「あいつは感情がねぇだろ?でもいつかは同じように感情がない、無機物みたいなやつにも愛情を注げるようにって、愛機ってのはどうだ?」
「…愛機、か…。」
田里弥は少し考えたあと、こういった。
「…俺は人に名前着けるなんてやったことないから分からないが、いいと思う。そうなると、まずは俺たちで沢山愛情を注いでやらないとな。」
田里弥がそう言うと、倉央は顔を輝かせた。
そのタイミングで少女が起きてきたので、田里弥は早速自分達で着けた名前を呼んでみることにした。
「おはよう。よく眠れたか?…ところで、お前って自分の名前分からないんだよな?だから、俺達がお前に着ける名前を考えてみたんだ。「愛機」。…どうだ?」
少女は「愛機…。」と、復唱するように呟いた。
どうやらしっくり来た様子だったので、そういえば飯食べさしてなかったなと、倉央が簡単に粥を作って愛機の前にだした。田里弥が食器の使い方を教えると、愛機はゆっくりと飯を食べ始めた。そして食べおわって倉央が食器の片付けをしている間に、田里弥は愛機を外に連れ出した。「…なあ愛機。俺達は、王翦軍っていう、王翦っていう人が率いる軍にはいってるんだ。俺達がそこに行くことが殆どだから、必然的にお前も行く機会が増える。そこで、お前にも武術や戦術を覚えて欲しいんだ。今は戦国で、国同士で戦うことが当たり前の時代。だから、お前にも護身術程度のことは出来るようになって欲しいんだが…。出来るか?」田里弥は内心、なに言ってんだ俺、と思っていた。まだ身も心もボロボロの、しかもこんな幼い子供に言うことじゃないだろう、と、自分で自分を責めた。だが愛機は、
「…田里弥と倉央が行きたいなら、どこへでも。やりたいなら、なんでも。」と返した。
田里弥は少し嬉しくなって、「…そうか!」と、返事が明るくなった。そこから愛機に必要な日常品や食料などの買い出しを倉央がすることになり、かなーりきつめに余計なものは買うなよと田里弥からいわれた倉央は、そんなら自分が行けばいいのに。と思いつつも、買い物にでかけた。
倉央が買うものを頭のなかで復唱しながら道を歩いていると、茂みがガサガサ動いた。とっさに臨戦態勢をとった倉央は、こんな時にだれだよと思いつつも、警戒しながら動いたほうを注視した。すると、なにかが飛び出して来たので避けると、そこには剣をもった山賊達がいた。(ちっ、山賊かよ…。)さっさと進もうかと考えていると、山賊が「おいてめぇ!!あのガキをどうした!!」
「!!」
あまり察しが良くない倉央でも、「あのガキ」が誰のことなのかわかった。
(こいつら…愛機を散々ひどい目にあわせたやつらか!!)
一気に纏う空気を変えた倉央は、山賊達に突っ込んでいった。そしてそのまま山賊を全員薙ぎ倒した。「………。………はっ、あぶねぇあぶねぇ。「あいつ」の鱗片がでてたな。本当に気を付けないとな…。」
実は倉央は、小さいころから霊に好かれやすく、体の中に色んな霊が出入りしており、倉央自身霊感があるのでそれが見えていた。そしてある日に倉央の中に暴力の霊が住み着いてから、倉央は本気で怒って相手を殺してしまいたいと思うほどになると、その霊のせいで制御が聞かなくなることがあるので、倉央自身こまっていた。この前にそれのせいでひとを殺しかけたこともあるので本当に早くでていってほしいと思っている。
「さーて、買い物買い物。」
そして倉央はさっさと買い物を済ませ、血塗れの山賊達が転がっている所を後にした。
倉央が帰ってくると、田里弥が出迎えた。
「…驚いた。まさか本当にちゃんと買ってくるとは…。」
「なんだよその言い方。俺だってやるときはやるんだ。…あっ、そうだ。」
倉央は、思い出したように田里弥に耳打ちした。
「道中に愛機を散々ひどい目にあわせたやつらにあったから、ボッコボコにしてやった。」
「…!!それはほんとうか!?」
「声でけぇよ。ああ、本当だ。」
愛機には勿論その会話は聞こえなかったが、なんだか嬉しそうだったので口を挟むこともないだろうと、黙っていた。
