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奇術師の推理

#1

第一話

 11月14日、水曜日。
 
 この頃晴れが続いたと思ったら、突然雨が降り出した。傘も持っていないと言うのに。
 ずぶ濡れになりながら、暗い道を目的地へ走る。
 からんからん
 「いらっしゃいませ・・・っと、木暮かあ。いっぱい飲んでくか?」
 「そう言う気分じゃねえんだよ。」
 「あ、かなで君か。おーい!」
 中学からの友人で、ここの店長である升木が奥に声をかけた。
 「木暮さん、今日はどうされたんですか?」
 音もなく近づいてきた青年。
 奇術師の清流院かなでだ。
 「すぐそこのスポーツ公園で起きた殺人事件、知ってるか?」
 「へえ、そんなことがあったんですか。」
 脇に置いてあった新聞を手に取る。
 「ええと・・・、連続婦女暴行事件、6人目の被害者か。」
 「どの記事だ、それ。」
 「こっちの方が大きく載るんですねえ。・・・あ、これですか。今朝、午前7時ごろ、若松スポーツ公園のテニスコートで広 告会社社長、林亮治さん(52歳)が腹部を刺され、死亡しているところを発見された。警察は計画的な犯行であるとし、捜査 をしている。・・・計画的なんですか?どうして。」
 首を傾げて見せる清流院。
 「被害者は、テニスコートの中で発見された。それも、テニスコートには鍵がかかっていたんだ。」
 「へえ・・・。じゃあ、第一発見者は管理人の方とか?」
 「ああ。普段は鍵をかけていないらしい。よくあるサムターン錠だ。もっとも、フェンスについているわけだから密室ではな いがな。」
 「この林亮治さんって、CMとかポスターに顔が出ている人ですよね。」
 「それで、すぐに身元がわかったんだがな・・・。」
 しかし、問題はここからなのだ。
 なぜ、鍵がかけられていたのか。
 犯人はどのように逃走したのか。
 そもそも、どうやって殺したのか。
 「致命傷は、この腹部の傷ですよね。」
 「ああ。ナイフも刺さっていたが、指紋は検出されなかった。」
 「例えば、フェンスの向こうから被害者を呼んで、ナイフを刺したとかは考えられませんか?」
 「ないな。被害者はコートのど真ん中で死んでいた。」
 「ど真ん中、ですか。」
 難しい顔をして考え込む清流院。
 彼は、奇術師だが、趣味は『謎を解くこと』と言う変わり者だ。
 まあ、そのおかげで解決した事件も山ほどあるのだが。
 「・・・被害者は、どんな格好で死んでいたんですか。」
 「格好?うつ伏せで死んでいたが、」
 「そっちじゃなくて、服装ですよ。」
 「・・・黒っぽいジャージだ。寒かったからか、手袋もしていたな。」
 「やっぱり。」
 どうやら、謎が解けたらしい。
 「で、犯人は誰なんだ?」
 「そうですねえ・・・まずは、昨晩の出来事を順を追って説明しましょうか。・・・昨晩、被害者はある女性を追いかけてい ました。」
 「いや待て。なぜだ。」
 「女性に顔を見られたからですよ。ナイフ片手に女性を追う被害者。女性は、必死で逃げ、テニスコートに逃げ込んだ。鍵を かけたのは彼女ですよ。そうすれば、追うのを諦めるかもしれないでしょう?・・・しかし、被害者はナイフを手にフェンス を登った。女性は慌てて反対側のフェンスをよじ登る。被害者は逃すまいとコートを縦に走り抜けようとする。そこで、悲劇 が起きたのです。・・・被害者は、ネットに気づかず、転倒してナイフを自分の腹部に刺してしまったのです。女性はフェン スをよじ登って逃げ、保護されました。ここまでいえば、わかりますよね?」
 まさか。
 「・・・林亮治は、連続婦女暴行事件の犯人だったのか。」
 「その通りです。6人目の被害者の方が落ち着いてから話を聞けば、全てわかると思いますよ。これでQEDです。」
 考えてみれば、単純な話だ。しかし、被害者が加害者だったとは・・・。
 捜査員が辿り着けなかった真相に、清流院は辿り着いたのだ。やはり、彼の頭脳はずば抜けている。
 「それで、何か飲んで行かれますか?」
 「・・・バーボン。」
 清流院は微笑んで、酒の用意を始めた。
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2023/12/04 01:24

らいと
ID:≫ 8eRzK65eCK7uk
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