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⚠︎ATTENTION!⚠︎
・ファンタジーマニアが新伝綺小説を目指して書いた謎ジャンル(ホラー風味)です。
・TYPE-MOON系列の新伝綺作品(Fate・月姫・空の境界など)のパロディ・リスペクト要素が含まれます。
・嘔吐シーンや死体などのショッキング描写が含まれます。
・なんでも許せる方のみお進み下さい。

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黑祓隊、夜闇を廻れ

#4

第壱章 『夏、満月、“異常”に出逢う』 -肆-

 どくどくとエキタイが流れ続ける音だけが響く。境内の中、どうにも治療薬とやらが見つからないらしい少年の、悲痛な叫びが耳を劈いた。

「てか、これでこの人死んじゃったら副長のせいですからね!!」
「知らん。」
「知らんじゃないですってぇ!!」

 正直、頸の痛みよりこっちの方がよっぽど嫌だ。相変わらずの『俯瞰』で、俺は俺をそう思う。
 だが少年の手によってばしゃりと掛けられた謎の液体___彼曰く、治療薬___の効力は確かで、どうやら出血は止まったらしい。少年は、『うわ、ココもグジュグジュになってんじゃん……』と呟きながら、俺自身すっかり忘れていたヒトガタにやられた跡も治療していく。

「コレでよし、と。失った血は戻らないけど……まぁギリギリ死なないっしょ。タブン。」

 少年はそう言って、パンパンと軽く砂埃を払う。静謐に戻った境内で、妙に大きく響いて聞こえた。ここで何かを祈る時にも、似たような動きが使われるからだろうか。
 地面に置いていたらしい日本弓をそっとひと撫ですると、それは見る間に弓としての、更に言えば武器としての形すら失って、完全な球体になった。それをポケットにポンと放り込み、彼は俺に手を差し出す。

「さぁて、と。ホラ、立って立って。俺が安全なトコまで送ってあげるからさぁ。」

 俺が一歩も動かないのを見て、『いや、あの出血量じゃ立てないかぁ』と一人納得したように頷く少年。
 だが生憎、俺が動かないのはそっちがメインじゃない。

「送ってもらう必要はない。もう少しすれば自分で歩いて帰れる。それよりも___」

 一瞬の静寂。木々も、蝉も、鴉も、蚊も、今だけは完全に無音だった。

 俺はもう逡巡なんてしない。この屈託なく笑う少年に、あの鋭利な視線の少女に、助けられたなんて思えない。

「あんたたちが何なのか、俺が見たバケモノが何なのか、それを教えてくれよ。」

 わぁお、そう来たかぁ……と、どこか呆れたように肩を竦める少年。世界が歪む。音が戻る。
 真っ直ぐに少年を見つめると、着物と同じ黄色い光が俺を冷徹に見返していた。彼は俺からすぐに目を逸らし、少女に向き直る。

「んで、副長?どーすんのこの人。」
「どうも何もない。元の場所に返して来い。」
「はいはい、ペットみたいに言わないでねぇ。」

 脱力するやりとりとは対照的な、俺を冷静に値踏みする視線。
 あの少女が月の光のようだとするなら、彼はまるで蛇のようだ。あるいは猫。どっちも相手が油断した所を、一撃で絞め殺すタイプ。そんな少年は今、んー、と頭を掻きながらも俺を見据えている。

「えーっと、まず一つ。君が視たアレは『[漢字]咒妖[/漢字][ふりがな]のろいあやかし[/ふりがな]』___まぁ言うなれば悪いモノ、かなぁ。」

 ___君はもう、否が応でもアレについて聞く気なんでしょ?じゃあまずは、どう視えたか答えてもらうよ。

 のろいあやかし___口に出されただけでは、まだ漢字までは分からない。それでも、その凶々しい雰囲気を纏った一単語だけで、俺の好奇心は満たされていく。だがどうも、それだけに意識を取られている暇はないようだった。