「さーて、なにすっかねぇ…。」
完全な自由時間になって、倉央はやることを考えあぐねていた。そしてちらっと横にいる愛機を見て、(愛機はまだ激しい運動は禁止だろうしなぁ…。あ、そうだ。)
あることを思い立った倉央は、休みの日でも兵法書を見て勉強することを欠かさない田里弥のところにいき、「おい田里弥、愛機に勉強教えてやらないか?」
と言った。倉央の言葉に顔を上げた田里弥は、それは名案だと言い、基礎中の基礎のことが書いてある兵法書を幾つか引っ張ってき、2人で愛機のところにいった。
「おーい愛機、ちょっとこっち来てくれ。」
呼んで来た愛機を椅子に座らせ、田里弥が勉強(もとい兵法)を教え始めた。愛機はかなり飲みこみが早く、兵法は得意だと自負している田里弥が驚くほどだった。
「へぇ、結構飲みこみ早いな!このままなら、あっという間に田里弥のこと抜かせるんじゃないか?」
どうやら愛機は環境が環境だっただけに頭を使っていなかっただけで、普通に頭は良いし理解力も優れているようである。
それから愛機は、応用レベルのものまで出来るようになり、子供って恐ろしいと思った(自分達も子供と言える年齢であるのは忘れている)。
「これなら簡単な戦くらいならできるんじゃないか?愛機の対応力ならそこから色々変化させることも出来そうだし。あとは武術のほうがどうなるかだな…まあ頭の良さだけでもいいんだけどな。それだけは愛機の回復待ちかあ。」倉央がそういうと、田里弥が思い出したように
「そうだ、明日になったら医者に見せてみるか。表面だけじゃなくて中にも傷があったら大変だからな。」といった。
翌日…
「おーい、頼もー」
倉央が扉をあけながらいった。すると、
「おう、何のようだ。」
中から少し怖い雰囲気3~40代くらいの男(多分医者)が出てきた。
「少し、この子を見て欲しい。」
田里弥はそういい、愛機をつれてきた。
医者の男は愛機を一瞥して一言、
「お前ら、こいつに殴ったりとかしたのか?」
と、睨みながらいってきたので、倉央が慌てて今までの経緯を説明した。すると、「なんだ、ちがうのか。疑って悪かった。」
と謝ってきたので、2人は少し困惑した。
「そんじゃあ、ちょいと嬢ちゃん借りてくぞ。」
と、医者の男は愛機をつれて奥にいってしまった。
そこからしばらくして、医者の男が奥から出てきた。もちろん、愛機もつれて。そして医者の男は口を開いた。
「ちょっと診たが、どうやら暴力を受けすぎて脳の感情を司る大事なところが機能しなくなっちまってる。脳はかなり繊細なところだ。一度機能を失ったら完全にもとに戻るのは不可能だろうな。」
2人は絶望した。
「「そ、そんな…。」」
色んなことを学ぶと同時に、少しずつでも感情を取り戻していって欲しいと思っていた2人にとっては、かなりショックな出来事であった。
「まあ待て。完全にもとに戻るのは不可能だが、少しだけなら取り戻せる。人並みではなくても、少しでも感情を取り戻して欲しい。お前らならそう思ってるだろ?」
医者の男は口の端を上げながら言った。
「ほら、帰った帰った。お前らの勇気に免じて、金はとらないでやるから。…頑張れよ。」
そういって、医者の男は半ば追い出すようにして2人を店の外に出した。
「なんか…いい人…だったのか?」
「ああ…多分…そうだろうな。」
びっくりしたことが起こりすぎて、ちょっと呆けたように言葉を紡ぐ2人。
「…取り敢えず、帰るか。」
「…ああ。」
特にやることもなかったので、さっさと帰ることに決めた2人。道はまだまだ、果てしなく長い。
そこから数日して、軽い運動くらいは出来るくらいに復活した愛機。早速倉央が武術を教えようとしたが、田里弥にまだ早いと止められた。だが、取り敢えず軽い運動から初めて、体力が着いてきたと思ったら段々負荷を上げていって武術を教え始めると言うことになった。
それから3週間程して、愛機の動きが大分良くなってきたのでそろそろ武術を教えることになった。
愛機は武術の面でも飲みこみが早く、3ヶ月ほどで武のほうは強いと自負している倉央がかなり本気を出して相手をしないと負けてしまうと言うほどにまでなった。
