ついに私の誕生日が来た。
琴葉の一件から、私たちには何もなかった。
「……ねぇ、晴」
晴の服の裾を握る。
少し怪訝な表情で晴が振り返った。
——今日が終わったら、私はまた、普通の女子高生に戻れるんだよね?
そう、聞こうと思った。
でも、わからないって言われたら?
戻れないって言われたら?
7日間の疲れが、思考をマイナスに持っていく。
「……夜桜?」
「え? あ……うん。ごめん、なんでもない」
「大丈夫? 天音ちゃん、いつでも休んでいいからね」
琴葉の言葉に甘えて、私は境内にある和風ベンチ(あとで調べたら縁台というものだった)に座る。
長いようで短かった逃避行の末、私たち3人は家の近くの神社に来ていた。
ここには結界が張ってある、とかなんとか晴が言っていた。
だけど、夜の10時になると、結界が消えて化け物が襲ってくるらしい。
「前々から思ってたけど、晴はなんでそう言うことができるの?」
一度聞いたことがあるけど、晴は困ったように眉尻を下げ、
「そういう家なんだ」
と言うだけだった。
「天音ちゃん、大丈夫。これが終わったら、また普通の子に戻れるから。
……じゃ、あたしたち行ってくるね」
そう言って、琴葉と晴は神社を出て行った。
スマホの電源を入れ、時間を確認する。充電は残り7%だった。
21:57。
あと、3分。
たった、3分。
なのに、1秒1秒が永遠みたいに長く感じる。
早く終わって欲しい。
何度も、そう思った。
目を覚ますと。目を覚ますと?
辺りは騒然としながらも、さらに深い夜になっていた。
「今、何時⁉︎」
再びスマホを起動させる。
22:42。
「10時42分⁉︎」
外、どうなってんの⁉︎
寝起きで重たい頭のまま、獅子と狛犬を横目に神社を飛び出す。
「来るんじゃねえ! 離れてろ!」
私に気づいた晴が怒鳴る。
「どうなってるの! 二人は大丈夫なの!」
「あたしたちなら大丈夫! 天音ちゃんはこっちに来ないで!」
そんな琴葉の声に従い、踵を返したその時。
「え? ——きゃあああああああああ!」
ガマガエルの舌が私の足首を巻き取り、引き寄せる。
私はなすすべなく引きずられて行った。
うっすらと目を開ける。
まず視界に入ってきたのは、ガマガエルの顔。
「ギャアッ⁉︎」
思わず悲鳴を上げる。
よく見ると、そいつは今まで見てきた巨大ガマガエルと少し違った。
そいつは、体の形は人みたいだけど、手や足、首から上あたりはカエルの見た目だった。
なんと言うか……獣人? カエルが獣でいいのかわからないけど。
「夜桜天音。いや……零月」
そいつがそう呟いた。
レイゲツ? どっかで聞いたことがあるような……。
「零月。お前は自信の役目をわかっているのか?」
「は? 役目? なにそれ。てか零月ってなに?」
「お前の本当の名だ。妖界の姫、零月」
そこまで聞いて思い出した。
この前見た夢だ。
あの赤ちゃんが私だったんだ。
「零月。お前の役目は……妖界の王となることだ」
………………は?
私が呆気に取られていることに構わず、そいつは話し続ける。
「お前は元来、妖界の王になるべくして生まれて来た。さあ、こちらに来い」
その瞬間、私の頭の中でたくさんの人の顔がフラッシュバックした。
親友の顔、部活の先輩の顔、先生の顔、中学の時の同級生の顔、お母さんの顔……。
晴の顔、琴葉の顔。
「……嫌だ」
「そんなことは聞いていない。お前に抗う権利などないのだ。お前はこの世界で咲き誇る運命なんだ」
そんなこと言われたって、嫌だ。
やりたいことだってたくさんある。
会いたい人だってたくさんいる。
それを投げ出したくなんてない。
そんな運命なんて、いらない。
「嫌だ。私は零月なんかじゃない、夜桜天音だ! そんな世界で咲き誇るぐらいなら、今まで生きてきた世界で散ってやる!」
言い切った。
今までの私じゃないくらい、大きな声が出た。
「——よく言ったな、夜桜。あとは俺らに任せろ」
この一週間で、一番聞いた声がした。
琴葉の一件から、私たちには何もなかった。
「……ねぇ、晴」
晴の服の裾を握る。
少し怪訝な表情で晴が振り返った。
——今日が終わったら、私はまた、普通の女子高生に戻れるんだよね?