 少年の、小首を傾げるたった[漢字]一動作[/漢字][ふりがな]ワンアクション[/ふりがな]だけで、『嘘なんて吐かせない』___そう、言外に脅されているような気がした。少年のテンションは尋問とは程遠いけれど、実際にはそれと大差ないように思える。
 シュルシュルと蟠を巻いて鎌首をもたげるような、獲物の前で舌舐めずりをするような、緩慢な動作。彼の目の奥の瞳孔が、縦にキュッと伸びた気がする。

「グロくて真っ黒で___目が沢山あった。あと手足?も沢山だな。あーゆーのって、もっとモヤモヤしてるもんだと思ってたけど。」

 だから、見えたままを素直に答える。そもそも俺は教えて貰おうとしている立場なんだ、極力相手には正直にいく事にしよう。詳細に見た目を語った。口が縦だった事、辛うじてヒトガタに見えなくもなかった事、液体が垂れていても地面を汚していなかった事、その他___俺が見たもの全てを、出来うる限りで詳細に。
 すると少年は、あーともうーともつかない奇妙な声を上げながら頭を抱えた。

「あー、バッチリ視えちゃってるじゃん……泣きそう……ねぇ副長、コレはさすがに教えちゃった方が良いってばぁ……」

 ふにゃりと抜けた声から一転、『だってその方が、まだムダがないと思うよぉ?』と、帰り掛けのポニーテールの背中に静かに呼びかける。
 一瞬、ピクリと肩が動いた気がした。だが、彼女はやはり揺れない。迷わない。足を止める事もなく、たった一言だけを言い捨てて歩き去る。風もないのに、長い髪が大きく揺れていた。

「___もう良い。オマエたちには何を言っても無駄だ。」

 それはこれまでで一番、冷淡な響きだった。

 俺を論理で切り裂いた時とも違う、俺を殺すと宣言した時とも違う。やっぱり相変わらず無機質で刀のようで、それでいて___今までより更に群を抜いた、圧。空間の占有率が違う気すらする。

 彼女だけは、別の___一つ上の世界にいるようだった。
 この弱くて脆い世界に、彼女が刻み込まれていく。

 彼女が歩き去った跡の空間に、もはや彼女が存在していないのがおかしい___俺はその時、間違いなくそう感じた。
 もちろん絶対にあり得ない。歩き去っているのだから、留まっているはずはない。だからそれは、紛れもない錯覚だ。だがその存在感は、そのまま擬似的な重力になって俺の両肩に乗っていた。膝を突きたくなるような強さで、訳もなく叫び出したくなる恐慌を伴って。

 凪いでいた風が一気に強くなる。もはや夏だとは思えない程に冷たい、身を斬るような鋭利な風だ。

 あぁ、あぁ、あぁ!

 そうだ、これだ。これだよ。これこそが___俺が求める境界の、更に遠くに立つ者としての、何よりの証左!!

 もっと知りたい、もっと、もっと、もっと___この透明な殺気を浴びて、この絶望的な重力に押し潰されて、そして___


 ___そして彼女に、殺されたい。


 一瞬___その一瞬だけ、そんな倒錯した願望が胸を満たした。でもきっと本来の俺にとっては、それこそが自然な流れなんだ。今の俺じゃまだ、完全にそこまで辿り着けていないだけで。

 体が震える。だがそれは、今までと違って恐怖じゃない。ドクンと僅か一拍、皮膚の下を突き破るような脈動に付けるべき名前を探して、思い当たるものがたった一つ。これは___興奮? 分からない。ただ心臓が軋む。そのくせ体は妙に軽い。足りないはずの血液が、十二分に頭に回る。それでも何も分からない。でもそれすらも理解したい、ただただ理解し尽くしたい。