「いや…お前…本当に…強いな…。」
訓練を終えた倉央が息絶え絶えになっている横で、愛機も疲れている様子ではあるがまだまだ余裕そうだった。
「驚いた…。本当に、ここまで飲みこみが早いとは…。」田里弥も倉央の強さは知っていたので、かなり驚いた様子である。
更に、拾ったときは小枝のような細い手足だったのに、(今もまだまだ細くはあるが)健康的に肉も着いてきたし、体つきも良くなってきた。また、幸いだったのは、大きな傷やあざいつくかをのぞけばほぼ全ての細かい傷が数日のうちに治りきったことである。これにも2人は驚いた。それと、延びきった髪も短く切り、綺麗な着物も揃えてやったので、愛機本人が整った中性的な顔立ちをしていることもあり、普通にそこら辺を歩いていれば何処かの貴族のようだ。
そのこともあり、王翦軍にも何度かいったこともある愛機は、王翦軍の兵たちから「うちの軍のちっちゃいお貴族サマ」と呼ばれている。
その他にも、最初の頃は田里弥や倉央に付いて回ることが殆どだったのに最近は自分の意志で行動することが多くなったり、喋ることが多くなったり(たまにどこで覚えてきたんだそんな言葉みたいなことも喋る)、最初の頃とくらべたら変化は明らかである。
そこから数日後…
何度か目の王翦軍にいった愛機。いつもと同じように適当に鍛練しつつ、たまに通りかかる兵たちから「よう、お貴族サマ!」などといわれて頭を撫でられたりしながら時間を潰していると、急に回りが静かになったので愛機が周りを見渡すと、明らかに異なる雰囲気を纏う大男2人が愛機の前に立っていた。愛機も背は伸びたのだが、それでも精一杯見上げないと顔が見えない。
それほどに大きかった。
「お前が愛機と言うものか?」
右の、口元に傷がある男が言った。
愛機が頷くと、左の糸目の男が
「ほう、その年でその目の力強さ…。この麻光に怯まぬか。これは将来有望かもしれん。」と、口角を上げながらいった。
すると後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。
「亜光三千将!麻光三千将!ご無礼をお許しください!」田里弥と倉央だった。2人は跪いて拝手しながらそう言った。愛機が疑問に思っていると、倉央が小声で(愛機も片膝つけ!)といってきたので、取り敢えずその通りにしたが、麻光が「よい、よい。立って話を聞いてくれるか。只でさえある身長差がさらに開いてお主らを見辛くてかなわん。」と言ったので、3人は立って亜光と麻光の話を聞くことにした。「実は王翦様直々に仰せつかってな?愛機と言う名前の子供が王翦軍に来ているので見てこいと。我々としては遠くから少し様子を見るだけのつもりだったのだがなあ。これが思ったより鍛練しているときの動きが興味深くてな。つい出てきてしまった。なあ、亜光?」
「ああ、そうだ。」
麻光は弁舌だが、亜光は寡黙な人物なようである。
「まあ、そういうことだ。別にこやつを連れ去ったりはせんから安心しろ。田里弥とやらと、倉央とやら。」
「!?」
「なっ…名前を!?」
「ふっ、想像していた通りの反応だな。その子供をつれてきたものたちとして、お前たちの名前も王翦様に教えてもらったのだ。」
「あわあっ、すみません。」
「よいよい。お前のようなものは見ていて飽きない。…では、俺達はそろそろ失礼する。これからも精進するのだぞ。」「「ハハッ!!」」 田里弥と倉央は、拝手しながら2人を見送った。姿が見えないくらいになると、
倉央が地面にへたり込んだ。「まっ、まさか亜光三千将と麻光三千将直々に様子を見に来て下さったとは…。」
田里弥も驚いて言葉が出ないと言うような感じである。
「愛機お前、我らが大将に名前を覚えられたとか、何したんだ?」と倉央が愛機に聞くが、愛機自身も「いや、別に何も…。」と、ただ普段通り過ごしていただけなのでなぜ、いかにも偉そうな2人が来たのか全くわからなかった。
