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夜の桜は散る運命にある

#11

10. 9.27

 ついに私の誕生日が来た。
 琴葉の一件から、私たちには何もなかった。

「……ねぇ、晴」

 晴の服の裾を握る。
 少し怪訝な表情で晴が振り返った。

 ——今日が終わったら、私はまた、普通の女子高生に戻れるんだよね?

 そう、聞こうと思った。
 でも、わからないって言われたら?
 戻れないって言われたら?

 7日間の疲れが、思考をマイナスに持っていく。

「……夜桜?」
「え? あ……うん。ごめん、なんでもない」
「大丈夫? 天音ちゃん、いつでも休んでいいからね」

 琴葉の言葉に甘えて、私は境内にある和風ベンチ(あとで調べたら縁台というものだった)に座る。

 長いようで短かった逃避行の末、私たち3人は家の近くの神社に来ていた。
 ここには結界が張ってある、とかなんとか晴が言っていた。
 だけど、夜の10時になると、結界が消えて化け物が襲ってくるらしい。

「前々から思ってたけど、晴はなんでそう言うことができるの?」

 一度聞いたことがあるけど、晴は困ったように眉尻を下げ、

「そういう家なんだ」

 と言うだけだった。

「天音ちゃん、大丈夫。これが終わったら、また普通の子に戻れるから。
 ……じゃ、あたしたち行ってくるね」

 そう言って、琴葉と晴は神社を出て行った。

 スマホの電源を入れ、時間を確認する。充電は残り7%だった。
 21:57。

 あと、3分。
 たった、3分。
 なのに、1秒1秒が永遠みたいに長く感じる。

 早く終わって欲しい。
 何度も、そう思った。


 目を覚ますと。目を覚ますと?
 辺りは騒然としながらも、さらに深い夜になっていた。

「今、何時⁉︎」

 再びスマホを起動させる。
 22:42。

「10時42分⁉︎」

 外、どうなってんの⁉︎
 寝起きで重たい頭のまま、獅子と狛犬を横目に神社を飛び出す。

「来るんじゃねえ! 離れてろ!」

 私に気づいた晴が怒鳴る。

「どうなってるの! 二人は大丈夫なの!」
「あたしたちなら大丈夫! 天音ちゃんはこっちに来ないで!」

 そんな琴葉の声に従い、踵を返したその時。

「え? ——きゃあああああああああ!」

 ガマガエルの舌が私の足首を巻き取り、引き寄せる。
 私はなすすべなく引きずられて行った。


 うっすらと目を開ける。
 まず視界に入ってきたのは、ガマガエルの顔。

「ギャアッ⁉︎」

 思わず悲鳴を上げる。
 よく見ると、そいつは今まで見てきた巨大ガマガエルと少し違った。

 そいつは、体の形は人みたいだけど、手や足、首から上あたりはカエルの見た目だった。
 なんと言うか……獣人? カエルが獣でいいのかわからないけど。

「夜桜天音。いや……零月」

 そいつがそう呟いた。
 レイゲツ? どっかで聞いたことがあるような……。

「零月。お前は自信の役目をわかっているのか?」
「は? 役目? なにそれ。てか零月ってなに?」
「お前の本当の名だ。妖界の姫、零月」

 そこまで聞いて思い出した。
 この前見た夢だ。
 あの赤ちゃんが私だったんだ。

「零月。お前の役目は……妖界の王となることだ」

 ………………は?

 私が呆気に取られていることに構わず、そいつは話し続ける。

「お前は元来、妖界の王になるべくして生まれて来た。さあ、こちらに来い」

 その瞬間、私の頭の中でたくさんの人の顔がフラッシュバックした。

 親友の顔、部活の先輩の顔、先生の顔、中学の時の同級生の顔、お母さんの顔……。

 晴の顔、琴葉の顔。

「……嫌だ」
「そんなことは聞いていない。お前に抗う権利などないのだ。お前はこの世界で咲き誇る運命なんだ」

 そんなこと言われたって、嫌だ。
 やりたいことだってたくさんある。
 会いたい人だってたくさんいる。

 それを投げ出したくなんてない。
 そんな運命なんて、いらない。

「嫌だ。私は零月なんかじゃない、夜桜天音だ! そんな世界で咲き誇るぐらいなら、今まで生きてきた世界で散ってやる!」

 言い切った。
 今までの私じゃないくらい、大きな声が出た。

「——よく言ったな、夜桜。あとは俺らに任せろ」

 この一週間で、一番聞いた声がした。

2026/06/30 17:38

雨坂結侑
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和風ファンタジー陰陽師生贄

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