 そんな俺の事なんてお構いなしに、月の向こうを掴むようにして、彼女は空にかき消えた。後にはただ、「シャラン」と、お面の鈴の、涼やかな音だけを残して。彼女のいない境内は、こんなにも広かったらしい。胸腔が虚しさでいっぱいになる。誰もいない空間に、彼女の足跡だけが残る。少年が、俺の背を軽く叩く。

「やっりぃ!コレ教えてイイってコトだよね、タブン!!」

 あの重みを浴びてなお、テンションを変えずにガッツポーズをとった少年。不自然な、不相応な、場違いなまでの明るさ。
 その勢いに、思わず俺まで口角が上がる。知る事を許された実感が湧く。胸の奥で何かが弾ける。奥底から別人に変わっていくような、暴力的で爆発的な[漢字]生[/漢字][ふりがな]正[/ふりがな]の衝動。それは歓喜で、それは安堵で、それは感動で、でもそのどれでもないような気もする。
 言い表わす言葉が見つからない。もし見つけてしまえば、それはそれで何もかもが嘘になりそうで___この感情に、名前を与えてしまう事そのものに嫌悪感を抱いた。呼応するように、木々が騒めいた。

 改めて、少年に向き直る。さっきまでの捕食者のような気配は鳴りを潜めて、今はもうただの一般人同様にしか見えない。ただ俺を見据える黄色の瞳だけは___ともすれば、彼が副長と呼んだあの少女より___よほど、冷徹だった。

 月の光とはまた違う、彼だけの色彩。風のように、蛇のように、猫のように掴みどころのない、それでいて、どうしようもなく人を魅了するような___そんな[漢字]彩[/漢字][ふりがな]イロ[/ふりがな]を抑え込むように、少年はゆっくりと目を瞑る。

「ソレじゃ、早速自己紹介ね。俺は[漢字]白星[/漢字][ふりがな]しろぼし[/ふりがな] [漢字]御宙[/漢字][ふりがな]みそら[/ふりがな]、特技とかそーゆーのはあんまナイんで、まぁ期待せずテキトーにシクヨロぉ。」

 そう言いながら、少年___白星は、彼女が俺を殺し損なった原因を拾って、緩やかに手の上で転がして、指先で玩んでいる。
 それでも白星はにこにこヘラヘラと、表情だけは屈託なく笑って、俺に向けてそう言った。

 彼は今も、確実に一般的なモノよりも遥かに殺傷能力のあるそれを、鏃の部分にやたらと冷たい気配を孕むそれを、気軽に、気楽に弄り回している。屈託ない笑い顔とは無関係で、無軌道で___それでも俺は何もせず、脆いガラス張りの床での陽気なタップダンスを眺めていた。

 ペンのようにクルクルと回したかと思えば、ジャグリングのようにポンポンと投げ上げてみたり、拾った木の枝のようにブンブンと振り回してみたり。あまりに良く動くので、壊れた時計の針のようだ___なんて単語がふと脳をよぎる。
 力みも迷いも、ましてや“普通”ではあり得ないような凶器を廻している気負いすらも、彼には無いように見えた。
 風のように流れる動きの絡繰を知ろうと眺めていると、ひょいひょいと立つように促される。

 つられて性急に腰を上げると、唐突な目眩で辺りが昏くなる。臍の緒からひっくり返るような、現実に回帰する感覚。勢いだけで立った足は、俺の意思や熱とは関係なしに地面に沈む。膝を折らざるを得ない。紛れもなく論理的な___現実の重みだ。つまり、貧血。

「……悪いけど、やっぱ送ってもらえるか。」
「いやぁマジかぁ。そんな状況であの大口かぁ。大概だねお前、イカれてんだか強いんだか。」
「どっちだって良い。」
「そう? けど___俺は案外嫌いじゃないよぉ、そーゆーの。」

 ヘラヘラと笑ったまま彼が口に出したのは、『正直、ただの知りたがりだったら副長じゃなくても俺が片してた』というやや物騒な言葉。そんな裏事情を明かされても、俺は全く嬉しくない。俺が知りたいのはそれじゃない。
 沈黙が辺りを包む。どこまで触れて良いのか、探り合っているような感覚。そして___その包装紙を破ったのは、俺の方だった。