そしてそこから数年後、幸か不幸か運命の分岐点とも言えるような出来事が3人に舞い降りるのである。
「…愛機、か…。」
田里弥は少し考えたあと、こういった。
「…俺は人に名前着けるなんてやったことないから分からないが、いいと思う。そうなると、まずは俺たちで沢山愛情を注いでやらないとな。」
田里弥がそう言うと、倉央は顔を輝かせた。
そのタイミングで少女が起きてきたので、田里弥は早速自分達で着けた名前を呼んでみることにした。
「おはよう。よく眠れたか?…ところで、お前って自分の名前分からないんだよな?だから、俺達がお前に着ける名前を考えてみたんだ。「愛機」。…どうだ?」
少女は「愛機…。」と、復唱するように呟いた。
どうやらしっくり来た様子だったので、そういえば飯食べさしてなかったなと、倉央が簡単に粥を作って愛機の前にだした。田里弥が食器の使い方を教えると、愛機はゆっくりと飯を食べ始めた。そして食べおわって倉央が食器の片付けをしている間に、田里弥は愛機を外に連れ出した。「…なあ愛機。俺達は、王翦軍っていう、王翦っていう人が率いる軍にはいってるんだ。俺達がそこに行くことが殆どだから、必然的にお前も行く機会が増える。そこで、お前にも武術や戦術を覚えて欲しいんだ。今は戦国で、国同士で戦うことが当たり前の時代。だから、お前にも護身術程度のことは出来るようになって欲しいんだが…。出来るか?」田里弥は内心、なに言ってんだ俺、と思っていた。まだ身も心もボロボロの、しかもこんな幼い子供に言うことじゃないだろう、と、自分で自分を責めた。だが愛機は、
「…田里弥と倉央が行きたいなら、どこへでも。やりたいなら、なんでも。」と返した。
田里弥は少し嬉しくなって、「…そうか!」と、返事が明るくなった。そこから愛機に必要な日常品や食料などの買い出しを倉央がすることになり、かなーりきつめに余計なものは買うなよと田里弥からいわれた倉央は、そんなら自分が行けばいいのに。と思いつつも、買い物にでかけた。
倉央が買うものを頭のなかで復唱しながら道を歩いていると、茂みがガサガサ動いた。とっさに臨戦態勢をとった倉央は、こんな時にだれだよと思いつつも、警戒しながら動いたほうを注視した。すると、なにかが飛び出して来たので避けると、そこには剣をもった山賊達がいた。(ちっ、山賊かよ…。)さっさと進もうかと考えていると、山賊が「おいてめぇ!!あのガキをどうした!!」
「!!」
あまり察しが良くない倉央でも、「あのガキ」が誰のことなのかわかった。
(こいつら…愛機を散々ひどい目にあわせたやつらか!!)
一気に纏う空気を変えた倉央は、山賊達に突っ込んでいった。そしてそのまま山賊を全員薙ぎ倒した。「………。………はっ、あぶねぇあぶねぇ。「あいつ」の鱗片がでてたな。本当に気を付けないとな…。」
実は倉央は、小さいころから霊に好かれやすく、体の中に色んな霊が出入りしており、倉央自身霊感があるのでそれが見えていた。そしてある日に倉央の中に暴力の霊が住み着いてから、倉央は本気で怒って相手を殺してしまいたいと思うほどになると、その霊のせいで制御が聞かなくなることがあるので、倉央自身こまっていた。この前にそれのせいでひとを殺しかけたこともあるので本当に早くでていってほしいと思っている。
「さーて、買い物買い物。」
そして倉央はさっさと買い物を済ませ、血塗れの山賊達が転がっている所を後にした。
倉央が帰ってくると、田里弥が出迎えた。
「…驚いた。まさか本当にちゃんと買ってくるとは…。」
「なんだよその言い方。俺だってやるときはやるんだ。…あっ、そうだ。」
倉央は、思い出したように田里弥に耳打ちした。
「道中に愛機を散々ひどい目にあわせたやつらにあったから、ボッコボコにしてやった。」
「…!!それはほんとうか!?」
「声でけぇよ。ああ、本当だ。」
愛機には勿論その会話は聞こえなかったが、なんだか嬉しそうだったので口を挟むこともないだろうと、黙っていた。
「さーて、なにすっかねぇ…。」
