふりがな]もまた物語なのだとその時初めて気が付いた。私の世界を照らしてくれた人。最高の友人に菜湖はなってくれた。

何の因果か、中学も同じ学校で進む事になった私達はどこまでも幸せだった。図書館に行っては様々な本を読み漁り、本以外にも菜湖がお勧めしてくれたアニメやノベルゲーム、ドラマなど様々な物語を見たりしていた。一生こんな日々が続けばいい。そう思っていた。叶うはずもないのに。物語でいくならまだ事件が起こる前。そんな時が永久に続くはずなんてなかったのに。

事件が起きたのは普通の日だった。いつも通りチャイムギリギリで席につき、なんとか間に合わせていた。菜湖と色んな話をして、帰ろう、といって解散した日。

外は冬のせいで既に暗くて、木々は葉を落とし、いつの間にか寂しいものとなっていた。

いつも通り通学路を歩く。そして家の前で立ち止まる。

家は明かりがついていなかった。真っ暗でなにかあったのだろうかと思って警戒しながら中に入っても誰もいなかった。そう、いつも料理を作って待っていてくれる母も、美味しそうな匂いもしなかった。

少し遅くなるのかも知れないと思って待つものの、一向に帰ってくる事はなかった。

とっくに時間は夜、と言える時間帯になっていた。夜の闇の中、自分の部屋だけが明かりがついていて、音も匂いもなにもしなくて、まるで自分だけがこの世界に取り残されたみたいだった。

流石に遅すぎると思って外に出ようとした瞬間だった。家のチャイムがなった。親が帰ってきたのかも知れない。そんな願いを抱いてインターホンを覗く。そこに居たのは警察だった。

何事かと急いで出れば聞かされた話は、

[下線]警察[/下線]
「あなたのご両親が事故に遭われました。」

だった。呼吸の仕方を一瞬忘れた。嘘だと言いたかったが警察の瞳がそれを嘘だとは言わせてくれなかった。

[下線]警察[/下線]
「今は病院に搬送されましたが…」

その言葉の続きはきかなくても分かってしまった。分かりたくなかった。警察の声がどこか遠くに聞こえて、夢だった事にしてしまいたかった。

その後のことはあまり覚えていない。ただ、きっとなにも食べず、ベッドで眠っていたのだろう。

[水平線]

久しぶりに懐かしい思い出を思い出しながら私は通学路を歩いていく。あれから時間が経ち、私は既に高校生になっていた。通学路の木々は既に葉を落としていて、あの日の事を思い起こさせるようだった。教室へ入ると既に3時間目が始まっていたらしく、先生が「遅刻だぞ。」と言ってきて、隣の席の菜湖が「大丈夫?」と聞いてくる。

私はまだ幸せ者だ。お金は親が全財産を私に譲ってくれたらしい。一応名目は親戚に、と言う事になっているが親戚は優しかった為にお前のものだと私にくれた。

クラスメイトとも少し変わり者だが面白い子、という名目で仲良くやっている。

なにより、隣にはいつも菜湖がいる。あの時もそうだった。しばらく学校へ行かなかった私を菜湖は連れ出してくれた。最高の親友がいる限り私はこれからも前を向いて行ける。

[下線]語部 椎名[/下線]
「いや〜寝坊しちゃって…」

[下線]高校の先生[/下線]
「おう、寝坊な!正直でよろしい!でも許される訳ないだろ?ちゃんと遅刻届書いとけよ〜」

[下線]語部 椎名[/下線]
「は〜い。」

そんな会話を繰り広げながら授業を過ごす。そしていつの間にかお昼休みとなっていた。お昼休み、私達はいつも教室か屋上でお昼ご飯を食べるが今日は急いで来たせいでお昼ご飯を忘れていた。

[下線]語部 椎名[/下線]
「ごめん、菜湖。お昼ご飯忘れちゃって…今日一緒に食べれない。」

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「え、そうなの?なんというか…どんまい。じゃあ私は屋上で食べるね。」

[下線]語部 椎名[/下線]
「私も着いていこっかな?」

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「じゃあ行こっか。」

この学校は屋上が開かれているタイプである為、屋上で食べる事も可能だが、基本的に冬は外に出ると寒い為、誰もいない事が多い。静かな方が好きな私達はそこへ向かいがちなのである。

