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夜の桜は散る運命にある

#7

6.

 気がついた瞬間、「これは夢だ」ってわかった。
 なんでかって言われたらなんとも言えない。
 強いて言えば、周りが暗い。さっきまではこんなに暗くなかった。

 私がいるのは商店街じゃなく、どこかわからない獣道になっていた。
 足音に気付き、向こうを見ると、誰かがこちらに来る。
 近づくにつれ、それが大人の男性で、寝ている小さな赤ちゃんがいることもわかった。

「これが向こうの姫、[太字][漢字]零月[/漢字][ふりがな]れいげつ[/ふりがな][/太字]……。やっと手に入れた」

 レイゲツ、と聞いた時、何か違和感を覚えた。
 既視感というか、デジャヴというか……。
 彼に聞いてみようと思い、足を踏みだそうとする。

 が、体が動かなかった。
 普通、夢で自分が動けないなんてことない。
 直感で、普通の夢じゃないことを感じた。

 そのとき、眠っていた赤ちゃんが、薄く目を開く。
 知らない場所なのだろうか。大きな声で泣き始めた。

「あっ⁉︎ こら、泣きやめ。誰にも見つかるわけにはいかないんだ」

 男が慌て始める。
 次の瞬間、私は信じられないものを見た。

 赤ちゃんが、アスファルトに落ちていた。
 ずっと見ていたけど、落ちる瞬間はわからなかった。
 まるで、最初から地面で寝ていたように。

 落ちる音だけ、大きく響いた。
 相当痛かったらしく、赤ちゃんは更に大きな声で泣き喚く。

「今、俺は何も……うわぁあぁあ!」

 彼は[漢字]狼狽[/漢字][ふりがな]うろた[/ふりがな]え、腰を抜かす。
 男は叫びながら、今来た道を走って行った。

「ちょっと! 待って!」

 私は呼び止めようとしたけど、言葉にならなかった。

 しばらく何も起こらず、ただ景色を見ていた。
 風が草を揺らす音と、遠くから虫の鳴き声が聞こえてくる。
 赤ちゃんはずっと泣いていたが、しばらくすると泣き止んで眠ってしまった。

 どれだけそうしていただろうか。向こうから人影が見えてきた。
 それは、だんだんと私——というより赤ちゃんだろう——に近づいていく。

「あれ、何か落ちて……。赤ちゃん?」

 そう言いながら赤ちゃんに駆け寄る人を見る。
 女性だとはわかったが、顔はぼやけてよく見えない。
 声がどこかで聞いたことがある気がするんだけど……。
 どこか懐かしさを感じる声だった。
 まるで、毎日聞いている声みたいだ。

「大変! 風邪引いたら……。明日警察に届けましょう」

 彼女は赤ちゃんを抱いて去って行った。

 結局誰だったんだろう。私は何を見せられたんだろうか。

 そう思ったところで、私の意識は現実へと昇って行った。

[水平線]

 目が覚めると、私は空を見ていた。
 どこまでも青い、澄み切った空だった。

 私は、琴葉と最初に会った公園にいた。
 でも、どこか違う。
 ベンチが歪んでいる。
 全体的に色彩がくすんで色褪せていた。

 近くに誰かがいるっぽい。
 晴かな。2人とも無事かな。

 横を見ると、琴葉の顔があった。
 でも、晴はいない。

「……あれ。天音ちゃん、起きたんだ」

 琴葉が私を見て言う。
 その声を聞いて、どきりとした。
 冷たくて、機械的な声。
 人間味を感じさせない声だった。

「……は、晴は?」
「晴くん? ……さぁ。今頃あたしたちを探して駆け回ってるんじゃない?」

 え? どういうこと?
 琴葉が大きくため息をつく。

「まだわからない? 天音ちゃん、あたしは迎えにきたんだよ。向こう側から」

 空の色が、濁って見えた。

2026/03/24 13:00

雨坂結侑
ID:≫ 0pdtWgWyzpc/U
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和風ファンタジー陰陽師生贄

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