完全な自由時間になって、倉央はやることを考えあぐねていた。そしてちらっと横にいる愛機を見て、(愛機はまだ激しい運動は禁止だろうしなぁ…。あ、そうだ。)
あることを思い立った倉央は、休みの日でも兵法書を見て勉強することを欠かさない田里弥のところにいき、「おい田里弥、愛機に勉強教えてやらないか?」
と言った。倉央の言葉に顔を上げた田里弥は、それは名案だと言い、基礎中の基礎のことが書いてある兵法書を幾つか引っ張ってき、2人で愛機のところにいった。
「おーい愛機、ちょっとこっち来てくれ。」
呼んで来た愛機を椅子に座らせ、田里弥が勉強(もとい兵法)を教え始めた。愛機はかなり飲みこみが早く、兵法は得意だと自負している田里弥が驚くほどだった。
「へぇ、結構飲みこみ早いな!このままなら、あっという間に田里弥のこと抜かせるんじゃないか?」
どうやら愛機は環境が環境だっただけに頭を使っていなかっただけで、普通に頭は良いし理解力も優れているようである。
それから愛機は、応用レベルのものまで出来るようになり、子供って恐ろしいと思った(自分達も子供と言える年齢であるのは忘れている)。
「これなら簡単な戦くらいならできるんじゃないか?愛機の対応力ならそこから色々変化させることも出来そうだし。あとは武術のほうがどうなるかだな…まあ頭の良さだけでもいいんだけどな。それだけは愛機の回復待ちかあ。」倉央がそういうと、田里弥が思い出したように
「そうだ、明日になったら医者に見せてみるか。表面だけじゃなくて中にも傷があったら大変だからな。」といった。
翌日…
「おーい、頼もー」
倉央が扉をあけながらいった。すると、
「おう、何のようだ。」
中から少し怖い雰囲気3~40代くらいの男(多分医者)が出てきた。
「少し、この子を見て欲しい。」
田里弥はそういい、愛機をつれてきた。
医者の男は愛機を一瞥して一言、
「お前ら、こいつに殴ったりとかしたのか?」
と、睨みながらいってきたので、倉央が慌てて今までの経緯を説明した。すると、「なんだ、ちがうのか。疑って悪かった。」
と謝ってきたので、2人は少し困惑した。
「そんじゃあ、ちょいと嬢ちゃん借りてくぞ。」
と、医者の男は愛機をつれて奥にいってしまった。
そこからしばらくして、医者の男が奥から出てきた。もちろん、愛機もつれて。そして医者の男は口を開いた。
「ちょっと診たが、どうやら暴力を受けすぎて脳の感情を司る大事なところが機能しなくなっちまってる。脳はかなり繊細なところだ。一度機能を失ったら完全にもとに戻るのは不可能だろうな。」
2人は絶望した。
「「そ、そんな…。」」
色んなことを学ぶと同時に、少しずつでも感情を取り戻していって欲しいと思っていた2人にとっては、かなりショックな出来事であった。
「まあ待て。完全にもとに戻るのは不可能だが、少しだけなら取り戻せる。人並みではなくても、少しでも感情を取り戻して欲しい。お前らならそう思ってるだろ?」
医者の男は口の端を上げながら言った。
「ほら、帰った帰った。お前らの勇気に免じて、金はとらないでやるから。…頑張れよ。」
そういって、医者の男は半ば追い出すようにして2人を店の外に出した。
「なんか…いい人…だったのか?」
「ああ…多分…そうだろうな。」
びっくりしたことが起こりすぎて、ちょっと呆けたように言葉を紡ぐ2人。
「…取り敢えず、帰るか。」
「…ああ。」
特にやることもなかったので、さっさと帰ることに決めた2人。道はまだまだ、果てしなく長い。
そこから数日して、軽い運動くらいは出来るくらいに復活した愛機。早速倉央が武術を教えようとしたが、田里弥にまだ早いと止められた。だが、取り敢えず軽い運動から初めて、体力が着いてきたと思ったら段々負荷を上げていって武術を教え始めると言うことになった。
それから3週間程して、愛機の動きが大分良くなってきたのでそろそろ武術を教えることになった。
愛機は武術の面でも飲みこみが早く、3ヶ月ほどで武のほうは強いと自負している倉央がかなり本気を出して相手をしないと負けてしまうと言うほどにまでなった。
