「迎えに……?」
琴葉の言っていることが信じられない。
信じたくない。
「そう。迎えに」
「琴葉が……? なんで……?」
琴葉はまた大きくため息をつく。
「ほんとにごめんだけど、琴葉って本当の名前じゃないんだよね」
琴葉は空を見上げる。
「いや、もちろん琴葉ってのも気に入ってたんだけど。本当の名前は——[漢字]依吹[/漢字][ふりがな]いぶき[/ふりがな]」
琴葉——いや、依吹はそう言った。
「……ごめんね? これがあたしの本職だから、恨まないでね?」
依吹はそう言って、綺麗に笑った。
美しいんだけど、どこまでも儚く、悲しそうな笑顔。
「本職ってどう言うこと? 晴の従姉妹じゃないの?」
「あぁ、それはあたしが晴くんの記憶を書き換えておいたの」
「ガマガエルが琴葉を無視したのも」
「あー、あれは同類だから襲われなかったけど、ちょっとビビったね。バレるかもって」
あくまでも淡々と答える琴葉は、感情のない人形やロボットみたいに見えた。
[水平線]
最初は、命令されたから。
名前を作って、守る人の記憶を書き換えて、時が来たら連れ去るくらいに思ってた。
でも、2人と過ごしてくうちに、スパイとしてダメな方向に行っちゃった。
任務として、2人に情なんて持っちゃだめなのに。
天音ちゃんに聞かれた時に気づいちゃったんだよね。
彼女をチラリと見る。
胸に鋭い痛みが走る。
——あたし、晴くんが好きなんだ。
[水平線]
「……ごめん、ごめん、ごめんなさい……‼︎」
琴葉が急に涙をこぼす。
嗚咽混じりの謝罪は、私から見た琴葉を人間らしく見せた。
「ごめんね、天音ちゃん。あたし、晴くんのこと、好きになっ、ちゃった、みたい」
しゃくりあげながらも琴葉はそう言う。
「もうダメなの。罪悪感で押し潰されちゃいそう。
だから——あたし消えるよ」
静かに、でもはっきりとした声だった。
消える⁉︎
心臓が早鐘を打つ。
「待って! 琴葉、お願い!」
「ううん、もういいの。あたしが責任取るよ」
「違う、そうじゃない!」
「好きな人の辛い顔とか、見たくないもん。あたしはこんなことできない」
会話が噛み合わない。
そうこうしているうちに、琴葉がゆらゆらと揺れる柔らかい光に包まれる。
輪郭がぼやけ、景色との境目がなくなっていく。
「待って! 本当にお願い! 琴葉ぁ!」
涙混じりに私が叫ぶ。
琴葉が微笑む。
口の動きだけで、小さく「ごめんね」と言っていた。
いや、やめて!
次の瞬間。
世界が止まった。
ガマガエルが飛びかかってきた時みたいに。
でも、今はあの時と少し違う。
今回は、何も聞こえない。
琴葉がこっちを見た。
今は、光に包まれるでもなく、ただ普通の琴葉だった。
「なに……これ。誰がやったの? 天音ちゃん?」
「わ、わかんないよ! でも多分……私」
「なんでよ。あたしが責任取るって言ってるじゃん」
「そう言う問題じゃないの! 私は、敵だとか関係なく、琴葉のことが大好きだから!」
琴葉の目が見開かれた。
「だから! 消えるなんて言わないで! 帰ってきてよ!」
その時、また音が戻ってきた。
草木が揺れる音があたりに響き、鳥が飛ぶ。
「あ、戻った? ごめん、天音ちゃん。もうこれ、止めらんないんだ」
「止められない……? ウソ! やめて!」
彼女の言う通り、また光が言葉を包んでいく。
私は呆然とその場に座り込んでしまう。
強い風が吹いた。
力強い足音が聞こえた、そのとき。
「[太字]勝手に消えんな‼︎[/太字]」
鋭い声。
振り向くと、晴が立っていた。
呼吸を乱して、額に大きな汗の粒を浮かべた晴が。