そう、聞こうと思った。
でも、わからないって言われたら?
戻れないって言われたら?
7日間の疲れが、思考をマイナスに持っていく。
「……夜桜?」
「え? あ……うん。ごめん、なんでもない」
「大丈夫? 天音ちゃん、いつでも休んでいいからね」
琴葉の言葉に甘えて、私は境内にある和風ベンチ(あとで調べたら縁台というものだった)に座る。
長いようで短かった逃避行の末、私たち3人は家の近くの神社に来ていた。
ここには結界が張ってある、とかなんとか晴が言っていた。
だけど、夜の10時になると、結界が消えて化け物が襲ってくるらしい。
「前々から思ってたけど、晴はなんでそう言うことができるの?」
一度聞いたことがあるけど、晴は困ったように眉尻を下げ、
「そういう家なんだ」
と言うだけだった。
「天音ちゃん、大丈夫。これが終わったら、また普通の子に戻れるから。
……じゃ、あたしたち行ってくるね」
そう言って、琴葉と晴は神社を出て行った。
スマホの電源を入れ、時間を確認する。充電は残り7%だった。
21:57。
あと、3分。
たった、3分。
なのに、1秒1秒が永遠みたいに長く感じる。
早く終わって欲しい。
何度も、そう思った。
目を覚ますと。目を覚ますと?
辺りは騒然としながらも、さらに深い夜になっていた。
「今、何時⁉︎」
再びスマホを起動させる。
22:42。
「10時42分⁉︎」
外、どうなってんの⁉︎
寝起きで重たい頭のまま、獅子と狛犬を横目に神社を飛び出す。
「来るんじゃねえ! 離れてろ!」
私に気づいた晴が怒鳴る。
「どうなってるの! 二人は大丈夫なの!」
「あたしたちなら大丈夫! 天音ちゃんはこっちに来ないで!」
そんな琴葉の声に従い、踵を返したその時。
「え? ——きゃあああああああああ!」
ガマガエルの舌が私の足首を巻き取り、引き寄せる。
私はなすすべなく引きずられて行った。
うっすらと目を開ける。
まず視界に入ってきたのは、ガマガエルの顔。
「ギャアッ⁉︎」
思わず悲鳴を上げる。
よく見ると、そいつは今まで見てきた巨大ガマガエルと少し違った。
そいつは、体の形は人みたいだけど、手や足、首から上あたりはカエルの見た目だった。
なんと言うか……獣人? カエルが獣でいいのかわからないけど。
「夜桜天音。いや……零月」
そいつがそう呟いた。
レイゲツ? どっかで聞いたことがあるような……。
「零月。お前は自信の役目をわかっているのか?」
「は? 役目? なにそれ。てか零月ってなに?」
「お前の本当の名だ。妖界の姫、零月」
そこまで聞いて思い出した。
この前見た夢だ。
あの赤ちゃんが私だったんだ。
「零月。お前の役目は……妖界の王となることだ」
………………は?
私が呆気に取られていることに構わず、そいつは話し続ける。
「お前は元来、妖界の王になるべくして生まれて来た。さあ、こちらに来い」
その瞬間、私の頭の中でたくさんの人の顔がフラッシュバックした。
親友の顔、部活の先輩の顔、先生の顔、中学の時の同級生の顔、お母さんの顔……。
晴の顔、琴葉の顔。
「……嫌だ」
「そんなことは聞いていない。お前に抗う権利などないのだ。お前はこの世界で咲き誇る運命なんだ」
そんなこと言われたって、嫌だ。
やりたいことだってたくさんある。
会いたい人だってたくさんいる。
それを投げ出したくなんてない。
そんな運命なんて、いらない。
「嫌だ。私は零月なんかじゃない、夜桜天音だ! そんな世界で咲き誇るぐらいなら、今まで生きてきた世界で散ってやる!」
言い切った。
今までの私じゃないくらい、大きな声が出た。
「——よく言ったな、夜桜。あとは俺らに任せろ」
この一週間で、一番聞いた声がした。