「いや…お前…本当に…強いな…。」
訓練を終えた倉央が息絶え絶えになっている横で、愛機も疲れている様子ではあるがまだまだ余裕そうだった。
「驚いた…。本当に、ここまで飲みこみが早いとは…。」田里弥も倉央の強さは知っていたので、かなり驚いた様子である。
更に、拾ったときは小枝のような細い手足だったのに、(今もまだまだ細くはあるが)健康的に肉も着いてきたし、体つきも良くなってきた。また、幸いだったのは、大きな傷やあざいつくかをのぞけばほぼ全ての細かい傷が数日のうちに治りきったことである。これにも2人は驚いた。それと、延びきった髪も短く切り、綺麗な着物も揃えてやったので、愛機本人が整った中性的な顔立ちをしていることもあり、普通にそこら辺を歩いていれば何処かの貴族のようだ。
そのこともあり、王翦軍にも何度かいったこともある愛機は、王翦軍の兵たちから「うちの軍のちっちゃいお貴族サマ」と呼ばれている。
その他にも、最初の頃は田里弥や倉央に付いて回ることが殆どだったのに最近は自分の意志で行動することが多くなったり、喋ることが多くなったり(たまにどこで覚えてきたんだそんな言葉みたいなことも喋る)、最初の頃とくらべたら変化は明らかである。
そこから数日後…
何度か目の王翦軍にいった愛機。いつもと同じように適当に鍛練しつつ、たまに通りかかる兵たちから「よう、お貴族サマ!」などといわれて頭を撫でられたりしながら時間を潰していると、急に回りが静かになったので愛機が周りを見渡すと、明らかに異なる雰囲気を纏う大男2人が愛機の前に立っていた。愛機も背は伸びたのだが、それでも精一杯見上げないと顔が見えない。
それほどに大きかった。
「お前が愛機と言うものか?」
右の、口元に傷がある男が言った。
愛機が頷くと、左の糸目の男が
「ほう、その年でその目の力強さ…。この麻光に怯まぬか。これは将来有望かもしれん。」と、口角を上げながらいった。
すると後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。
「亜光三千将!麻光三千将!ご無礼をお許しください!」田里弥と倉央だった。2人は跪いて拝手しながらそう言った。愛機が疑問に思っていると、倉央が小声で(愛機も片膝つけ!)といってきたので、取り敢えずその通りにしたが、麻光が「よい、よい。立って話を聞いてくれるか。只でさえある身長差がさらに開いてお主らを見辛くてかなわん。」と言ったので、3人は立って亜光と麻光の話を聞くことにした。「実は王翦様直々に仰せつかってな?愛機と言う名前の子供が王翦軍に来ているので見てこいと。我々としては遠くから少し様子を見るだけのつもりだったのだがなあ。これが思ったより鍛練しているときの動きが興味深くてな。つい出てきてしまった。なあ、亜光?」
「ああ、そうだ。」
麻光は弁舌だが、亜光は寡黙な人物なようである。
「まあ、そういうことだ。別にこやつを連れ去ったりはせんから安心しろ。田里弥とやらと、倉央とやら。」
「!?」
「なっ…名前を!?」
「ふっ、想像していた通りの反応だな。その子供をつれてきたものたちとして、お前たちの名前も王翦様に教えてもらったのだ。」
「あわあっ、すみません。」
「よいよい。お前のようなものは見ていて飽きない。…では、俺達はそろそろ失礼する。これからも精進するのだぞ。」「「ハハッ!!」」 田里弥と倉央は、拝手しながら2人を見送った。姿が見えないくらいになると、
倉央が地面にへたり込んだ。「まっ、まさか亜光三千将と麻光三千将直々に様子を見に来て下さったとは…。」
田里弥も驚いて言葉が出ないと言うような感じである。
「愛機お前、我らが大将に名前を覚えられたとか、何したんだ?」と倉央が愛機に聞くが、愛機自身も「いや、別に何も…。」と、ただ普段通り過ごしていただけなのでなぜ、いかにも偉そうな2人が来たのか全くわからなかった。
そしてそこから数年後、幸か不幸か運命の分岐点とも言えるような出来事が3人に舞い降りるのである。