琴葉の言っていることが信じられない。
信じたくない。
「そう。迎えに」
「琴葉が……? なんで……?」
琴葉はまた大きくため息をつく。
「ほんとにごめんだけど、琴葉って本当の名前じゃないんだよね」
琴葉は空を見上げる。
「いや、もちろん琴葉ってのも気に入ってたんだけど。本当の名前は——[漢字]依吹[/漢字][ふりがな]いぶき[/ふりがな]」
琴葉——いや、依吹はそう言った。
「……ごめんね? これがあたしの本職だから、恨まないでね?」
依吹はそう言って、綺麗に笑った。
美しいんだけど、どこまでも儚く、悲しそうな笑顔。
「本職ってどう言うこと? 晴の従姉妹じゃないの?」
「あぁ、それはあたしが晴くんの記憶を書き換えておいたの」
「ガマガエルが琴葉を無視したのも」
「あー、あれは同類だから襲われなかったけど、ちょっとビビったね。バレるかもって」
あくまでも淡々と答える琴葉は、感情のない人形やロボットみたいに見えた。
[水平線]
最初は、命令されたから。
名前を作って、守る人の記憶を書き換えて、時が来たら連れ去るくらいに思ってた。
でも、2人と過ごしてくうちに、スパイとしてダメな方向に行っちゃった。
任務として、2人に情なんて持っちゃだめなのに。
天音ちゃんに聞かれた時に気づいちゃったんだよね。
彼女をチラリと見る。
胸に鋭い痛みが走る。
——あたし、晴くんが好きなんだ。
[水平線]
「……ごめん、ごめん、ごめんなさい……‼︎」
琴葉が急に涙をこぼす。
嗚咽混じりの謝罪は、私から見た琴葉を人間らしく見せた。
「ごめんね、天音ちゃん。あたし、晴くんのこと、好きになっ、ちゃった、みたい」
しゃくりあげながらも琴葉はそう言う。
「もうダメなの。罪悪感で押し潰されちゃいそう。
だから——あたし消えるよ」
静かに、でもはっきりとした声だった。
消える⁉︎
心臓が早鐘を打つ。
「待って! 琴葉、お願い!」
「ううん、もういいの。あたしが責任取るよ」
「違う、そうじゃない!」
「好きな人の辛い顔とか、見たくないもん。あたしはこんなことできない」
会話が噛み合わない。
そうこうしているうちに、琴葉がゆらゆらと揺れる柔らかい光に包まれる。
輪郭がぼやけ、景色との境目がなくなっていく。
「待って! 本当にお願い! 琴葉ぁ!」
涙混じりに私が叫ぶ。
琴葉が微笑む。
口の動きだけで、小さく「ごめんね」と言っていた。
いや、やめて!
次の瞬間。
世界が止まった。
ガマガエルが飛びかかってきた時みたいに。
でも、今はあの時と少し違う。
今回は、何も聞こえない。
琴葉がこっちを見た。
今は、光に包まれるでもなく、ただ普通の琴葉だった。
「なに……これ。誰がやったの? 天音ちゃん?」
「わ、わかんないよ! でも多分……私」
「なんでよ。あたしが責任取るって言ってるじゃん」
「そう言う問題じゃないの! 私は、敵だとか関係なく、琴葉のことが大好きだから!」
琴葉の目が見開かれた。
「だから! 消えるなんて言わないで! 帰ってきてよ!」
その時、また音が戻ってきた。
草木が揺れる音があたりに響き、鳥が飛ぶ。
「あ、戻った? ごめん、天音ちゃん。もうこれ、止めらんないんだ」
「止められない……? ウソ! やめて!」
彼女の言う通り、また光が言葉を包んでいく。
私は呆然とその場に座り込んでしまう。
強い風が吹いた。
力強い足音が聞こえた、そのとき。
「[太字]勝手に消えんな‼︎[/太字]」
鋭い声。
振り向くと、晴が立っていた。
呼吸を乱して、額に大きな汗の粒を浮かべた晴が。