「___今殺さないなら別に良い。だから色々聞かせてくれないか。何でもいい、あんたたちの事が知りたい。」
「食い付きはっや。んじゃ、まぁ……その格好で家帰すワケにもいかないし、とりあえず着いてきてくんねぇ?」

 ひょいと白星は俺を背負う。白星が立ち上がると同時に、ざわざわと木々が鳴いた。俺たちを送り出しているようだった。
 病的なほど細い彼の体にこんな力が、と、俺は少しだけ驚いた。べっとりとついた腐った体液と血とゲロで汚れた甚兵衛が、彼の背中と合わさって、グチャリ、ニチャリ、と嫌な音を立てる。
 不快じゃないのか、と聞いてみるが、『慣れてるからねぇ』と、何とも言えないような返答が帰ってきた。同時に、慣れてるって問題じゃないだろ、とも内心で思ったが___ここで仮に『じゃあ歩いてね』とか言われると俺も困る。これもある意味、あの少女が嫌った“余分”だ。ただし、今回は俺じゃなくて彼の。

「どこに行くんだ?」
「拠点的なモノ? 一応組織なんだよぉ、俺ら。どうせアンタは名前とか聞くだろうから先に言っとくと、“[漢字]黑祓隊[/漢字][ふりがな]くろはらえたい[/ふりがな]”ね。」

 『黑祓隊』___当然のように、聞いた事のない名だった。それでも、なぜかほんの少しだけ懐かしかった。
 とは言えあまりにあっさり俺の疑問に答えるものだから、『まさか、思考が読まれて___』と少しだけボケてみると、『いやぁ、そーゆーのイイから。』と笑いながら返される。

 そんな良くある会話をしながらも、月の方向に向けて真っ直ぐ、俺を背負ったままに白星は歩いていく。
 そして___先程まで指先で玩んでいた矢を、空間に差すように動かした。ジジジ、と何かが歪む音がした。

 あぁ、“異常”の音だ。

 突如として目が眩む。だが、先程の貧血とはまた違う感覚だ。骨が軋む。皮膚の下の心の臓が、だんだんと躍動し始める。一瞬肋骨を突き破るかと錯覚したが___生憎、さすがにそこまでパワフルでは無かったらしい。

 そうして、気づいた時には___神社の境内に、人ひとり分ぐらいの裂け目が出来上がっていた。
 空気中にぽっかりと空いた、異界への入り口。息を呑む。また少し躍動が速くなる。身体中が熱に浮かされて、好奇心が暴れ出す。

「準備はオッケー?えっと___」
「当然だろ。」

 ___あと俺は神嵜宵瓈な、宵瓈でいいよ。そう答えると、白星は一瞬だけ目を見開いた___そんな気がした。背負われている俺には彼の顔が見えないから、あくまでも直感だ。

 一歩、白星が踏み出す。神社の境内が見えなくなっていく。異界の先に見えたのは、意外にも俺の知るこの街とあまり変わらない建物群だった。ただ奥の方に大きな大きな塔が見えて、あれは間違いなく俺の街にはないな、と、乖離していく感覚に身を委ねた。

 あぁ、自分の足で歩けないのがもどかしい。この異界を、自分で踏み締めて歩きたかった。この異界を、自分のスピードで目に焼き付けたかった。

 木々のざわめき、蝉の鳴き声、鴉の食事、蚊の羽音。夏の喧騒が少しずつ少しずつ、遠くに離れていった。

作者メッセージ

ここまで読んでくださっているもはや神様のような皆さんはそろそろお気づきだと思われますが。

宵瓈はどうしようもない変態です。

ただし良識はあります。

2025/11/24 10:26

Ruka(るか)
ID:≫ 6plUcmQRaF.2Y
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