新作の話をしながらのんびりと屋上へ向かい、屋上の少し錆びついた扉をぎぃ、と開ける。冷たい風が吹く中、菜湖はお弁当の用意をしていた。お弁当の蓋を開けると

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「いただきます。」

と言って食べ始める。少し普段より早く見えたので私を待たせたくないのかな、と思い至ると私は口を開く。

[下線]語部 椎名[/下線]
「別に待ってる訳じゃないからゆっくり食べるんだぞ〜。喉詰まらせちゃだめだからね〜。」

そう言った後も少し早いような気がしたがまぁいいだろう。雑談しながらのんびりとした時間を過ごす。

風はどこまでも冷たく吹いていて、その風は少しずつ強さを増している様な気すらもした。

[下線]語部 椎名[/下線]
「風強くない?食べ終わったら早く戻ろ?」

[下線]話雅 菜湖[/下線]
「う〜ん…じゃあ先に戻っておいてくれない?私も食べ終わったら直ぐに向かうからさ。」

[下線]語部 椎名[/下線]
「うん、分かった。風強いから菜湖も気をつけるんだぞ〜。」

そう告げて私は教室へ戻っていった。階段を下ら終え、廊下を歩く中、その道中にある窓で、ナニカが落下していったのが見えた。

目と目があったような気がした。

気のせいという事にしてしまいたかった。

そこの窓からでは十分に見えなかった為、急いで屋上へ戻る。私がついた時、菜湖はそこにはいなかった。そして、ひしゃげた屋上のフェンスがあって、皆が群がっていた。嫌な予感がして、必死に外を見ようとする。人を退けて、見た景色は私の息を再び止めようとする、そんなものだった。

紅がそこには広がっていた。

親友だったはずの者はもう居なかった。

息が詰まる。景色が歪む。周りの声が遠く感じる。目の前の景色を現実ではないと否定して欲しかった。

なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

なんで菜湖がこんな目に。

その日は警察が来て、皆早くに帰らせられた。帰り道、いつもの道で、いつもよりも早い時間のはずなのに視界が曇って見えた。

[水平線]

数日がたった。クラスメイトが大丈夫か、と心配してくれたからなんとか学校に来れた。けど、心はまだ何かを欲していた。

世界は残酷なもので、人1人が消えたと言うのに清々しいくらい晴れていて、まるで菜湖はこの[漢字]世界[/漢字][ふりがな]物語[/ふりがな]のモブでしかないとでも突きつけるようだった。

皆心配してくれたけど頭に入ってこない。曖昧な返事をしながら屋上へ向かう。

無意識のうちに菜湖を追っていたのかも知れない。

けど、そこには誰もいなかった。

[下線]語部 椎名[/下線]
「…哀れだなぁ…。」

風が吹く中、1人でご飯を食べていた時、1人の高1の子だろうか。少なからず下級生ではあるであろう少年がこっちへ来ていた。私は特に気にしなかった。けど少年はどんどんこちらへ向かってきて、ある程度近付くとこちらを指差してこう言った。

[下線]少年[/下線]
「こいつが話雅 菜湖を突き落としたんだ!」

[下線]語部 椎名[/下線]
「…ふざけるな。私が菜湖を?私の気持ちも知らない癖に。何の為に?何の証拠があって言っているの?」

そう、低い声で言葉を吐く。冷たい声だったが仕方ないと思う。だって私は既に、この世界の希望を疑い始めていたから。そんな中、お前が親友を殺したのだと言われればそんな事にもなる。そう思いながらすっと鋭い視線を向ければ、いつの間にか少年の背後には同級生や見知らぬ顔があった。

