金のメロディー
トランペットが、夕暮れの教室に、たった一つ、ぽつんと置かれていた。
テニス部の練習を終えた私、[漢字]日向[/漢字][ふりがな]ひなた[/ふりがな] [漢字]梨依子[/漢字][ふりがな]りいこ[/ふりがな]が、教室を見に来た時は、いつもは、綺麗に片付けてあるのに
楽器が、一つだけ、片付けずに残ってるなんて、珍しい。
そう思って、思わず私はトランペットに触れていた。
「吹いてみても、いいのかな」
誰にとも無く呟くと、
「いいんじゃない?」
後ろから、誰かの声がしてびっくりした。
「え、誰ですか?!」
振り向くと、後ろには、長い黒髪を一つくくりにした背の低い女の子が居た。
「誰だと思う?」
その子は、私の目を、じっと見つめて言った。
何処かで、見た気がする。
でも、思い出せない。
「ね、それ、吹かないの?」
「え、どうしよっかな、って思ってて…」
ふーん、とつまらなそうに相槌を打つと、その子はトランペットに触れた。
「じゃ、吹いちゃおっと」
「怒られるよ?!」
「大丈夫」
そう言って、トランペットに口を付けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪
その子が奏でた音楽は、とても綺麗で、聴いていて、気持ちが良かった。
そう、まるで、夢の世界にいるみたいな、そんな感覚だった。
「ね、私が誰か、思い出した??」
吹き終わると、その子は私に近づいてきて言った。
「残念ながら、」
思い出せてない、その言葉は、何だかその子が可哀想だったので言わないでおいた。
「そっか、、、早く思い出してくれないと、置いてっちゃうよ?」
置いてく?
って、どこに。
“ ねー早くー!置いてっちゃうよー? ”
え、誰の声?
脳内に、幼い子供の声が響く。
「どうしたの、?」
女の子が聞いてきた。
「ううん、何でも、ない」
「思い出せない、?」
「ぅ、ん」
これは、忘れちゃいけないのに。
忘れちゃ駄目な、大事な記憶なのにっ!
「りっちゃん、深呼吸だよ」
[太字]りっちゃん[/太字]。
あぁ。
思い出した。
頭の中で、パズルが完成するように、全ての記憶が繋がる。
“ りっちゃんっ!逃げてっ! ”
燃え盛る火の中で、瓦礫に埋もれて必死に叫ぶ君。
「ぇ、?火?」
「思い出した?」
「思い、出した」
あの日、テニス部の部活を終えて、同じ頃に練習を終えるはずの、吹奏楽部の君[漢字]暁月[/漢字][ふりがな]あかつき[/ふりがな] [漢字]実琴[/漢字][ふりがな]みこと[/ふりがな]を、教室まで迎えに行ったんだ。
そしたら。
校舎で、火事が起きていて。
慌てて、実琴がいるはずの教室まで向かって。
それから……?
「もう、思い出さなくていいよ」
「私のこと、思い出してくれたんでしょ?」
「うん、!」
「実琴、死んじゃったの、?」
「そう、なんだよねー、実は」
「え、やだよっ、」
「私、実琴の分まで、頑張って、生きるよっ、(涙」
「え?そんなことしなくていいよっ?」
実琴は、昔のように明るく笑っていった。
[太字]「だって、りっちゃんも、[漢字]こっち[/漢字][ふりがな]あの世[/ふりがな]に来てくれるでしょ?」[/太字]
視界が、霞む。
視界の端には、君が、よく吹いていたトランペットがうつっていた。
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