[下線]少年[/下線]
「だって皆君と菜湖さんが一緒に屋上に向かったって言ってるんだ。」

[下線]語部 椎名[/下線]
「菜湖に先に帰っておいてと言われただけ。いい加減にして。」

[下線]少年[/下線]
「話の切り出し方や言い訳の仕方も犯人みたいだ。内心焦っているんじゃないのか?被害者面しておこうと思ったのにバレかけてさ。」

段々と、視界が暗くなっていくのを感じた。
妄言を淡々と重ね続ける目の前の馬鹿に嫌気がさしてきた。こいつは妄想と現実の区別すらもついていない。

[下線]語部 椎名[/下線]
「…なにそれ。ふざけるのも大概にして。お前の主観で話さないで。1人にさせて。」

手に痛みを感じ、そちらに視線を向ければ手を強く握っている事に気がつく。その時ようやく、私は怒っているのだと気付いた。

[下線]少年[/下線]
「それに何より…なんで屋上へ来て哀れだと言ったんだ?それは君が犯人で嘲笑う為だろう?」

まるで三文芝居。何の価値もない癖に。なにもわかっちゃいない癖に、ただこちらへ矛先を向けて、自分が目立ちたいだけ。ただの自己満足の為の劇に私は付き合わされていて、観客はそんな三文芝居に価値を見出す節穴しかいないのだろう。

[下線]語部 椎名[/下線]
「…」

[下線]少年[/下線]
「なにも言わないのか?じゃあ君が犯人なんだな。」

周りもぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。こちらを指差して、言葉という名の石を投げつける。何の価値もないやつら。きっと私の潔白が証明されれば次はこの少年に言葉という名の石を投げつけるのだろう。まるで雲みたいだ。自分自身の意思も芯もなにもない。ただ風に流されるだけの存在。少年は自分が美しく価値があるのだと勘違いした芯と意思以外何もない哀れな宇宙ゴミ。きっとその内除去されるのだろう。

こんな奴らの妄想と妄言に呆れすぎて声も出なかった。
ふざけるな。お前らの探偵ごっこの為に菜湖は死んだんじゃない。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。

反論なんかいくらでもできた。

でも、しなかった。

ここで反論したら、私はもう2度と、誰も信じられない気がしたから。物語みたいに誰かが助けに来てくれたら私はきっとまだ希望を持てたから。


でも、結局、誰も庇ってはくれなかった。

少年は先生を呼び、先生も困惑していたがやがて「そうなのか」と言ってどこかへ行ってしまった。きっと職員室で私の潔白と少年の勘違いを解く方法を模索するんだろう。違う。そうじゃない。

周りの生徒の中にはこちらを信用の目で見てくれる人もいた。けれど声を上げることはなかった。声を上げなくては私はこの場では押し潰されるだけだというのに。そう分かっているはずなのに…。

誰も助けてはくれなかった。

希望なんてもうなかった。

周りが騒ぎ立て、一部が同情し、先生達が作戦を練っている間に学校を裏門からとっとと出た。きっと現場はもう一波乱あるのだろうが知ったこっちゃない。勝手に私を巻き込むな。廊下を普通に歩く生徒達にも裏門の警備員にも話が行っていなかったことが功を奏し、結果直ぐに家へ帰ることができた。

風はどこまでも冷え切っていて、先程までは少しだけだが吹いていたというのにいつの間にか止まっていた。

[水平線]

家は真っ暗で、まるで自分だけが世界に取り残されたみたいだった。何の音もしない。何の匂いもしない。

[下線]語部 椎名[/下線]
「…。」

まだ幻想に縋っていたかった。お母さんとお父さんが料理を作ってくれて、菜湖が本を持ってきて、一緒に本について語るのだ。幸せが溢れていた。

幸せを知らなければきっと、こんな気持ちにはならなかったはずだった。

[明朝体]でももうきっと、間に合わないから。[/明朝体]

ロープと椅子をを用意して天井にロープをぶら下げる。

とびきり後悔して欲しいから恨み言を少しくらい書いたって許されるだろう。菜湖への愛も綴っておこう。そしてお世話になった家族へ感謝しよう。

[下線]語部 椎名[/下線]
「…後悔してね。菜湖を舞台装置として使った事、絶対に許さないから。」

久しぶりに心から醜く笑った気がする。静かに私はロープの方へ向かっていった。

足が地につかない中、視界が歪んだ。頬を何かが伝った気がした。そして初めて気付いた。

[明朝体]私は今、泣いているのだと。[/明朝体]


理不尽だと、そう思わずには居られなかった。
初めて物語を呪った。
許さない。

叶うならばもう2度と_

[明朝体]生きたくない。[/明朝体]

[水平線]

玄関でチャイムが鳴る。が、誰も出ない。あんなの少年の戯言だ。だから気にしないで欲しい。そう、伝えたかった。手遅れになる前に。

仕方ないので無理矢理扉を開ける。弁償は後ですればいい。

不気味なほど、物音はしなかった。この時点でもう既に私はうすうす察してしまった。

だが希望を捨てるわけにはいかなかった。僅かな望みにかけて彼女の姿を探す。

他の者と分担して、私は2階の彼女の部屋へ向かう事となった。部屋を開けた瞬間、カーテンがふわりと揺れ、窓からの光は辺りを照らし、彼女は影となっていた。

椅子は倒れ、ロープは天井から静かにぶら下がり、彼女は力無くうなだれていた。

そして、理解し直す。嗚呼、間に合わなかったのだと。静かに机に目を向ける。直前に綴ったのだろうか。乱れた文字で彼女の言葉がそこには残されていた。

それを見る前に彼女を地につけて、楽な姿勢に直してあげよう。そして親戚の方へ伝え、ちゃんと火葬してもらおう。それが彼女にできる唯一の事だった。

そう思いながら、彼女を降ろした時に気づいてしまった。

[明朝体]彼女は、泣いていたのだと。[/明朝体]



誰にも言えず、誰にも助けて貰えなかった彼女はこの世界に希望を見出せなくなったのかも知れない。

あの日、彼女にご両親の死を伝えた。彼女は辛く、苦しい顔をしていたのだろう。だが、それでもまだ前を向いた彼女は強い人だった。

きっと少年は後悔するだろう。彼女はこの世界を恨んだだろうか。いや、恨んでいるだろうな。そう思いながら彼女を見つめる。

[下線]警察[/下線]
「すまない。」

そんな言葉しか私には吐けなかった。

[水平線]

殴り書きで綴られた言葉。所々、誤字や脱字があった。急いで書いたのだろう。

ここに残しておこうと思う。

 強い彼女の言葉をここに…。

[水平線]

[水平線]

これを読んでいる誰かへ。

多分警察さんですかね。

まぁ知っての通り私は語部 椎名です。

まず初めに事件じゃないです。ただの自殺。だからあまり気にしないでください。

私はもう居なくなります。別に今回の事だけが理由ではありませんが主な理由は今回の事にはなるんでしょうね。

出来ればとびきり後悔してください。


そして最愛の両親へ。

どうしようもない馬鹿な娘をどうか許してください。そして私を本を巡り合わせてくれてありがとう。置いていかれたのはとても悲しかったけれど、2人と過ごした日々はいい思い出でいっぱいです。

改めて、私の事を産んで、大切に育ててくれて、ありがとう。


優しい親戚へ。

両親が居なくなってから、途方に暮れた時、裏で支えてくれてありがとうございました。皆さんのおかげで私は一人暮らしができたし、思い出の場所を誰かに取られる事もなかったです。本もよく持ってきてくれていたし、一緒にいて楽しかったです。

改めまして、本当にありがとうございました。



最後に私の最高の親友へ。

小学校高学年の時から変わり者の私と居てくれて本当にありがとう。問題児ってよく言われてたし、互いに足りないところもずっと補い合ってたよね。

両親が居なくなった時、1番心配してくれて、私が外に出られる様になったのは親友のおかげだよ。ありがとう。

本を読んで、それを語って、どれだけ長い文で感想を語ってもそれと同じくらいの量で返してきたのは一生の中でも親友、ただ1人だけだったなぁ(笑)

ずっとそばにいてくれてありがとう。

感謝してもしきれないし、叶うならずっとそばにいたかった。

でもさ、もう駄目なんだ。私はこの世界に希望を見出せなくなっちゃった。もう、救いを求められなくなっちゃった。ごめんね。

馬鹿な私を笑っていて。

最期に、


[明朝体]大好きだよ。[/明朝体]

もう言葉を交わせない、あなたの最高の親友より。

[水平線]

[水平線]

作者メッセージ

…文字数が…ワァ……ワァ……もう笑うしかない。あはは。
まぁこのキャラ他の物語は繋げる為にこの後も一応続きがあるんですけど…今回はここで終わった方が綺麗だったのでここでぶった斬りました。

初の単発でございます。

見てくださりありがとうございました。

2026/01/19 20:00

空音 零
ID:≫ 9ixiBSBZrTprs
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PG-12悲劇好意友愛家族愛死亡描写あり

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